98話 実食 挿絵あり
「36階層はセーフスペースでした。新たな素材は魚介類?とかです。今講習会メンバーで実食を・・・。」
「それを食べるだなんて、とーんでもない!私に回して下さい、悪いようにはしませんからね、私と貴女の仲でしょう?」
「ふむ、身体の隅々まで調べられた仲です。こっそり取ってありますよ?かなりの量を・・・、ね?」
「本部長、お主も悪よのぉ〜。」
「いえいえ、薬師のセンセイこそ・・・。」
「「ふ、ふ、ふ・・・。」」
「カオリ、クロエは何を楽しそうにしているんダ?」
「悪代官ごっこじゃないですか?相手は主治医の先生ですし。」
「あ〜、年近そうだったから通じるネタとか?クロエは割と先生の事買ってるみたいだしね。じゃなきゃ、大株主とかならないよ。」
外野がうるさいが、鉄板ネタはやらないと気がすまない。私腹を肥やすターンで悪代官モードだが真面目な話、調合師の高槻なら成分分析が出来るので依頼を回すなら彼しかいない。そして、その結果は薬の作成に活かされるので、回り回って利益へと繋がる。まぁ、それ以外にも会ったら話したい事があると言っていた。
「な二!大株主と言う事ハ、回復薬の作成者カ!我が国にも輸出ヲ!」
「クロエと先生次第だけど、してくれるんじゃないかな?」
「本当か遥!薬は出土するが供給は不安定ダ。安定供給の目処が立てばそれだけでもゲートを進む者にとっての安心材料になル。」
「あるとないとじゃ安定感が違いますからね!私達も結構ガバガバ飲んでますけど健康被害はないですし、エナドリは研究機関の方達が奪い合うように買っているそうです。」
「あれは確かにきク。私も試しに飲んだが確実に効果の出る栄養剤は初めてダ。」
疑いを晴らす為に36階層のセーフスペースで取った魚を料理中。赤峰が魚っぽいと言う事で3枚におろし、刺身風に切って盛り付け、井口が相方を務めて唐揚げやカルパッチョ風味に付け合せを作る。夏目も煮魚風の物を作っていてゲートに行く前の教場にはいい香りがしている。
そもそもな話、馬肉も食感にさえ目をつぶれば旨味はある。目玉わらびは無味無臭だが、調味料や料理人が料理すれば美味しい物が作れる。そして、今回は歯ごたえのある旨味。一般人が料理出来るならこれほど心強い物はない。そのうち、産地直送ゲート魚とかで売れるかも。商人ではないが、運営資金は必要なのだよ。政府に寄越せと言っても予算が決まっている関係上、だいそれた額は要求できないので、賄える部分は自分達で賄うしか無い。
まぁ、最終的には出土品の売買で中間マージンを取るのがメインの資金源になるだろうが、そこに行き着くまでにも運転資金は必要な訳で・・・。そう言えば、セーフスペースで野菜の栽培だか牧畜は出来るのだろうか?生きていれば還元変換されないとは思うけど水は・・・、大丈夫か。水箱がある。牧草は・・・、人の手で草は食べてくれるのだろうか?臭いがないので食べてくれない気もする。しかし、牧草は多分消えてなくなるので扱えない。いや、その前に家畜が職に就いたら目も当てられない。
『君達は及第点、それ以下はそもそも権利がない。連れて入れない事はないけど、どうなるかは分からないよ?』
連れて入れるのは入れるらしい。ガチ移住計画始まった?前も考えた事はあったが更に現実味が増した。自衛隊の基地が出来たら牧畜して街を作って・・・、コインと時間を掛けて街づくりSLGゲーム?世代的にはシムシティ1択だな。しかし、装飾師と鍛冶師を政府が囲ったのは結果的に正解だったな。ある程度内部整備の目処が立つし、鍛えられているならイメージも固まっている。発端はドッグタグ作りだったとしても、囲った政府の決断は大きい。
