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街中ダンジョン  作者: フィノ
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95話 そんな二人 挿絵あり

「さて、エマさん。クロエに惹かれてますね?」


「否定する気はなイ。感情としては何なんだろうナ。友愛、親愛、師弟愛、敬愛、多分言えばきりがないだろウ。不思議なものダ・・・、出会うまではどちらかといえば嫌悪していタ。しかし、出会って見ればそうはならなかっタ。教えて欲しイ・・・、私はおかしいのだろうカ?」


「いえ、私も貴女もおかしくは多分ないです・・・。明確なのは1つ、私も貴女も勝者ではないという事ですね。」


「互いに敗者カ・・・。」


「いいえ・・・、勝負すら始まる前に私達は決着が付いて終わってました。時の運、生まれた国の違い・・・、そして、出会いのタイミング。残酷ですが、クロエは既に愛する人を決めてしまっていた。」


「なラ、この戦いに意味はあると思うカ?」


「ないんじゃないですか?でも、意味を求めるなら・・・、そう、同じ気持ちの人と殴り合って吐き出してスッキリする。それでしょうか?」


「まるで負け犬たちのサーカスだナ。叶わぬ思いを紡いでもその先はなイ。私が言うのも何だガ、勝負に乗ってくれてありがとウ。心よりの感謝を貴女二。」


「いいですよ。強き敗者と弱き敗者、負け犬同士傷つけ合って舐め合いましょう。」


 エマさんと対峙する。ストレッチは済んだし武器の準備は万端。ツカサは遠くに離れ音を拾うだけなら、なにか草を摘んでいる。マイペースと言うか呑気というか・・・。ここに2人、貴方に惹かれて想ってしまった女性がいるというのに・・・。うん、分かってる。ツカサは何も悪くない。会った最初から彼は莉菜さんと家族を思い続けている。


 それが彼の一線であり、彼の原動力なのだろう。莉菜さんに想うだけならいいと言われた時、心がモヤモヤしてこの人がいなければ、私が先に出会っていればと考えてしまった。嫌な娘だ。出会いがいつあるか分からないし、出会わなかった未来もある。でも、こうして出会って惹かれてしまった。それは彼女も一緒なんだろう。遠い異国から来て短いながらも濃厚な時間を過ごした彼女。


 彼女と私はどこか似ている。出会いの印象は最悪で決して良いものではなかった。私の出会いといえば、取調室で火の玉を浮かべてタバコを吸っていた姿だ。今でこそ彼の気持ちも分からなくもないが、室内で火を使うのは如何なものかと思う。スプリンクラーが作動すれば水浸しだったでしょうに。


 そんな私と同じ様に、エマさんも事前情報だけならいい印象を持たなかっただろう。米国に今ある情報なんて千代田さんに聞いた限りなら、配信のモノしかないような状態。もっと深く・・・、例えばスパイとかなら知っている事が増えるかも知れないけど、それをエマさんが知っているとは行動を見る限り思えない。


 ゲートがなければ私達は出会わなかった。誰も彼も知らない他人でいられた。でも、出会ってしまって誰も彼もが知り合いになってしまった。うん、悪い事じゃない。でも、切なさはある。井口さんと赤峰さんが羨ましい。出会って結ばれたのだから。一緒の部屋で過ごす時間は満ち足りているけど、その先の未来はなにもない。ない未来だけど心は軽い。親に子供の顔を見せるなんて言う、ありきたりな幸せに縛られる事もないし、男の人と結婚するなんて生き方を強制される事もない。それに、彼が東京を離れても着いていく事が出来る。今の私にはなんの憂いもない!


