90話 試作品 挿絵有り
概ね発破は成功し、みんな気合が入った。その状態で慌ただしくもゲートで訓練したり、訓練生としての席だけ残し自分の組織の要請で教導に出向いたり或いは、教導資料の作成に駆り出されたりと、今まで以上に活発な意見交換や今しか出来ない、時間がないと試せないと言う大掛かりなイメージ訓練を行いだし、その関係でこちらにも様々な質問が、今まで以上に飛び込んで来るようになった。まぁ、講習会が終わっても電話連絡してくれれば答えられる質問には答えるのだが、終わりが見えてくれば心は急くものだ。それは、学校を卒業する時に似ている。
そんな日々の中で、橘の様なケースも現れた。それは、自身の訓練を行うと共に外で教導して回っていた清水なのだが、新人いじめの場に出くわしたらしい。階級社会の自衛隊、上官からの命令に背いては組織として成り立たないのだが、それでも限度というものがある。その限度を超えた行動に怒った清水が上官を叩きのめし、それがきっかけで道が決まりゲート内で中位に至ったとの事。このケースを考えると、やはりきっかけはゲート外でも得られるようだ。
自分の人生、何に括るかは本人次第。清水はパワハラや理不尽に対して許せない気持ちが大きかったのだろう。そして、その気持ちを胸に歩む道とした。ゲート内で中位になった清水は剣士から剣術者に第2職として用心棒を習得。あまり聞き慣れない職だが、海外では割と出るとエマは言っていた。内容は守護、指示、反逆と裏切り指揮官の様な職で武器は武芸の玉。それよりも喜ばしいのは、剣が反って刀のようになり鞘が正式に付いた事らしい。これは、職の位が上がった為の進化だろう。ここまで明確に変わった物は珍しい。
職については若干使いづらいらしく、用心棒の名の如く守護や指示の真価を得るには、清水が何かを預かる必要があるらしい。それは物でもいいし、気持ち等の目に見えないモノでもいい。盾師よりも文字通り現金な職だが、預けてさえしまえば護って貰う際に清水に補正がかかり、体感的には数倍、指示については俯瞰的にモノを見る視点が頭に浮かび、護衛対象の位置が常に分かるらしい。不穏なのは反逆だが、これは本人と対象の位置を強制的に入れ替えるモノらしい。言わば起点のあるテレポートで、モノを預かった対象と清水がくるりと入れ替わる。
悪用するならモンスターの群れに突っ込んで入れ替われば、された人間は強制的にモンスターと戦わされ、死にそうな一撃を前に入れ替われば回避不可能な一撃を貰う事になる。まさに反逆。そんな職でモンスターと戦えるのか?そう悩んだ清水に聞かれたが、まぁ、モンスターは例外なくクリスタルを内包しているので、モンスターの核は預かってるよね?と、言う事でイメージを発展させ、どうにか形にできた。この職は盾師あたりが就くと面白いだろうな。
「ファースト、30階層まで到達はしたのはいいガ、アイテムボックスの開封をそろそろしたイ。今日はその為のセーフスペースなのだろウ?本以外のアイテムは全て貰っていいのだったナ?」
「いいですよ、よほど危ないもの以外ですが箱の権利はエマにあります。本国に送るのは帰国時になるので了承してください。まぁ、開封以外にも実験を頼まれているんですよ。」
出土品は本人の物だが精査はする。これが自国で見つかったなら知らぬ存ぜぬを貫けるのだが、流石に本部長が居るのに知らんぷりも出来ない。問題なのは資源等目録の内容が増えている事。判定機で判定出来ればいいが、出来ないなら橘送りである。千代田の話を考えると変なモノがありそうで嫌だな。貸し出して帰ってきた目録も準備して箱を全部出してもらい一気に煙で蓋を開けて中身をプカプカ浮かべる。薬はいいか、色の濃い薄いはあるが回復薬は危なくない。
