閑話 私の歩む道 29 挿絵あり
諸君 私は女性が好きだ。
諸君 私は女性が好きだ。
諸君 私は女性が大好きだ!
春服が好きだ。
夏服が好きだ。
秋服が好きだ。
冬服が好きだ。
晴着が好きだ。
水着が好きだ。
厚底が好きだ。
厚着が好きだ。
コスプレが好きだ!
通学路で、道端で、スーパーで、コンビニで、ゲームセンターでお祭りで、海で、山で、川で、文化祭で!
この地上で行われるありとあらゆる、女性の行動が大好きだ!
通学路を制服を着た女学生が騒音のように、話し声を上げながら歩く姿が好きだ。
運動会の応援合戦で体操服の隙間から、チラッと腹やへそが覗く様なぞ心がおどる。
昼下がりのOLが間に合わないと、ヒールの低い靴で小走りに駆けていくのが好きだ。
野暮ったい男性上司の寒いギャグに、辛辣なツッコミをぶりっ子しながら入れる姿など胸がすくような気持ちだ!
プリーツスカートの裾をそろえた女学生の横隊が、先生の行く手を遮るのが好きだ。
初めて同棲の後輩が既に見知った先輩を意識して動揺して、自分の心と葛藤している様など感動すら覚える。
自身の心に気付き相手の事を秘めやかに思い、枕をひっそりと濡らす様などはもうたまらない。
泣き叫び愛を叫ぶ者を私が背後から抱き締めて、濡れた瞳と安堵の表情を独り占めするなど最高だ!
身も心も開放し好奇の視線など跳ね除けて、誰も立ち入れず互いが互いを慈しみ、好きだという気持ちだけで繋がった瞬間など絶頂すら覚える!
男に好きだった娘を幸せにされるのが好きだ。
必死に守るはずだった娘が男を連れてきて、この人と結婚すると言われる様はとてもとても悲しいが幸福なものだ。
特に意識する事もなく笑いかけられるのが好きだ。
男から女のお前では彼女を幸せに出来ない!と、叫ばれるのは屈辱の極みだ!
諸君、私は女性を、茨の道の様な同性との愛を望んでいる。
諸君、私に付き従う同じ志の諸君!
君達は一体何を望んでいる?
更なるプラトニックを望むか?
情け容赦のない糞の様な茨の道を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様なガールズラブを望むか?
『百合!プラトニック!ガールズラブ!プラトニックラブ!』
よろしいならば法律に則ろう!
我々は満身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ!
だがこの暗い闇の底で半世紀もの間、堪え続けてきた我々にただの事実婚ではもはや足りない!!
婚姻を!!
一心不乱の結婚する権利を!!
我らはわずかにしかいない無花果に過ぎない。
だが諸君は一騎当千の同士だと私は信仰している。
ならば我らは諸君と私、それにクロエ=ファーストとで無敵の軍集団となる!
我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう!
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよ!
連中に女性の強さ思い出させてやる!
連中に我々の気持ちを思い出させてやる!
天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない、女性同士の思いがあることを思い出させてやる!
機は熟した!我々は婚姻届けに同性の名を刻み、声高らかに役所に叩きつけて、正当な権利を主張して然る後に夫婦としてともに歩むとも!祝福しよう、その願いは叶うと。既に法はこっそりひっそり、新聞の端の端の小さな小さな記事に可決されたと書かれ、その効力は既に発揮されている!
ならば何も恐れる事はない。隣席する兵どもよ!闘う者達よ皆、陣を組みて列をなし在るがままに前へゆけ!約束の地は眼の前ぞ!
「夏目がまた変な事考えてるな。」
「まぁまぁ、今に始まった事ではないですから・・・。」
「別班の懐の深さを知った!まぁ、能力は高いんだけどね。」
「そう思うなら裕子、一晩付き合わないか?」
「付き合うって言ったらあからさまに狼狽えるでしょ?」
「はっはっはっ、想い人のいる娘を襲うほど飢えてはいないからな。」
穏やかな昼下り、駐屯地でここ半年で仲良くなった同じ穴のムジナ達と食事をする。うん、分かってる。この中で本当に女性が好きなのは私しかいない。そっちの気があるというのなら、小田と清水は薄い同族の匂いがするので分かるけど、井口は既にゴリラ赤峰と出来てしまっているので無いと言える。まぁ、両刀と言う事を考えれば芽がない訳ではないけど、そんな娘を襲うほど私も落ちぶれてはいないし、今の空気が心地良いので壊したくもない。
「まぁ、それはいいとして最後に残った夏目は大会に出るのか?一応、まだ猶予は残っているが。」
「さて、どうしたものかな。そろそろ気合と根性で止めた足を踏み出そうかと思っている。」
「?」
「??」
「・・・夏目、気合と根性で何を止めた?」
「至る歩みを無理やり止めていた。」
それは卓を止める為に彼女を呼んだ時に言われた言葉。『自身を広げればなんでも制御出来る』と、そこからはただただ自分とは何か?私とは何か?私は一体何を望み何を制御すれば、形も分からない何かに至れるのか?何に抵抗し、何に変化を求め、どう制御すれば私の望む道を歩み進み、何物にも代え難い道を歩めるのか、その道程にはどんな苦難が有りそれに抵抗し、或いは変化を受け入れなければならないのか?
