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街中ダンジョン  作者: フィノ
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96話 悩み

 かぽーん。これで銭湯とか大浴場のイメージが浮かぶ不思議。引きずられて銭湯で風呂に入って、背中と頭を2度洗されて数日。いなくなるだろうと思っていたエマの帰国スケジュールは米国政府からのお達しで、ガチンコ本部長選出戦の後となったと言われた。まぁ、その辺りは国の問題なので俺から言う事はなにもない。そんな選出戦、出場者名簿を貰ったが選抜されて150名。流出対策で名前しか書いておらず写真もなし。言わせてもらえば、本部長は別として全員職員だよな。寧ろ、これだけ選抜出来るなら安泰ではある。そんな中で千代田から気になる話をされた。なんでも民間から中位が出たそうだ。


 可能性は誰にでもあるので、民間だろうと公務員だろうとそのうち出るとは思っていたが、選出戦前に出たというのが政府関係者としては問題らしく、初期参加者30名それに宮藤達を入れて33名。望田は俺に着いてくるので32名そのうち至っていないのが現時点で雄二や夏目等の残り8名となっている。


 夏目はどっしりと構えているが雄二は少し焦り気味。他の面子は取っ掛かりを掴んでいるらしい。寧ろ、夏目は何処を目指しているのか分からない。現時点でも普通に中位と渡り合っている辺り、至る云々よりもやりたい事が多すぎるような印象だ。自身制御で姿も形も変われる夏目、果たして彼女の道とは何になるのだろう?本人しか分からないが、今を満喫しているのでヒョッコリ至ってそうではあるのだが・・・。


「クロエさん。将来の自分って・・・、いつ決めたんすか?」


「ん〜、私はどちらかといえばなった後に決めたからねぇ。そもそも雄二はなんで大学行ってたの?私は大学進学なんて考えてなかったし、何かしらやりたい事でもあったんじゃないの?」


「いやぁ〜、それがですね、みんな進学するから取り敢えず進学したんです、はい・・・。」


 訓練が終わって帰る間際に話がしたいと言われたので雄二と2人、駐屯地の隊員クラブで軽く飲みながら話している。将来の自分・・・、それを考えるのは年齢にもよるだろうし、夢を語るなら何歳でもできる。80過ぎてゲームアプリ作った人もいるのだから、遅いという言葉はなく、やろうと思えばいつでもできる。若返りの薬なんてものもあるんだから、今の時代やるには遅すぎたと言う言葉は、死語になってもおかしくない。ただ、雄二が言いたいのはそう言う事ではなく、至る道についてのソレ。極端な話、スィーパーになれば日銭は稼げるし、一攫千金すれば遊んで暮らせる。


 雄二に対する期待が大きすぎたのかといえば、そうではないと思う。夏目同様、雄二も中位と十分に模擬戦では渡り合えるし、モンスターも倒して回っている。二刀流にしろ一刀流にしろ、剣道から始まったそれは今や型を外れ、我流の剣を突き進んでいる。対人ではなく対モンスター用の殺モンスター剣。ある意味、なんでもありのモンスターを的確に倒すのだから腕は確かだ。


「思うに、真面目過ぎるんじゃないかな?」


「真面目過ぎるっすか?いや、俺割りと自分勝手で我儘っすよ?秋葉原の時も母さん押し退けて参戦して、ボロボロになって心配かけるし。」


 外円にいたとは聞いていたが、親押しのけて勝手に参戦してたのか。終わった事なので今更蒸し返す気はないし、巻き込んだ張本人なのでその点に言及は出来ないな。まぁ、言えるなら死なないでくれてありがとうだろう。死んでしまえばこうして酒を酌み交わす事も出来ないのだから。


「それでも、参戦した理由はあるんじゃない?」


「理由・・・、凄い漠然としてたっすよ。ただ、役に立ちたかったんです。秋葉原の事覚えてるっすか?」


「卓とやり合ってた時の事?仲裁したんだから覚えてるよ。あれから心境の変化でもあった?」


「まぁ・・・、色々見たっすからね。ボロボロの宮藤さんも見た。至る卓の姿も見た。戦う人の背中も見たし、赤峰さんと井口さんがイチャつくのも見た。前衛張って、後ろの人守って、助けたし助けられた。でも、結局どうなりたいのかがイマイチピンと来なくて・・・。前は・・・、秋葉原に参戦した時は何かが見えてた気がするんすけど、今はまた悩んでます。」


