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街中ダンジョン  作者: フィノ
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102話 切符 挿絵あり

 また聞き慣れない職が出た。求道者って確か宗教関係の言葉だったよな?キリスト教と仏教で微妙に意味は違うけど、要は求める人の事だ。しかし、職に就いているのに求めるとはなんぞや?下位の職にそんな名前が出るのか?イメージしたとして、何が出来る職か全くイメージが湧かない。


 少なくとも職の名前は俺の中の語録からついているので、ある程度のイメージはできるし離れすぎる事もないと思う。まぁ、職に就いた後にイメージをこねくり回していればソレの限りではないが、少なくとも名前を聞けば概ね理解も解釈も分からないではない。しかし、求道者か。探求者なら学者とかで何かを解明する系の職だとイメージ出来るけどそうじゃないしな・・・。


『切符だよ。切符。』


『切符?』


 悩んでいると賢者が話しかけてきた。このタイミングという事は何かしら知っているのだろう。しかし、切符か。人の知識を勝手に共有して切符と言い出すと言う事は多分、イメージは違わない。違わないが、話してもらわないと確信も得られない。下手に齟齬が出ても困るしね。


『そう、切符。その道を行く切符。』


『その道を・・・、まさかエクストラへ至る切符なのか!?』


『当たらずも遠からず。切符だから途中下車も出来るし、願いや思いが変わればまた違うモノに至る可能性の切符。』


『雄二はエクストラに至れると?』


『可能性の切符だから辿り着けるかもしれないし、無理かもしれない。エクストラに至れるモノが全員その職に就く訳でもないし、最初からエクストラのモノもある。強いて言えば、ワイルドカードかな?組み合わせの枷から外れた不確定の切符。』


 ソーツの説明では特定の職の上位に就いて適性が上回るか、エクストラ適性がずば抜けて高いか、エクストラしか適性が無いかのどれかでエクストラに成れると言っていた。困るのは両方とも上位の必要性があるのか、片方だけ上位でもいいのか?そこに言及していない所だが今はそれではない。


 賢者の言うワイルドカードという事は、取り敢えず剣士の上位に成って適性が上回ればエクストラ職に就けると言う事だ。大変喜ばしい?事だとは思うがそのワイルドカードの求道者とは何が出来るのだろう?それは本人に聞けばいいとして。


『ワイルドカードは他にもあるのか?』


『さぁ?知らないけど、内容はあやふやだよ?求めるものによって変わるからね。』


 成って求めるのか、求めたから成るのか。卓は魔術師になった後にヒーローを目指した。しかし、雄二は元から剣士でその職に就いて先を求めた。道が出来たと思って良いのだろう。険しい道になりそうで、上位に至れるかも分からない道。しかし、本人がそれを目指したのなら後は進むしかない。


 しかし、求道者ってテレポート出来るの?ワープかも知れないけど、どちらにしろ歩く走るなんてしていない状態で急に現れたので、そんな感じの移動方法だと思うのだが。


「中位おめでとう!それで、求道者って何が出来るの?」


「ん〜、よくわかんないっす。道を探す職的な?一応、斬る事は出来るっすけどなんというか・・・、そう!結果です。あそこにいたモンスターは斬ってました。だから、自分が斬ったんです。多分、遠当ても出来るっすよ。」


 雄二は馬鹿ではないし説明ベタではない。しかし、今の説明だと何通りも可能性があるが。1つは未来の自分に今の自分が追い付くというタイムスリップ理論。時間を跳躍して少し先の斬った瞬間に追い付くというもの。それなら、さっきの動きもある程度納得できる。


 もう1つは事象の剪定。それすなわち、斬り殺した以外の未来を全て剪定して、結果としてモンスターは斬り殺されるというもの。恐ろしい事だが必ず当たる剣閃が生まれる剣の理。何せ当たる以外の結果を無くしているのだから必ず斬れる。ただ、それをするには相当にイメージが必要になる。


 そして最後は、過去に斬ったという逆算理論。過去に斬った結果が未来の自分に追いついて、追い付かれた自分が過去の行動をなぞれば結果として、今のモンスターは斬られた過去となる。ある意味事象の剪定よりいやらしく、未来の自分に重なるよりも質の悪い攻撃。過去とは確定している。その確定事項をなぞれば結果となる。過去に壺を割っていれば、今の壺も割れていると言う様に・・・。


 ん〜、他にもいくつか説明を付けようと思えば付けられるが、下手にその説明を本人に話せば納得してしまうかも知れない。それは多分やらない方がいい。本人が道を探す職と言うなら、発展途上なのだろう。


「雄二君は何を求めたんだい?」


「求めた・・・、宮藤さん。俺の場合剣以外ないんで剣士、今は剣術者ですけどその先を極めてみたいと思いました。そしたら、勝手に求道者になってたんすけど、大丈夫ですよね?それとクロエさんそろそろ離してください。」