その自問自答の日々で職を使い出来る事を増やし、失った腕を無理やり遠隔制御して望む物はないかと探して探して、小さな肉片になった指先で、漸くそれに触れて見つける事も出来た。鑑定で確定したそれは不老薬。誰にも知られずに指輪にしまう私の秘密。多分、今の私では行く事の出来ない中層の奥の方だと思われる場所にそれはあった。そして、私の欠片はそれを見つけどうにかこうにか私自身の元まで持ってきてくれた。
「はぁ!?なんでまたそんな事を?てか、そんな事出来るの!?」
「落ち着け小春。何か任務上話せない事があったのか?いや、しかしよくできたなそんな事。」
「いや、まったく。単純に私が至ったら最後尾の人間がいなくなるだろう?それに、誤解を招くような言い方になるが、そんなに簡単に生涯を捧げるほどの決断は出来なかった。」
願いはあった。弱い女性達を・・・、虐げられた人々を助けたかった。それは私の性癖にも直結しているし、昔から男が好きではなかったので、生涯を捧げるに値するだけの価値はあった。まぁ、今の御時世、男は自分で頑張れというやつだ。少なくとも、真面目に仕事をしていれば女性より稼ぎはあるのだから、よほどの理由がないなら先ず、自分で動いてみてからだろう。
その願いは確かに延々と私の中にある。そして、生涯を捧げても全く持って問題ないライフワークでもある。しかし、それが私にブレーキをかけた。今回の講習会では皆何かしらの背景を持って参加して至る事を目指していたし。そして、卓と言う1号が出てからは更にその思いが全体で加速したが、加速したなら最後に残される者もある。
そう考えた時、どうにも私は1人先に行く事が出来なかった。行ってしまえば最後からコチラを見る目が私に刺さる。いや、私だけではないが、それでも羨望の眼差しが飛んでくる。そして、それをしたものは苦悩する。何故なのかと。どうしてなのかと。彼女が出来て、なぜ私は出来ていないのだと。
どうにもその視線は私には厳しすぎる。なら、手っ取り早く私は最後尾になればいい。そう、最後尾。講習会で最後の最後に至る事が私の目標で、それが出来ないなら至る云々より先ず踏み出さない。ゲートに入ればふとした拍子に先を目指したくなるけど、それは無理やり自身制御で押し止め、漸く最後尾になれた。
「それは・・・、まぁ、うん。簡単ではなかったさ。でも、それを望んで職という形で歩む事にしてしまった。小春や裕子も多分同じだ。」
「そうですね。私は人を、クロエさんを助けたい一心で至っちゃいましたからね。悩むより強制的と言うか、その道のきっかけがたまたまね、そこにあったと言うか・・・。」
「任務関係無しに私も思っちゃったからな・・・。」
井口の恋する、と言うか恋し終わった後の女性の顔で話す。いい顔だ。先には希望もあるだろうし、産まれるモノもあるだろう。いい事だ。こんな荒事をしているが、それでも芽生えて結ばれ産まれる子が居るというのはいい。まぁ、そんな本心は照れくさいので言わないけどね。
「ゴリラを支えたいと?」
「茶化さないで夏目。まぁ・・・、そうなんだけどね。吊り橋効果やら何やらあると思うけど、でも、命を投げ打って敵討ちして、生涯を決断する選択を目の前で魅せられたなら・・・。うん、私も応えたいって思っちゃった。」
「お熱い事だな。まぁ、それよりも夏目だ。食堂では何だ。場所を移そう。今の時間人が少ないとは言え0ではない。部屋にいこう。」
「夜に2人っきりでその誘いの言葉を聞きたかったな。」
「ジョークはよせ。」
軽くあしらわれるが本心だよ?私は君も君達の事も好いているのだからね。まぁ、普段からジョークを言っているので仕方ないか。清水達は守られるより守る側なのだから、私の事に腹を立てても仕方ない。それでも、私は私の行動を誤りだとは思わないけど。
4人で移動して間借りしている私の部屋へ。私が言うのも何だが殺風景で物は少なく、ミニマリストが好きそうな部屋になっている。根無し草のように各地を転々としていたので、自然と荷物は少なくなり、指輪に収納出来るようになってからは、更に外に出すものが減って、ここが前任者が出た直後の無人部屋だと言われても信じてもらえるだろう。
仮に生活感を感じるなら、机の上に活けた花くらいか。花屋で買ったわけでもなく、適当な瓶に野花を活けただけの、何処かクラスメイトの死を連想させるそれだけが唯一の生活感。かわいい縫いぐるみとか好きなんだが、それを出すにはどうにも私のビジュアルはカッコいい寄りなので、かわいい娘達のイメージを崩したくない。