 思い悩むと言うのは悪い事ではないし、答えを急いで出しても納得出来なければ意味はない。時間というモノは待ってはくれないが、限られているならその中でめいいっぱい悩むのもまた、本人に許された時間の使い方である。卓の様に小さな頃からの夢や成りたいものがあれば、それを目指して至る事もあるし、赤峰や兵藤の様に何かに影響を受けて至る事もある。


 ただ、1つ言えるのはその歩みに誰も後悔していないと言う事。一度赤峰に別れたらどうする?と、聞いてみた事があったが返答は別にそれで幸せならいいらしい。本人曰く、自分の手で幸せにしてやりたいが、束縛するのと幸せを願うのは別物との事。言いたい事は分かるが多分俺には無理だな。妻と別れたくないし幸せにしてやりたいもん。


「本部長に成りたいなら変な話、今至るのが確実だけど別に狙ってないならいいんじゃない?私はどちらかといえば本部長なんて投げ出して悠々自適にゲート入ったりしたい。」


「いや、クロエさん。崇高な使命とか、背負った責任とかはないんすか?」


「あるよ?でも、それと本部長は別。人を巻き込んだ責任も、死なせてしまった責任も、背負ってるし忘れる気はない。でも、それは本部長なんて肩書がなくても果たすべき使命だよ。いい言葉を教えてあげよう。誰かがするであろう仕事の誰かとは、自分で有っても問題ない。私の座右の銘だよ。」


「座右の銘というと、誰か偉人とかの言葉っすか?」


「いや全く。自分で考えて自分で納得した言葉。私は割りと独り善がりだからね。担い手のいない仕事があるなら自分ですればいいし、したらしたで後から来た人に文句言われるのも嫌でしょう?誰もやらなかった仕事が、自分の仕事になったんだから自己流万歳文句言うなってやつ。もちろん、より良い仕事が出来ると言うならその人に仕事を投げるし、そもそもあとから文句つけるなら、その人が先にやればいい。」


「すげー自己中な座右の銘っすね。」


「当然。でも、責任と自由の合わさった言葉だよ。自分の仕事としてするなら、自分で終わらせないといけない。投げ出した後に誰もいなければ、その仕事は終わらない。なら、担い手の間は自由にやらせてもらわないと、終わりがない。」


 始まりがあれば当然終わりもある。問題は自分がどう終わらせるかであって、終わらせた後の終わりの先はそこに問題を感じた人にやってもらうしか無い。そりゃあ、何か問題を指摘されれば修正もするし、やり直す事だってある。でも、修正の効かないifをグチグチ言われるのは流石に頭に来るし、その場で対応出来なかったのであれば、その結果を元に出来る事を探すしかない。


「終わりっすか・・・、講習会ももうすぐ終わり。俺はどうなりたいんだろ?」


 なんだかんだで雄二は真面目なんだよな。リーダーをやらせても引っ張って行けるし、お願いをすれば成果も出してくれる。卓とは良いライバル関係で友人だし、至らないからと言って腐る事もない。ただまぁ、真面目過ぎて甘えベタ。人に頼るというのがどうも苦手なように思う。歳だけで言えば一番下なんだから、もっと周りを頼ってもいい。まぁこれも生き方の得て不得手か。俺もどちらかと言えば、人を頼るより自分で完結させるタイプだし。


 グラスに残った酒をグイッと飲み干し時間を見る。20時か、寒くなって日の入りも早いので外は真っ暗。残念な事に夕日は見えないし、海に向かって叫ぶなんて事をするにも遅い時間。だが、気晴らしくらいにはなるだろう。アルコールチェッカーで呼気をチェックするが当然0.00。中身はないので酔う事もないし、酒気が検出される訳がない。雄二もガバガバ飲んでいないので、ほぼ素面に近いし何かあればフォローも効く。


「さーてね、ちょっと気晴らしに付き合わないか?」


「気晴らし・・・、バッティングセンターとかっすか?」


「いや?風神の太刀と技名を言うくらいだ、少し一緒に風になろう。」


 よく分かっていない雄二を連れて、駐屯地の入口まで移動してバイクを出し、インカム付きのフルフェイスのヘルメットを投げ渡す。それなりにコチラに来て長いのだ、ある程度道は分かるしなんとか首都高も行ける・・・、はず!ハンドルを握って跨がるタイトスカートだが、タイツも履いてるしパンツは多分見えないはず。