「受け渡しはどうしますかな?早ければ早いほど分析ははかどりますが。」
「そうですね、時間的には持っていくか来るかですよ?刺し身とかにしている魚食べたいなら、来る一択で米国販売の窓口もあります。」
「ほほぅ、私は医者ですがお金とコネがないと、夢が遠退く事も知っています。今から行きましょう。場所は確か目黒駐屯地でしたかな?糸もかなり出来ているので、お土産に持っていきましょう。」
「分かりました、警衛に話は通して料理は残しておきます。」
電話を切って内線で警衛に高槻が来る事を連絡した後、料理を見るとかなり減っている。取り敢えず高槻の分の確保と自分の食べる分を皿に取り向う。魚はあるが高槻に出す分は心ともないので更に追加を願おう。そんな事を思いながら、部屋の端っこの方から歩き出す。
「兵藤さん、バイクの免許ってここで取れるっすか?」
「ん?基礎ならなんとか融通出来る。欲しいのか?」
「欲しいっす。」
「雄二どういう風の吹き回しだ?バイクなんて興味あったか?」
「いや、昨日乗せてもらって割りと良かったんでな。趣味にでもなればと思って。」
「昨日と言うとクロエさんか・・・。えっ?お前乗せてもらったのか?」
「おう、装備庁の新型。遥さんとクロエさんがバンバン飛ばしてるあれな。スゲー良かっ・・・。」
「雄二君、タンデムバーに捕まったんだよな?」
「いや、危ないからってこう、腕を回して。」
「ほぼ背中から抱きついてるじゃないか。悪い事は言わない、他のメンバーにバラすなよ?」
「それはまぁ。」
「まぁまぁ、卓君。で、どうだった?」
「どうとは?」
「分かるだろ?綺麗な年上の女性お姉さんを後ろから抱きしめた感覚。何なら、嬉し恥ずかしハプニングでバイクなら胸も触って、ちょっと恥じらって顔赤らめたクロエさんから『もう、雄二どこさわってるの?エッチ。』とか。そんな甘酸っぱい一コマ。なかったのか!?」
「兵藤さん、流石にそれは引きますよ?」
「卓君は分かってない。歳を取るとそんな甘酸っぱさが不足して、都度補給しないと駄目になるんだぞ?」
「そんな大人は目指してないですよ・・・。で、どうだった?」
「続けるのかよ卓!まぁ、その、暖かくて柔らかくて凄くいい匂いはしましたよ・・・。でも、俺はやましい気持ちはなくて、純粋にツーリングを楽しんだんです。」
「割りと初心だな、雄二。」
「意気地無しと言うには微妙なラインだな。」
「そんな評価いらねぇ!実際相談乗ってもらっただけだ。」
ワイワイやっているが、聞こえる話を総合すると兵藤の病が末期なのが分かる。アイツは人に何を求めてるんだ。多分、アイツも中身の事は知っているだろうに・・・。まぁ、外観云々の事を言うのはやめたのだ。なら、違うアプローチでおちょくるとしよう。
「兵藤さんは私の胸に興味があるんですか?」
「うぉっ!」
「ぺったんこですが、興味ありますか?」
胸を反らすがほんのり膨らむだけなので、バルンバルンと揺れる事はない。まぁ、14歳だしこんなもんか。貧乳はステータスらしい知らんけど。兵藤はそらした胸に視線が行っているが、えっ?マジで興味あんの?
「興味あるって言ったらどうなります?たまに夏目達が風呂の話をしてますけど・・・。」
「ふむ、目を瞑って下さい・・・、両手を拝借。」
素直に眼を瞑る兵藤の手を、布に来るんだ繭っぽい何かに押し付ける。魔法で人肌程に温めているので多分バレない。硬直して指も動かさないが大丈夫だろうか?エアーおっぱいの方が嬉しかったかな?
