100話 思い悩む
死を思わせる炎の兵が先に進むが目新しいものは少ない。平地が多い分モンスターが見えやすく、格闘家等で遠距離攻撃手段が少ない者は的にされる可能性があるが、逆にガンナーなんかだと先制が取りやすそうだ。まぁ、格闘家でもここまで来れるなら何かしらの手段でビームの対応も取れるだろうから、そこまで脅威とは感じないかもしれない。現に雄二はビームを切り払ったりしてるし。
「意気込んでみたものの、そこまで変わり映えしませんね。」
「まぁ、縦型のゴミ箱とするなら、ある程度段階的なものはあるでしょうからね。縦型かは知りませんけど。」
「まぁ、いきなりバイトみたいなのが出るよりはいいっすね。」
雑談するが襲撃は多く、その多さの倍の速度で倒せばいいと言う、どこぞの無双ゲームを思わせる思考でモンスターを倒す。そもそも、モンスターはスィーパーに興味を示して寄って来るのでここでドンパチしてれば自ずと数が増える。これもまた、ここに来れるスィーパーが増えれば興味の対象が増えて分散するので、こうも多くはならないだらう。
宮藤と雄二が来てくれて助かった。広域殲滅で片っ端から倒すのもありだが、それではイマイチ攻略にはならないんだよな。前に上げた動画は空から俯瞰して見た図がおおくなり、倒した後に再度モンスターを探す羽目になった。
それを考えると今回は効率的で、しかも近接系の下位である雄二が戦っているので、魔法職以外でもここに来れる事を見て理解しやすい。考えてみれば初めての階層を誰かと行くのは初めてだ。気を使う場面こそあるが、それを差し引いても有益だと思う。
宮藤の炎の兵が姿を変えモンスター達に取り憑いて焼き尽くし、雄二が遠当てでモンスターを切り、残りの安全管理と索敵を引き受ける。この分なら他のメンバーも大丈夫だろう。しかし、見た事ないのも少しは混じっている。多分、クリスタルを取り込んで姿が変わっているのか豚面が空を飛んでいるのもいるし、ガチガチに防御を固めているのもいる。そして、そんなモンスター達を倒しながら歩いていると、何か光るものが・・・。
「宮藤さん、雄二。あれ見える?」
「どれですか?」
「多分、あれっす。なんか点滅してるやつ。」
3人で近寄ってみると何か・・・、宇宙船?ほぼ破壊されて原型は分からない何かが落ちていた。辺には箱が散乱しているので、輸送船の類だろうか?消えていないと言う事は箱と同じ様な処理がされているのだろう。高さ的には5mを超えるがこれが縦なのか横なのか分からない。一応、中に入ってみるがモンスターや生物の気配はない。中は割と広く壊れた扉や箱なんかが更に散乱している。さっき見つけた点滅は船体?に埋め込まれていたので、飛んで触ってみると簡単に取り外せたのでそのまま回収。
しかし、表面を見るとビームの後はないが、何かに激しくぶつかったようだ。溶断されたと言うよりは、無理やり引き伸ばされて千切れたような印象を受ける。もしこれに操縦者がいたなら、死んで消えてしまったのかもしれない。仮にこれがソーツ作成の運ぶ者ならえらく原始的だとは思う。アイツ等がやるなら、転送とかで一気に運んでそうだしね。まぁ、中の事に関知しないので、旧式の物が動き回っているというのも否めない。途中から分散して探すが、これというものはない。
「何か見つかりました?」
「自分の方はないですね、そこまで大きくはないので探してないなら、ただの残骸?でいいと思いますけど。」
「やっぱりそう思います?まぁ、点滅していたのはこの小さな箱でしたけどね。」
「黒く点滅する箱・・・、救難信号とか飛行機のブラックボックスとかを連想しますね。」
宮藤の言う事も分かる。しかし、それだとここにいると不味い気もするな。救難信号なら誰か来そうで怖い。まぁ、来てもモンスターだから会ったなら倒してしまえば問題ないか。取り敢えず、指輪に収納して戻らない雄二を探すか。2人で歩き回りながら雄二を呼ぶと奥の方から声がする。遮蔽物が多いので声が反響して位置が分かりづらい。
そんな中を歩いて進むとひょっこり雄二が顔を出した。雄二のいた場所は格納庫なのか更に箱が多い。トレジャーハンターなら泣いて喜びそうな光景だな。後で等分して持って帰ろう。そんな事を思っていると雄二が手招きするので近寄ってみる。