「やろうか望田・・・、いヤ、カオリ!」


  挿絵(By みてみん)


「来なさいエマ!想った時間は私の方が長いんです!」


 笛を構え音を響かせる。罠は多分設置されている。それなら、私の周りを覆うように音を鳴らし全ての兆候に備える。私は防衛職だ。音に敏感でソナー音を響かせれば見えないながらにも、そこに何かあるという感覚は得られる。なら、そこに気をつけて私は動かず待ち構えればいい。エマと違い、私の攻撃は防衛の延長線。本領は将棋の穴熊の様にひたすらに待ち兆候を察知して潰す。当然、スピーカーは増えたのでちょっかいはかけられるけど。


「流石に駆け出してはくれないカ・・・、しかシ、動いてもらうゾ!」


 ショットガンから撃ち出された弾丸は音で実弾と分かる。ううん、エマの身体の音は聞こえている。心音から筋肉の動く音から果ては血流まで。徹底的に人体のイメージを固めた。あの人の心音を聞こうかと思ったから。でも、それは叶わなかった。そもそも、彼には心臓がなかった。


「カーン!カーン!カーン!!」


 甲高い金属音を響かせれば弾丸は弾かれる。でも、油断は出来ない。だって彼女は狩人なのだから。あの人と訓練する時の音は聞いていた。声も心音も不思議なもので、人の身体から出る音はそれぞれ違って一緒の音はないし、感情の動きで音も変わる。会った当初のエマの音は何処までも固く、塞ぎ込むように意固地な音がした。理由は分からない。音は今しか教えてくれないのだから。


 でも、その音は次第に解きほぐされるように調律され、お祭りの後にはなんのしこりもない音となり、装置の実験から帰ると愛情の音となっていた。実験で何があったかは知らないけど、確かにそこから彼女の音は好意を示す音を今でも奏でている。


 幾度か激突するけど、お互いの職の特性上静と動の様にエマが動いて私が潰す事の繰り返し。彼女は強くなった。来てそんなに経ってないけど、それでも元からの地力とツカサが常に一緒にいた事で職の扱いが格段と上手くなり、最初の罠が出せないと言っていた頃とは雲泥の差。でも、私も彼とは一緒の時を過ごし、今も一緒に生活している。


「これでも自力で20階層へは行キ、戦地も歩いていル。」


「ゴォーーッ!!!」


 弾いた弾丸が爆発するのを強風で爆風ごと押し留める。イメージは嵐と旋風。旋風なら中央は真空そして風が渦を巻くなら爆風はその風に流される。強大な爆発でも真空中なら伝播は限られる。


「ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!!」


「厄介ナ、しかシ!」


 飛ばすのは打撃音。モンスター相手なら斬撃音やレンチンで済むけど、人にそれを使えばただでは済まない。エマの爆発や実弾は信頼の証と考えよう。確かにあの程度ならインナーは貫けないし、防御するにも軽い攻撃だ。打撃音は本人の動きとトラップでかき消され、当たった罠を潰すにとどまる。そんな中で足元に筒が転がり!


「ピュイン!」


 筒を蹴っ飛ばし笛を吹く。SP訓練で見たスタングレネード。耳を奪いに来たそれを蹴って押しやり音で梱包、爆発したであろうそれは姿を変えず落ちてくる。体感リズムで身体能力は上がってるけど、それでも接近戦を得意とする職には及ばない。元に投げたエマはギリギリ残像が見える速度にまで早く、身体を低くくして走ってきている。


「トラップ、ビッグホール!」


「!!、シュパッ!!」


 声の出だしで距離を取ろうと後ろに飛び、浮遊する玉をエマめがけて叩きつける。顔への1つは首を振って躱されたけど、本命は胴体への1発。速度が上がればそれだけ回避するのは難しくなる。こちらの玉もそれ相応の速度はあるし、更に加速音で純粋に速度を上げた一撃。メジャーリーガーの投球なんて目じゃない。


「まず1つッ!!」


「取ったとでも?」


 手から出たトラバサミで玉が挟み込まれるけど、それは問題じゃない。私に間合いや距離は関係ない。それは魔術師の遠隔発火や脱水と同じようなもの。音が響くなら、それが全て私の間合い。


「キィィィン・・・!ボンッ!!」


「かはっ!」


 圧縮音からの爆発。それは軽く見積もっても大ダメージ。殺し合いじゃなくで、気持ちの吐き出し合い。だから威力は抑える。ツカサがモンスターの方が楽というのに同意できる。人と人、それも同じ様な気持ちを持つ人との戦いは、やっぱり心が晴れない。ステップを踏んで広がる穴の範囲から距離を取る。負ける気はない。エマじゃないけど既にお互い負けてしまっているから、これ以上負けられない。