「どうです?少しは柔らかいでしょう?」
「えっ、あっ、ハイ!柔らかくて温かいです、ハイ。」
「では、手を離すので適当に揉んでおいて下さい。あっ、くれぐれも目を開けないように。」
「ハイ!」
目を瞑って教場の隅で両手でクッションを揉みしだく兵藤。中々シュールだ。簡単に気付くと思ったが、中々気づかないので多少の罪悪感はある。今度また飲みに行って御酌しよ。雄二と卓は残念な大人を見ているが、大人と言っても元は子供。言うほど立派でもないのだよ。見えない所では割と馬鹿もやるし、ふざけもする。ギャンブルなんかをやればお金を溶かす人もいるし、俺だって身体に悪いと分かっていながらタバコ吸うしな。
「からかい過ぎですよクロエさん。」
「宮藤さんも揉みますか?」
「遠慮します。それで、今回は36階層だけですか?」
「ええ、雄二を乗せてその後の暇つぶしですからね。強行軍で潜っても多分、4日位は余裕を見ないといけないので、勝手に入って行方不明扱いされても困りますからね。」
「今の自分が先を目指したとして、クロエさんは止めますか?」
真剣な表情で宮藤が聞いてくる。彼が先を目指す目的は復讐なのか弔いなのかは分からない。ただ、はっきりしているのは彼が先を望むという事。多分焦りもあるのだろう。ギルドが正式稼働しだしたらスィーパーの管理があり、気軽に先へ進めなくなる。彼にとって今の教育期間は、最後の自由時間と言えるのかもしれない。前に辞表を叩きつけないと暴れるとも言ったしな。・・・、進む者を阻むのは本意ではない。彼に執着して檻に閉じ込めるのは愚策だ。だから、羽ばたきたいなら羽ばたいてもらおう、宙を舞う鳥の様に自由に軽やかに。
「宮藤さん、1つ本部長命令と言うのを聞いてもらえませんか?かなり大変な任務ですが。」
「突拍子もない事じゃなければいいですけど?」
「中位を鍛える講師、それ相応の実力が必要なので潜って下さい。訓練場は50階層予定で、その先の調査も任せます。行く時は同行するので、気軽に言ってください。ただ、私は底に用事があるので誘われないなら勝手に先に行きます。」
一瞬キョトンとした宮藤だったが、言葉の意味が分かったのだろう。嬉しそうに破顔した。理由を付けて戻る場所はあると伝えたが、真意は1人で先に行っていいよである。必要なら手伝うという事も含ませての解放宣言。まぁ、いてもらったら凄く助かるけど、宮藤の事を考えるならこれがベストだろう。
「ありがとうございます。ただ、相当誘いますよ?」
「底まで来れるなら一緒に行きましょうか。ただ、遠足は帰るまでが遠足です。」
「それは・・・、帰りましょう。友人達の所に行くにはまだ早すぎる。」
勝手にゲートの藻屑になられては困るのだよ。先は分からないが、現時点で法律や教育ノウハウと言うモノに一番精通しているのは宮藤である。秋葉原の元負傷兵達も法律には詳しいが、ゲートで共に行動していないのでノウハウがあるかも分からないし、そもそも療養していたので入っているかも分からない。その点、宮藤は講習会に講師として迎えた実績と、座学で教鞭を取った指導者としての経験がある。
それに付け加えるなら、本人も中位であり職に対する理解力も高い。そんな人材を探して連れてこいと言ってもおいそれと見つからないし、本人自身の向上心も望ましい。本当に彼は本部長よりスィーパーの教育機関でも作って、そこの教育所長でもやってもらった方がのびのびと出来そうだ。おかわり案件が発生したら推薦しようかな。本人の意向もあるだろうけど。
「まぁ、卒業式とかするか分かりませんが、終了はガチンコ対決の後でしょう。本部長揃ってないのに完全放逐とか、ライオンの檻に投げ込むようなモノですよ。多かれ少なかれ、どの組織も強力な手駒は欲しい、それに・・・。」
「それに?」
「ウチ、元締めなんで放逐したら人手が足りない・・・。」
「あ〜、各試合で賭けやるんでしたっけ?」
「賭けというと賭博で引っ掛かりそうなので、運営資金集めと言ってください。実際、出土品の鑑定買い取りもウチになりそうなんで、危なそうなものは買う方針です。特に奥の設計図とかヤバイ物しか想像できない・・・。」
武器や薬もだが設計図がなぁ・・・。初めて出た品に金額設定するのも難しいが、似たような設計図で取引履歴のある物を買い叩くのも気が引ける。あまり安値を提示すると企業に持っていかれそうだし、下手に流出すると世界がカオスになるし松田に専門機関でも作ってもらわないと、采配するにしても難しすぎる。ガチンコ対決の後にでも会談をセッティングしてもらおう。