「これなんすけど、どう思います?」
「これは・・・、なんだろう?」
「何でしょうね、これ?」
さっきの箱は単色の点滅だったが、眼の前の物は様々な色に変わる。ん〜、なんだろう・・・。何だかこれは見ていると、修理して欲しいと言っているような・・・、言葉はないし、色しかないし・・・。
『コードだよ。何かに撃墜されたから修理してほしいみたい。かなり古い型で無理やり出してるから、受け取る側も曖昧にしかわからないね。』
『そうか、修理するとどうなる?』
『どうも?仕事に戻るだけ。本来ならコードを使っても誰も助けないし、廃棄品としてそのまま埋まるだけ。まぁ、君が回収するといい。コードの勉強教材にちょうどいいし、さっきのもう1つの箱から何に撃墜されたか分かるかもね。モンスターじゃなくて、ゴミ箱維持装置側だから外に出しても大丈夫だよ。』
賢者が教えてくれるので、2人に断りを入れて回収する。大きさは先程の外の箱と同じで手のひらサイズ。しかし、修理って何をどうすればいいのだろうか?コードを送ってくると言う事は何かしらの意志はありそうだが。まぁ、賢者と魔女案件だな。
外に出しても大丈夫だと言うお墨付きも出たし、教材になるらしいのでありがたく活用させてもらおう。しかし、維持装置側ならモンスターに対して何かしらの防衛手段もありそうだが、本当に何にやられたのやら。まぁ、考えても答えはもう1つの箱からしか分からないので仕方ない。
「他は何もなさそうですし、行きましょうか?」
「そうっすね。ここで時間食っても仕方ないし、早く行かないと夕方になっちゃいますよ?」
「そうですね、行きましょうか。」
3人で歩き出してモンスターを倒して38階層。雄二に多少の怪我はあるものの概ね攻略は順調。ただ、多少ひんやりしてきた。セーフスペースに水場が会ったし、ここにも水場か氷でもあるのだろうか?他の2人も一緒なのか上着を出して着ている。う~ん雪とか降る?いや、真空の宇宙を旅するなら雪より氷か。雹でも降ってきたら面倒この上ない。
ゴミと言ってもモンスターは動き回るし、前に掲示板で見たが、掘れば新品の廃棄品が出るゲートの中、何を基準にゴミなのか判断に迷う部分はある。迷う部分はあるが仕事は変わらない。
「道を示して明かりを求め、自ら示す帰路の道、走狗の様に食い破れ!」
「黙祷を捧げよう・・・、葬列は静かに歩みは確固に、共に逝こう。」
「数の暴力っすね・・・。こうして見ると、俺が剣に拘るのが何だか悲しく思える・・・。」
宮藤の兵と煙犬の大群がモンスターと戦いながら道を作っていく。装置の限界を探った時は800匹くらいだったが、宮藤とどれくらい出せるかという話になって、お互いにどんどん出している。確かに、この光景を見ると雄二は更に迷うだろうな。
剣士1人と魔法使い1人では、一度に倒せるモンスターに確かに違いがある。しかし、それもまたイメージの問題ではなかろうか?確かに、剣は一対一で使う事が多く書かれる。決闘であったり、死合であったり乱戦をするにしても囲まれたら厳しい。しかし、それでも剣は古くから・・・、それこそ弥生時代とかから使われているし、神話を見ても多くの神は剣を持っている。
「雄二、悩む事は悪い事じゃないけど、比べるのはあまりいいとは言えないよ?」
「それは分かるんすけど、剣で出来る事って少ないじゃ無いですか。切る、捌く、受ける。それは多分、剣で出来る事の全てで、それ以上はないんじゃないかと思っちゃうんです。」
「確かに難しいね。剣で多数を倒すと成ると・・・、どんな物がイメージ出来る?」
「いや、それが出来ないから考えてるんすよ・・・。ゲームとかだとビーム出したり伸ばしたりするっすけど、結局それは剣術なのかなって。でも、実際戦うとモンスターは多いし、こっちの手数は少ないから数はこなせないし。」
まぁ、それは仕方ないだろうな。タイマン張るなら近接有利というのはあるけど、数を考えると魔術師には中々勝てない。赤峰みたいに本人が砲弾みたいになって、タックルでモンスター轢き殺すなら出来るだろうけど、多分それは雄二の目指す剣とは違うのだろう。なら、逆に考えるのはどうだ?