 単純にこれは意地であって、気持ちの押し付け合いであって、傷の舐め合いなのだから、至ればいなくなってしまう貴女の傷を私が少しでも多く舐めてあげましょう。


「やはリ、一筋縄ではいかないカ。ファーストと共に歩むと決めて自分を押し殺したからカ?」


「押し殺してませんよ・・・。アピールはしてみています。ただ、しても振り向いて貰えないだけです。」


「プッは、なるほど分をわきまえるカ。奥ゆかしい日本人らしイ。しかシ、私は米国人なので更に獲物を取りにいク!」


「クロエの安寧は私が守ります!」


 音が、いつか聞いた音が聞こえる。一歩を踏み出す音が、卓君から聞こえたような、何かを決めておっかなびっくり一歩を踏み出したそんな遠い先を目指して踏み出した音が・・・、聞こえる。うん、そうだよね。私の憂いは至ればクロエと離れなければならない事だった。エマのしこりはツカサが持ち去った。なら、お互いに心置きなく踏み出せる。


 意見は今ぶつかった。エマはツカサを諦めないと言って、私はツカサを守ると言った。なら、お互いがお互いに違う道を歩くだろう。同じ気持ちを持った負け犬の友よ。今、一緒に至ろうか。残念だけどライバルとは呼べないね。だって、彼は既に心に決めた人がいるんだから。


「至ると言うのハ、こんなにも心軽く心細いものなのカ?」


「そう?私は満ち足りてますよ?守ると決めた人を守れる力が得られる。それは素敵な事じゃありませんか?」


「私は狙う側の人間ダ。獲物と決めたならそれを取りに行ク。狩人とはそういう職ダ。」


「なるほど、私に対する宣戦布告ですね?防人改め中位 歌人相手になりますよ?」


「なラ、胸を借りよウ。狩人改め狩猟者これはちょっと強いゾ?」


  挿絵(By みてみん)

________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 遠く離れた所で戦っていた2人の動きが止まって、また動き出した。模擬戦と言うには激しく、しかし致命傷を与えるものはないようだ。離れているので、喋っている内容もわからない。しかし、止まった後から格段と動きが変わり模擬戦の激しさが増している。


 多分、遠くで見ていたので分からないが至ったのだろう。望田は笛以外にも言葉で音を示し、武器と同じ様な精度を出す。エマは罠の精度と配置数が更に上がり、高かった身体能力もさらに上がったのであろう、罠自体を足場にして立体機動のように縦横無尽に駆け回る。


 新たな中位の誕生か。どんな道を決めたのかは知らないが、それを思うほどに強い思いがあったのだろう。エマは全米1位が取れなかったと言っていたが、それに変わる何か獲物を見つけたとか?望田は・・・、どうだろう?いつも明るい彼女だが、施設育ちだと言うし、何か守るものを見つけた?


 深く聞いていいかデリケートな問題なので突っ込む気はないし、本人が歩むと決めたなら聞き役に徹した方がいい。扇動の事もあるし捻じ曲げたら事だ。そんな2人は爆発、斬撃、打撃にえっ!?レンチンまでしてる!?いや、それを無理やり爆風で捻じ曲げるあたり、エマの理解も進んでいるのだろう。


 しかし、エマは至ったなら本国へ帰るのか。渋って渋って、やっと決めて来てみたら意外と好人物だった。いなくなると寂しく感じるが、彼女にもまた彼女の仕事がある。大人は面倒だな・・・。何も考えずに仲良く遊び呆けていたいが、残念な事に仕事も責任もある。責任と自由、自由と責任。どちらが先に来るかで子供と大人に分かれる。大人はまず責任から始まって自由を得る。


 子供は自由にした後、取れるかもわからない責任に苦悩して学ぶ。本当に自由を得たいなら・・・、今は1人でゲートに入るのがいいだろう。そうすれば、自己責任と自己自由がいっぺんに得られる。そんな事を考えている先で、後先考えない2人がズタボロになりながらやり合っている。致命傷はないようだが、最初に着て来た服はとうの昔に消し飛びインナー姿でやり合うがそのインナーも所々破け、肌には無数の傷が刻まれている。