「お疲れ様です、本部長殿。」
「宮藤さんは職員なんでこき使われる側ですよ?」
「その舵取りする人が一番頭使うんですよ?」
お互い笑顔だがその目に映るのは、書類の山に埋もれる自分とスィーパーと追い駆けっこしている自分。いらん事やったスィーパーはどんどんゲート奉仕刑にしよう。そうすれば、スタンピード抑止もはかどるはず!お互いため息を1つ。そんなため息をつく先では、夏目達が魚を食べながら話している。今日の夏目は白か。
「割と魚はコリコリしている。食感的にミノとか?で、どこまで似せるつもり?」
「どこまでも本物に勝る贋作へ。まぁ、勝るのは無理だとして外見は100%影武者出来るくらい?」
「七海には柔らかさが足りない・・・。硬いんだよね。」
「小春の胸は柔らかいからな。」
「待て!清水いつ揉んだ?2人っきりか?私を置いて2人で朝チュンからの昨日はお楽しみでしたねルートか!?」
「いや、お風呂で景子が突付いただけだから。それより、残りは夏目だけだけどどんな感じ?」
「多分、納得したら至るとか?実際、成りたい自分も、進みたい先も私は決まっている。それで至らないなら、後は納得しかないだろう。出来る事も増えた。したい事も増えた。ただ、納得は多分まだしてない。」
「格好いい事言ってるけど、それってガールハントの事じゃないですよね?」
「それはライフワークだな。私は女性の味方、その志は変わらない。そして、そんな私をちょっと頑張って気持ちよくして、お返ししてくれるかわいい娘には更に目を掛けるとも!」
清々しいくらいには欲望ダダ漏れ。見た目は女子校なら間違いなく王子様として慕われる夏目なのに、どうしてこう・・・、いや、王子様として慕われたからこうなった?そもそも、慕ってきてくれると言う事は、それなりに相手に好意があると言う事である。そんな相手を夏目が蔑ろに出来るかどうか?
夏目はサービス精神旺盛だし、面倒見もいいし、頭も顔も悪くないし、ユーモアのセンスもいい。貧乏くじを引いても、なんだかんだでいいムードで楽しんでいる。頼りにすると答えてくれる。確かに、理想の王子様像ではあるな。ちょっとエッチィけど、そこは人間味があると取れば美点でもある。事実、夏目がそう言った事を言わないならどちらかと言えば近寄りづらい雰囲気になるかも知れない。
肉壁は名前こそお笑い感が否めないが、その説明は自身を律して貫くものである。自身制御は自身を律しないとおかしな事になるだろうし、変化した自分に柔軟性をもたせるという点では意見の取り入れやすさがある。抵抗なんて、明確な自分がなければ抵抗のしようがない。名前こそお笑いで言えば笑われそうな職だが、多分この職が出る人は相当に明確な自分の理想を持つか、或いは、自分に厳しい人だろう。そう思うと夏目は・・・。
「私を見てどうかしましたかファーストさん?」
「格好良くて優しいお姉様?」
思考の合間にクリーンヒット!口に出すつもりじゃなかった思考が口に出た!いかんな、マリみての令ちゃん思い出してたらそんな言葉がでてしまった。夏目は天を仰ぎ硬直し、他の2人は今の俺の言葉に呆気にとられている。言ってしまったものは仕方ないが、夏目を見ると事故だとは言いづらい。
「はい!貴女の頼れる姉、夏目 七海です。生きててよかった・・・、私の生き方は間違ってなかったんだ・・・。」
凄い勢いで本人が涙ぐみながら納得しだした。嬉しいなら訂正しないでいいし、そう思ったのも事実だからいいのだが、両手握手しながら泣き笑い顔で来られると凄く後ろめたい・・・。よし、そのままいこう。下手に訂正して落胆させるよりはいいし。
「姉はともかく。夏目さんは自分の道を貫いて下さいね。」
「ええ、どこまでも貫きましょう。さしあたって、奥を目指して不老の薬を探すところからですね。スィーパーでも男女でのいざこざはどうしてもでる。私は女性の味方として、そういった部分に注力しましょう。」
「私が夏目さんの未来にどうこう言う事はありません。ただ、進む道に幸多からんことを。」