「ジャイアント・キリング狙った方が分かりやすいんじゃない?雑魚の露払いは任せた!俺はボスを倒すみたいな?」
「いや、それだと仲間が守れなく無いですか?」
「いやいや、大物が出す被害の方が雑魚の被害より大きいし、大物出るまで雑魚狩りするから、運動量にしろ自分の位置取りや判断にしろ1番気を使うよ。残念な事に、ゲームじゃないからボス倒してもモンスターは撤退しないからね。」
「ん〜、分かるんすけど・・・。」
「最善を尽くしても、それが本当に最善だったのか後で迷うことなんてよくある。結局、出来栄えを決めるのなんて未来の知らない誰かか、今日の寝る前の自分でしかない。そして、その出来栄えに文句を言っても意味はない。必要なのは反省と次だからね。迷うなら、いっその事全部忘れて最初から考え直して見るといい。」
「最初からっすか・・・。」
ーside 雄二 ー
「ああ、そうすればなにか見えるかも知れないし、気付くかも知れない。初心に戻るって言葉もあるしね。」
「うっす。」
眼の前では無数の人影と犬が走り回り、抵抗するモンスターを倒しクリスタルに変えていく。戦場で後衛に立つ。講習会が始まってから、いや、その前から殆どなかった光景を見ながら、幾度目か考えるのも億劫になるくらい考えた事を再度考える。
初心とは・・・?俺の初心とは何を持って初心とするのだろう?剣道を始めた所?理由は簡単だ、漫画で剣士が格好良く、剣を振るいたいと思って親に無理を言って剣道を始めた。これが剣道を始めた理由。初心とするなら憧れ・・・、かな?
次に思い当たるのは、初めての大会で負けた事。今思えば小さな大会だったけど、小学生の俺からすれば体育館であった試合は知らない道場の子や、父兄が応援に来て人でごった返しまるでオリンピックの様だと感じた。そして、試合に出ると言う事は道場の看板を背負った代表なのだ。選んでもらった事に答えようと頑張った。5回勝てば低学年、1〜2年の部で個人優勝。1回戦は勝った。かなり厳しい戦いだった。お互いに1本取った後に次を取って勝ち、次に駒を進めたがそこで負けた。相手は同学年の女子、負ける気はなかった。勝って優勝する気で挑んだ。始まってそうそうに2本取られて負けた。
そして、それが悔しくて練習して鍛えて学年が上がっても鍛えて、剣を振って、努力してそして、4年の時初めて優勝した。それが嬉しくて更に練習して、インターハイに出るまでになった。でも、負ける時は負ける。悔しかろうが、後悔しようが負ける。負けて勝って、勝って負けて、後悔して練習して、素振りの数では上手くならないと、先生に頼んで相手してもらっては負けて・・・。
うん、多分勝った数より負けた数の方が多いな。まぁ、仕方ないだろう。上を目指せばどこまでも上はある。剣道に括らず剣士という事を考えると、武蔵や小次郎、虎眼に柳生に卜伝なんて山程いる。それでも、目指したくなってしまった。剣を振るう者として。多分、中二病も入ってたと思う。ずっと剣道してたし・・・。
その次に思い当たるとすれば、ゲート開通から秋葉原まで。歴史上、誰も手に入れた事のない力を得て増長して負けて、相棒が出来て戦って、ボロボロになるまで戦って、自分の弱さを見て。それでも、剣で追いつきたいと藻掻いて藻掻いて、ここまで来て負けた相手と助けた相手、相棒の背中を見ながら前を進んだ。
うん、今も進んでる。こうして今は誰も来た事のない階層を歩いているのだから、止まらず進めているのだろう。ここでの始まりを考えると・・・、どこだろう?全てが始まりの様にも思えてしまう。ゲートに入って剣士になったのも始まり、卓と喧嘩したのも始まり、クロエさんから筋が良いと言われたのも始まりで、秋葉原で戦ったのも始まり。
無数の始まりがあって迷う。どの始まりも、考え出すと何一つ間違いはないし後悔もない。寧ろ、きつかったけど今思えばいい経験だったと思う。大学生と言っても、ゲートで大人達のリーダーになるなんて早々ある事じゃないしな・・・。無数の道があって、でも選べる道は1つしかない・・・、いや、1つと決め付けるからおかしいのか?
至った先で就ける職は1つしかない。例外は聞いた事がないので分からない。仮に例外と取るならクロエさんかな?賢者と言う職に就いただけで様々な事を引き起こしている。爆発もさせれば空も飛ぶし、犬を出したと思えば糸も出す。器用という言葉では表せないだけの万能型、それを俺が目指したとして、その職に就けたとして使いこなせるのだろうか?
・・・、無理だ。何をどうイメージしても真似する事は出来ない。俺はクロエさんじゃないし、そんなに器用でもない。寧ろ、愚直な方だ。幼心に始めた剣道を経て、未だに剣を振るっているのだから愚直な方だ。しかし、そんな職があるのだろうか?