 そろそろ止めたほうがいいのだろうか?いい笑顔で攻撃しあい叫び合っているが、このまま行けばそろそろ致命傷が出そうだ。そう思った矢先にお互いに動きは止まり、がっしりと握手をして互いに薬を頭から掛け合い出した。少年漫画の河原の決闘を思わせるような絵面だが何か通じ合うものがあったのだろう。結構時間もたったし、そろそろ外に出てもいい頃合い。多分、声をかけても大丈夫だと思う。三眼の馬に乗り2人の所に運んでもらい姿を見るが、これまたどうして・・・。


「やり過ぎです。回復薬浴びても傷が残ってるじゃないですか。嫁入り前の大事な身体、あまり無茶はしないように。まぁ、モンスターと戦う関係上、傷が・・・。」


「ストップ、傷が治らなかったら貰ってもらいます。」


「う厶、それがいいナ。」


 知らん間に彼氏ができたのだろうか?エマには兵藤をそれとなくヨイショして、いい雰囲気を作ろうとしたからもしかするともしかして?望田は分からんな。同じ部屋で寝泊まりしてるけど、そういった感じはなかったし、もしかするとゲート内の知らない所で何か進展があったとか?


「そうですか。人を物の様に言う貰うと言い方は好きではないですが、相手がいるなら大切にしないとですね。」


「そうですねぇ、大切にしないとですねエマ。」


「そうだナ、大切にしないとナ、カオリ。」


 そう言って2人でニヤニヤしながら俺を見下ろしている。なんだろう?特に悪い事はしていないと思うが・・・。まぁ、2人が名前で呼び合うほどに仲良くなったのならいい事なのかな?見られてニヤニヤされるのは少し居心地が悪いけど。しかし、仲良くなっても別れの時は近い。至れば終了の訓練、後は本人が報告しておしまいだろう。


  挿絵(By みてみん)


 俺達の方も解散の時は近い。半数以上が至り足りない本部長はガチンコ勝負で選出予定。装置の完成がどれくらいかかるかは分からないが、あの様子ならそうそう時間はかからない。それまで行けば、晴れて俺は国へ帰れる。そうしたらまた、忙しいだろうな。エマの教育が終われば中層へも赴かないといけないし・・・。


「動いて汗かきました、銭湯へ行きましょう。」


「そうだナ、私も汗とホコリまみれダ。」


 たしかにあれだけ動いて模擬戦で爆発なんかもしていたので、ホコリまみれで汚れている。2人で行くなら俺は先に帰るか。戦って健闘を称え合った仲だ。積もる話もあるだろう。


「なら、出ましょうか。私は先にホテルに・・・。」


「戻らないでくださいね?土いじりで汚れたでしょう?」


「訳の分からん植物ダ。細菌が入っては事ダ。一緒に行こウ。」


 2人の目が怖い。顔は笑っているが、逃がすものかという圧を感じる。いやいや、風呂は駐屯地でも一緒に入ってるし、銭湯なんか行ったら騒がれそうなんだけど!?


「いや、私は汗もホコリもましてや細菌なんて・・・。」


「付き合ってもらったお礼です・・・、逃しませんよスキンシップ!」


「残り少ない時間ダ、触れ合おう師匠!」


「イヤだ!なんか怖い!」


「大丈夫、大丈夫・・・、カオリお姉ちゃんとエマお姉ちゃんが背中と頭を洗うだけですから・・・、ね。」


「そうだゾ。2位とはいえ美人ではあるのダ。大人しく洗われるといイ。」


 有無を言わさず肩を掴まれ引きずられていく。そんな中、フワリと2人から同じ香水でも使っているのか無花果の様な香りがした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉーすごいあつい! ここまで一気に読み進めてしまったけど まだまだ続きがありそうで嬉しい! 彼女らは今後登場してくれるのか、 愛着が沸いてしまった…。( ´Д`)y━・~~
[一言] 願いが叶うといいな
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