そうして握手していると教室の扉が開いた。格好はスーツに白衣。前に会った時より幾分か若返りスラッとしている。ちょいワルオヤジとかこんな感じかな?しかし、その顔には見覚えがあり、コチラを見つけるとスタスタと歩いてきた。知り合いは俺と宮藤、後は兵藤くらいか。他のメンバーはほぼ面識が無いので、誰だこいつみたいな顔をしている。しかし、若くなってイメチェンしたな。これで社長なのだから、色々と声がかかりそうだ。
「お久しぶりですクロエさん。民間中位の社長が来ましたよ。」
「高槻先生が民間中位1号でしたか!どうぞこちらへ、料理も取ってありますよ。」
「ありがたい事です、私の方も糸を持ってきましたよ。」
民間1号は高槻だったか。確かに調合数も多いし今や社長で扱う素材も研究も相当に進んでいる。医師会を辞めたので茶々も入れられないし、何よりスィーパーとは産まれてホヤホヤなので、先行者はいない。頭の柔らかい高槻はいち早く高校と大学に連絡を入れ、調合師を片っ端から引き抜いてガンガン薬や糸を研究開発している。
こちらとしてはギルドの提携先であり協力者。それに、私腹友達。さらなる投資も惜しまない所存である。何なら、ちょっとくらいキャンペーンガールとかしてもいいくらいである。
「どうぞ先生。醤油も塩も行けますよ。」
「これは丁寧にどうも。6階層周辺のセーフスペースでは頭打ちだった所にこの知らせ、天啓ですな。」
「私もまさか36階層がそうだとは思いませんでした。そう言えば、職はどうなりました?」
「調合師は錬金術師へ第2職は付与師です。」
箸を置いて胸の前で両手をパンッと合わせる。それで等価交換出来るなら安いものだが、残念ながら調合師の先なので等価交換はないだろう。医術の基礎は錬金術らしいので、高槻にはお似合いの職となった。しかし、たまに聞く付与師か。なかなか難しそうな職だが薬関係を扱う高槻が就くなら有用なのだろう。
「おめでとうございます。それと、紹介したい人が。」
エマの方を向いて手招きする。すると、すぐさま寄ってきて見事な敬礼。相手は一般人なので会釈でいいのだが軍歴が長いから仕方ないか。まだ揉んでいる兵藤は取り敢えず無視するものとする。
「米国陸軍所属、エマ=ニコルソン少佐?でス。階級は今検討中なので、この紹介となりまス。」
「固くならずに、高槻 夏樹というものです。縁あってクロエと共に、経営者をやっていますが本業は医者です。えーと、どう言ったご要件ですかな?」
「はイ、回復薬を作れると聞いていまス。我が国へも輸出を要請したいとお願いしにきましタ。私もクロエの教え子でス。」
エマと高槻が握手しながら名乗り合う。薬の輸出は特に問題ないと思うが、何分出来たてホヤホヤで本業は研究。一応、量産に向けて工場も建設中だが、まとまった量となると少し心許ない。一応、在庫はかなりの量あると聞いているが、米国輸出を考えると多分足りないだろうな。
「米国からの参加者の方ですか。お綺麗なので外交関係の方かと思いましたが、まさか軍属の方とは。輸出については前向きに検討出来ますが何分出来たばかりの会社、手広くやっていますが国外まで手を広げられるかと言われると心許ない。」
「すぐに色よい返事があるとは思っていませン。金額にしろ輸出量にしろ、私の一存では決められませン。なのデ、米国大使館での会談要請があった際に来ていただきたいでス。」
そう言われた高槻がちらりと俺を見るが、これは俺より松田案件だろう。個人的には国内に十分な量があるなら輸出しても問題ないが、その量が問題で作れるが研究しながら作っているので、米国から大量輸出要請があった場合対応しきれない可能性がある。公的資金を突っ込むか、ポケットマネーで賄えるだけ賄うかで会社の立ち位置がかなり変わる微妙な話。
トップ2人がここにいるので、良いよと言えれば話は早いのだが、俺も工場は見ていないし作成量を把握しているのは高槻しかいない。まぁ、やらかすイメージのある外務省が頑張ってくれる事を期待しよう。下手に低い金額なら政府挟まずに売ってもいいしね。
「私は話すだけならいいと思いますよ?高槻さん、政府関係者の松田という方の電話番号を後で送ります。高確率で一口噛ませろと言うでしょうし、言わないなら外務省がうるさそうだ。」
「分かりました、その際は同席願えますかな、大株主?それと、あそこに見える兵藤さんは何をしてるんですか?」
「考えておきます社長さん。夢を見ながら握力を鍛えてるんでしょう。」
流石に可哀想なので、そろそろ兵藤を現実に戻そうかな・・・。