武器も変わった形のもの、クロスボウっぽいモノからドリルっぽいモノ。他には手袋とか銃とかメリケンサック、槍や剣は少ないが、見れば武芸者の玉に笛なんかも出てる。この辺りはまだ判定出来るな。嫌なのは設計図系の出土品。縮退炉がどの辺りの流出品かは知らないが、設計図が1番緊張する。資源等目録の様な薄いが本の形で、表紙になんの設計図か書いてある親切仕様だが、良かった数は多くない。
先ずは・・・、硬度照射装置。概要と思い浮かべると文書が出るが、材質質感そのままに硬度が上げられると。そうか、軌道エレベーター作れちゃうか・・・。カーボンナノチューブをその柔軟性のまま固くできるんだろ、月にエレベーターで行けちゃうよ。地元が宇宙港とか言ってたし誘致しそうだな・・・。まぁ、スィーパーとしては防具問題が解決したかもしれない。装飾師や鍛冶師は必要だけど、硬さだけならコスプレ衣装でもいい訳で・・・。
次は・・・、クリスタル液状触媒・・・。クリスタルを溶かして液体燃料に出来るとな?既にバイク動力はクリスタルだが、液化するなら扱いが良くなる?まぁ、千代田に渡して企業に頑張って扱い方を模索してもらおう。
他にも数点出ているが、面白そうなのはこれだよな。固定斥力発生方式による小型推進装置。ざっくり言って反重力発生装置?斥力推進装置だけなら打ち上げ花火になる可能性もあるが、固定出来るなら高度が設定出来るのだろうし、推進装置なら燃料は知らないが飛べる。うぅむ、JAXAが喜びそうなものがポンポン出て来てるな。内容は小難しいので、作れるかは知らないけど、学者が狂喜乱舞するのは確かだ。斎藤辺りは大学辞めて硬度照射装置作りに没頭しそうだな。
「本は読めるように訓練してきたガ、それはそこまで重要な事が書いてあるものなのカ?」
判定機を貸して薬を判定していたエマが興味深そうに聞いてくる。重要か否か、人類としてはここにあるものはノーベル賞量産設計図だよな。自力で作る訳では無いが、完成出来れば目覚ましい進歩となる。ただ、失敗が怖いのでセーフスペースにでも研究施設を作ってもらおう。昔のSFで企業国家というものがあり、今の中国がその形態に近いが、進む先の未来にその線も出てきたな・・・。
「エマはノーベル賞欲しいですか?物理学とかで。」
「その本にはそれが書いてあるト?そのうち言語統一されて日本語が共通語になるナ。読めない理解できないというハンデは絶大すぎル。」
「それは諦めてください。英語や中国語で話されたなら私は今ここに多分いませんよ。」
バベルの塔ではないが、言語統一されたら人は塔を・・・、いや、軌道エレベーターは既にバベルの塔か。なら、神様が怒ってそのうち言語シャッフルするのだろうか?まぁ、うちの神様は怒ったら引き籠もるだけなので、怒るならよそでやってもらおう。
「さて、アイテムの判定は済みましたか?」
「う厶、大量の薬はありがたイ。武器は財産として懐に入れるとしテ、実験とはなんダ?」
米国の出土品管理がどうなってるのか知らないので分からないがエマは武器を財産とするようだ。薬も私物化出来るなら、相当な額になるよな。オークションで武器の価格はだいぶ落ち着いたとは言え、それでも結構いい額するし、武器コレクターなんてのもいるみたいだ。
オークションで依然として高いのは薬関係、現時点で武器資源や本はほぼ出ない。多分、資源は自国で使っているのだろうし、本は初めて出た時の衝撃が大きかったのだろう。日本語が読めなかった人が出品したクリスタル結合装置の設計図は天井を決めていなかったので鰻登りに値上がりし、ヤバと気が付いたオークション主催者側と出品者本人、最後に国連が出張って国連お買い上げで決着が付き、その後は設計図の情報開示が行われた。
まぁ、作るのにモンスターの素材だったり聞いた事もない様なモノを要求されているので、早々完成はできないだろう。したらしたで、エネルギー産業は又もや窮地に追い込まれそうだが・・・。まぁ、そのあたりは本人の身の振り方である。今は実験を優先しよう。