「おっとすまない・・・。せっかく至ったんだ。バイトと慣らしに行ってくるといい。もうそろそろ出るから時間はあまりないけどね。」


「もうそんな時間っすか。今は38階層、今日中に40階層迄と思ったんすけど、時間ならしかたないっすね。ちょっと行ってきます。」


 そう言うと雄二はスルリと消えて、次は少し離れた場所でモンスターを斬っている。事象の剪定ではなく事象の選択と言う、確率理論的な物も出てくるな。自身から発生する未来を意識的に選択して思った通りの結果を引き寄せる。しかし、それは求道者っぽくないような・・・。まぁ、それよりも。


「宮藤さんいいですか?」


「・・・、何かやばめな事ですか?」


「アナキンがダース・ベイダーになるくらいのヤバさです。」


「ヤバいのは分かりますけど、微妙に伝わりづらいですね。」


 微妙かな?主人公が闇落ちしてラスボスに成ってるんだけど?まぁ、映画を知らないならしかたない。仕方ないなら話を進めよう。雄二の闇落ちとか考えたくないし。宮藤をしゃがませて耳打ちする。


「雄二が切符を得たようです。」


「切符・・・、このタイミングと言う事は上位ですか?」


「いえ、その先です。」


「まさか、エクストラですか!?」


「ええ、ワイルドカードらしいです。求道者というのは。しかし、あくまで切符なので途中下車上等、本人が諦めたり他の道を進もうとしたら多分至れません。」


 喜ばしいが同時に枷でもある。子供が思う親の敷いたレール、自分で考えて選んだはずなのだが、そのレールを外れると途端に先が見えなくなるような恐怖。酷な話だ・・・、願ったのは間違いないだろう。しかし、人は思い悩んでしまうのだからどこで心変わりするか分からない。初志貫徹というのは中々に難しいものだ。


「本人に伝えますか?その事実を。」


「・・・、いえ。伝えればエクストラを意識してしまう。多分、それは雄二に必要な事じゃない。仮に教えるなら、上位に至った後でしょう。強制して成る様なモノでもないですし。」


「そうですか・・・、なら見守りましょう。若いっていいですね。」


 年食ったように宮藤が雄二を眩しそうに見ながら言う。ジジ臭く老け込むにはまだ早いよ。俺からすれば宮藤も年下なので2人共変わらないように思う。まぁ、それでも人生経験の差はあるのだが。


「宮藤さんも若いですよ。」


「それはどちらとしての発言ですか?黒江 司なのか、クロエ=ファーストなのか。」


「同一人物ですね、戸籍上私は43のまま。美魔少女ですよ?」


「語呂悪いんでロリババあたりにして下さい。自分も飲もうかな若返りの薬。何だか達観し過ぎで自分でも歳を疑います。外見だけでも若返ればTシャツに短パンで走り回って若さを謳歌できる?」


  挿絵(By みてみん)


 何やら宮藤は若返りたいらしいが、その格好は今の季節寒いし虫取り少年をするにしても東京じゃ郊外にでも行かないとカブトムシとかいないだろう。うちの地元ならまだまだいたけどさ。でもまぁ。


「したいならすれば良いですよ。今の御時世、大人がそんな格好でも誰も変には思いません。大丈夫です。」


「今いった格好、夏のクロエさんですよ?」


「夏は暑いから薄着、冬は寒いから厚着。当然です。コーディネートはファッションデザイナーの娘なので間違いないはずです。」


 最近めっきり寒くなったので、ゲート外では厚着でモコモコ。コーディネートは娘がするので間違いはないだろう。きわどい下着も慣れると意外と快適だし、ヌーブラも慣れたしチューブトップの時はよく付けている。


「まぁ、外ではかなり厚着してますからね。さて、そろそろでましょうか?」


「ええ、さっきの話はオフレコです。本人に伝えず見守る方向で行きましょう。必要なら本部長ではなく、宮藤さんの補佐として雄二を回してもいい。」


「事が事ですけど、過保護です。見守るって言ったんですから見守って下さい。もし雄二君がそれを望むなら自分は構いませんけど、望まないなら自由にさせてあげましょう。」


「まぁ、そうですね。どうやら死んだと思った動揺が残っているようです。」


 そんな話をしていると、スルリと雄二が現れ脱出アイテムで外に出る。冬場なので17時と言えどあたりは暗く、地元よりこっちの方が寒い気がする。なので、とっとと指輪からコートを取り出して羽織る。


  挿絵(By みてみん)


「厶ッ、出てきたカ。最後だが何もなかったカ?」


「ええ、雄二が至った以外は特に何も。強いて言えば私がとちったくらいですね。」


「クロエがトチる?35階層以降はそれほど過酷だト?いヤ、怪我ハ!?」


「いえ。気を抜きすぎただけ、幸い雄二に助けられましたよ。」


「やっぱり次は私も付いていきましょう。歌人になって更に進化した私は鉄壁です。」


 望田が胸を張って、エマがペタぺタと身体を触る。触ってもいいが厚着しているので怪我は分からんだろう。遠くに見える卓と雄二はお互いに拳を合わせて笑い合っている。同じ位置についたことを健闘しあっているのだろう。いいコンビだ。さて、残りは数名大会の告知がまだ来ていないが、どうにかこうにか全員本部長と成れそうだが、告知までに至っていなければ大会に出てもらうしかない。