「ほら、後ろに乗るといい。」


「初めてなんすけど、どこ掴まればいいんすか?」


「腰かタンデムバーだけど、タンデムバーはオススメしないかな。手を後ろに回して乗るのは初心者だと怖いし、ブレーキの時に対応しづらい。腰に捕まるといい。」


 ヘルメットを被っておっかなびっくり後ろに乗って腰を掴む・・・、掴んでないな。脇腹辺りにそっと手を添えているが、昔そこにあった肉の浮き輪はなくなっているんだよ・・・。


「もっとぐっと持つ。何なら腕を回して抱きついてもいい。」


「えっ、いや、その・・・。」


「いいからいいから、早くしないと余計目立つよ?」


 夜だが眠らない街東京と言うだけあって街灯もあれば駐屯地前なので、隊舎の灯りでそれなりに明るい。それに警衛についた人がコチラを見ているので、早くしないと変な噂もたちそうだ。


「失礼します。」


「バイク乗るならこの体勢は必然だよ。髪が邪魔だったらごめんね?」


 雄二が腹に手を回しおっかなびっくり身体を背中にくっつける。あまり引っ付かれても運転しづらいが、この程度なら大丈夫だろう。法定速度限界で街を走り都市へむかう。冬の始まりを告げる夜風は若干冷たいが、魔法で周りを覆っているのでそこまで冷えない。


「今までは割りと直線を走ってたけど、都市高はカーブが多い。命を預けてもらうぞ〜?」


「はい!?」


「カーブの時、私より先に身体を起こしたらコケる。逆に私より遅くてもバランスが悪くなる。私の背中にピッタリ息を合わせて動いてくれよ?そしたら・・・。」


「そしたら?」


「遠くを見るといい。風に吹かれて誰かの背中で夜景を見るのは中々乙だよ。ここからなら、外円も見えるだろう。この前行ったが復興して賑わってたよ。」


「早いっすね・・・。ボロボロになって皆で戦って、危ないからって修行してたら新しく生まれ変わって。また人が住みだして。結局、俺達のやる事って何か意味あるんすかね?」


「さぁ?人が生きるのに意味があるかと問われれば、誰も明確な答えなんて持ち合わせない。でもまぁ、その意味を探すとするのなら、死ぬまで生きるしか無いんじゃない?」


「そしたら見つかるもんすかね?」


「笑顔で死ねれば少なくとも、悪い人生じゃなかったんじゃない?どのみち、生きて死なない事には答えは出ないよ。けど、疲れた時は背中くらい貸してあげよう。前衛張って引っ張って、誰か遅れたら連れてきて、疲れたなら、ね。」


「胸じゃないんすか?そこは。」


「生憎と女性だからね。起伏も乏しいので前も後ろも変わらないよ。それに、私が胸を貸すのは女性だけ。野郎は背中を見て付いて来いってね。」


 野郎と抱き合う趣味はない。疲れて愚図る子供なら、おんぶで背中で寝かせればいい。少し年上だが雄二は那由多と歳が近い。なら、まだおんぶされる子供の範疇でいいだろう。乳飲み子なら抱っこもするが、流石にこの体格差では無理もある。


「了解です、背中・・・、少し借りて夜景見ときます。」


 その言葉を皮切りにお互い話し声は止み。風の音だけが聞こえる。そこにあるのは決して嫌な空気感ではなく、単純に話す必要がないと言う雰囲気。進むバイクは夜の都市を進み、適当に海の見える降り口で降りて突き進む。過ぎ去る景色は明るすぎるが、その灯りの下には人がいると思うと、どこか安らぎを覚える。


「さて着いた。まぁ、適当に走ったから目的も何もないんだけどね。」


「東京湾・・・、夜に来る事ないっすけど、結構きれいなんですね。」


「あぁ、東京タワーはライトアップされると綺麗だし、スカイツリーも見える。君の出した目に見える成果だよ。」


「いや、俺はそんな大それた事してないっすよ。ただ、外円に行って戦ってその縁で呼ばれてまた戦ってるだけっすから。」


「一般人はそんなに戦えないよ。戦う理由、そこからもう一度、考えてみるといいんじゃないかな?」



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