まぁ、この間借り部屋に誰かを連れ込む事なんてありえないのだが。それでも、不意の来客はあるのでこんな殺風景な部屋で過ごしている。かわいい娘達との密会は外でやるので、ここは本当に腰掛けのような部屋だ。そんな部屋に仲間を入れて適当に座ってもらう。冷蔵庫もないので、適当に指輪から缶コーヒーを出して振る舞い、一息ついて口を開く。
「それで、七海はすぐに至れるんですか?」
「ん〜、感覚としては多分行けると思う。ただ、初めての事なんで本当に直ぐかは分からないな。」
「それに、ちょっとこの役得を捨てるのも惜しいと思っている。」
「役得?」
「うむ、彼女とのマンツーマンレッスン。人が多ければそれだけ視線は分散するけど、今の状態だとよく見て貰えるからね。」
講習会当初は助言役。今もそれは変わらないけど、最後尾になって目移りしていた目が私にも止まるようになった。まぁ、忙しい人だ。助言に政府関係者との話し合いに、米国からの来客対応。日々ゲート内での訓練対応と手探りでしかないのによくやると思う。そんな彼女に貰った助言は最初の言葉が、実はこの職の肝であり本質なのではないかと思う。
色々気付く事はあるけど、最初に何に気付いたかというのはイメージを作る上で大切で、仮にこれが自身制御ではなく、炎に抵抗すれば効かないよ?とでも言われていたなら、私はここまで自身を操る事は出来なかっただろう。
「それはそれで、最後尾も羨ましいなぁ。」
「融和路線は取ってますけど、私達の方が組織から外されそうですからね・・・。」
「まぁ、私は気が楽になると言えば、気が楽になるけどね。簡単かは知らないけど育休とか取りやすそうだし。」
「別班から・・・と、言うか自衛隊からの表向き放逐か。繋がりはあるとして、本部長になるなら両組織の橋渡しだから片方の組織に余り肩入れするなってあれね。警察側もその路線なんでしょ?七海はなにか聞いてる?」
「誰から聞いても多分同じだろうが、その通りだよ。ギルドは警察と自衛隊両方の中間組織で、民間も入れるから何処かに肩入れしだすとすぐに批判が来る。いい事だね。」
八方美人の様な言い回しだけど、彼女が打ち出した立場表明は私としては好ましい。それは、公務員とか民間とか戦えるとか、戦えないとか関係なく立場を超えて仕事を割り振りし易い組織だ。1号なのに第5と付く彼女の本部長舎設計図に書き込まれた図面には育児施設や託児所、他にも女性が欲しいと思うような施設名が数点あった。
元男性と聞いているけど、外見は女性で元の姿の写真は絶対見ないと心に決めているので、私の中では彼女は女性。そんな彼女が女性の事を思って動いてくれるなら、これ程嬉しい事もない。だからこそ、悩む事もまたある。どんなに時が経とうとも、この世に男性と女性がいなくなる事はない。そして私は女性が好きで守りたい。ゲートがなくならない事も彼女は既に示唆し、本人も多分それを示唆すると言う事は永遠なのだろう。
だから悩む。飲んで歩んでしまっていいのかと。望田さんと彼女と私とで話した雑談で不老の薬がいいと言われ、それが幸運にも私の指輪には入っている。だからこそ悩む。これは多分、私の至る為の最後の最後のピースで飲めば引き返せない道を歩き出す事になる。まぁ、だから頭の中であんな太った少佐の演説が流れていた訳だけど・・・。
「まぁ、その本部長に中位はなるとして夏目はどうする?気合と根性で止めれるなら、そのまま下位で私達の所で新人教育する路線もあるけど。」
「気心知れてるから頼みやすさはあるし、その路線は歓迎できるなぁ。何より強いし。」
「ある意味反則だからなぁ。新人イビリを見て至った私よりも教育力はありそうだしな。」
「はっはっはっ、頼ってくれて嬉しいよ。駄賃は一晩一緒に過ごす事と教育相手は女性限定だね。それ以外は飲めない。まぁ、本当にそろそろ至るとするよ。」
頼られるのは嬉しい。私は世間的に言えばはみ出し者だからね。そんな私でもこうして仲間とよべる女性と共にいることが出来る。そりゃあ、マナーは守るし本当に嫌がるならしない。ただ、自然体でこうして話せて、変に批判を受けない今の居場所。それを守るためなら、うん、後の生も捧げる価値はあるな。