 流石にえこひいきはできないし、それをするなら最初から政府や千代田達に無責任に任せている。新たな懸念事項は雄二の職だが本人の説明以上は俺もする気はないし、切符の事は俺と宮藤の秘密として胸にしまっておこう。


「所で雄二君の第2職って何なんですか?」


「さぁ?本人もよく分かってないみたいだから、私も分からないかな。でもまぁ、至ったって事はそれなりに願いがあったんでしょう。」


「あ〜、第2職話すと何考えてるか推測しやすいから、言いづらい事もありますもんね。」


 そう言いながら望田も頷きながら雄二を見る。そんな訓練を終えてホテルに帰り数日。ゲートに潜る組と指導で回る組が半々となり、加納を筆頭に長期で各方面に呼ばれる人も出てきた。そして、到頭そのお声がかかってしまった。警視庁で千代田と顔を合わせて会議室で話し合う。大元の計画書と参加者の名簿、他開催方法が書かれている。試合のルール?問答無用のデスマッチですよ?まぁ、仮想なので本当に死にはしない。


「来年の2月に政府としては、開催の照準を合わせて動いています。クロエ=ファースト本部長。開催の元締めとして準備をお願いします。」


「自分で言い出した事です。分かりました、選出は済んでいるとして、優勝予想の賭けの金銭はギルド発足後、当面の運転資金源として使います。装置の最終調整は完了していますよね?」


「そちらの方は既に大会に参加しないスィーパーが試していますし、中位の方へも数名、協力要請を出して体験してもらって太鼓判ももらいました。」


 いない人達は教導訓練に行っていると思っていたらそんな事やってたのか。まぁ、大井も黒岩もやる気満々だったしこれが終われば俺も一段落。大会の打ち上げにみんなでお疲れ様会がてら騒いで、各都道府県に行ってもらうというのがベターだろう。妻が送ってくれる本部長舎の写真も、だいぶ建設が進み形となってきたし1年から1年半の建設期間が前倒しされるかも知れない。


 前倒しされればいよいよ帰郷の途について、家族と暮らせるふつうの生活に戻れる。ウンウン、長かったようだが終わりが見えれば寂しいな。まぁ、まだ終わる訳ではないので、気を抜かないようにしないといけない。雄二の時の苦い経験もある、あの時は良かった。無事だったから。


 しかし、次があったとして無事とは限らない。四六時中気を張るつもりはないが、それでも出来る限りの事は考えてしていこう。


「大会名や他に懸念事項はありますか?何分初めてです、放映権とかは売っていいんですよね?」


「・・・、大会をテレビ中継するつもりですか?」


 千代田が神妙な面持ちで聞いてくるが、何か問題があるのだろうか?そもそも本部長候補を選出するのに、顔も知らない人間がうちの県のスィーパーの長だとするにはちょっと不安が残る。講習会メンバーは少なくとも配信で顔出して、何が出来るとかの軽いパフォーマンスをしもらっているので、着任が決まった後でも動画を見返せば、誰が何を出来るというのが分かる。


 しかし、大会をひっそり行って勝手に、こいつ勝ったからギルマスね!と言えば、喧嘩っ早いスィーパーなら、俺の方が強いと襲撃してこないとも限らない。まぁ、あまりにも極端な話でそんな事があるかと言えば・・・、武者修行とか?


 モンスターを倒すのは当然として、ならゲートの外ではどうだろう?うん、銃持ったらちょっと撃ってみたい理論だよな・・・。勝てる勝てないじゃなくて、試してみたいという好奇心。まぁ、装置をそのうちギルドからの貸し出し品にでもすればいいのだろうが、それが出来るまでは大変だろうなぁ。


「ギルドの資金源として放映権を売って・・・、オークションでもいいですね。上限なしで放送する(・・)権利だけを売るっていうやり方でのオークション。」


「内密に開催して終わらせると言う事は考えていませんか?」


「政府が私の所持する設計図を全て買い取るなら考えますよ?」


「「ふふふ・・・。」」


 お互いに笑い合う。設計図・・・、あの墜落機?の箱から出たものが何個かあったが、ヤバそうなものからちょっとした便利品まで様々。それに、全部開封していないので更に増えそうではある。


「クロエ、何枚所有していますか?」


「未開封の箱も相当量あるので明確には。ただ思い当たるだけで10以上はありますね。」


「その中で危ないと感じたものは?」


「モノの見方次第では全て危ないでしょう。」


 ハサミは危ないかと聞かれたら、扱い方によるとしか言えない。髪は切れるし手も切れる。裁縫に使えると思えばクロックタワーよろしく、ハサミを持って追っかけられるまである。


「必要ならまた会談ですかね?」


「その席に着いてもらえるなら、喜んでセッティングしましょう。」



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