「今日の実験はこの前言ったガチンコ勝負用の実験です。まぁ、ガチンコ勝負と言っても本当にやり合うと死んでしまうので、この機械を使ったものになります。ちょっと待ってくださいね。」
指輪から撮影カメラ数台と大きな輪っかを取り出す。この輪っか、企業努力の賜物で作成されたVRとARの同時発生装置なんだぜ。地元のお土産をいじくり回した結果、物は大きくなったが網膜投影と輪っか内の人体のモーショントレース、更には有線で繋げば輪っか内のモノはお互いに触った感覚まであるという優れもの。脳波なんかも読み取っているらしく、一応職の能力も再現できるらしい。
問題点は輪っかから出たものは当然だがロストする事。そして、脳波を読み取っているが、イメージで職は事を成すので当然暴発の恐れもあるし、処理能力の限界もある。言い方は悪いが、実用に漕ぎ着けた本当の意味での試作品。まぁ、制作元も何度も試験テストは行い、後はSやEXの職を再現出来るかという実験である。その輪っかを大体100mくらい離してケーブルに接続して、横にバッテリーを置いて設置完了。
「設置したのいいガ、インナー基準なのはなぜダ?」
「制作元曰く脳波読み取りに出来るだけノイズとなりそうな物は外す事。だ、そうです。一応、首の後ろにこのコインみたいなデバイスも付けてください。読み取り精度が上がるそうです。」
互いに輪っかの中に入り準備完了。予定では外も準備出来ており起動すれば外の装置に映像として俺達の姿が浮かび上がる予定である。当然映像なのでお互いに触れる事はできない。出来るのはマイクを通しての音声通信と、輪っかに入っているお互いが触れるだけ。ダメージは神経刺激らしいのだが、俺にそれは通用するのだろうか?
「もしもし千代田さん?設置完了したので起動しますよ。」
「お願いします。企業の方と松田さん黒岩さん、大井さんがいますがいいでしょうか?」
「企業の方は仕方ないとして、私もエマもインナーなんですが・・・。」
あのエロ親父ども!俺は別にいいがエマから訴えられたらどうするつもりだ!今日着てるのはそこまで露出の多いものではないが、金髪ねぇちゃんとか好きそうな年代だろ?どうせ、見せても原理も理解出来ないだろうしつまみ出して欲しい。
「つまみ出して下さい企業の方は精度チェックで仕方ないにしても、他の3人はいらないでしょう?」
「クロエさんよ、これで本部長が決まるんだ私達も確認は必要でしょう?」
松田が横から最もらしい事を言ってくるが、ここから調整して再度チェックの流れなら別に何度か後でもいい。何なら橘にSのテストをさせてEXはほぼいないのでしなくてもいいだろう。
「試作品のチェックしてどうするんですか?エマに訴えられたら国際問題です。嫌でしょう?覗きとかで政府の人間が捕まるとか。完成品をご覧下さい。」
「別にコンテストは水着審査もあるから問題ないガ?チェックなら人の目が多い方がいいのだろウ?」
背後から撃たれた!援護してくれるかと思ったら、本人からぶち抜かれた。まぁ、エマ本人がいいなら兎や角言う事は無いのだが・・・。まぁ、良いというのだからいいのだろう。
「本人も了承しているようですし、始めて下さい。」
「分かりました。エマ輪っかのボタン、赤いヤツを押して下さい。青は停止、赤は起動です。起動した後は網膜投影で輪っかとの境目が曖昧になりますが、そこから先はイメージで身体を動かすそうです。停止の時は網膜投影で周りが見えないので、手探りで探してください。」
「了解しタ。」
赤いボタンを押してとりあえず楽に座る。直に座っているので尻が冷えるが、座布団とかクッションの持ち込みも駄目なのだろうか?視界が切り替わり見えるのはどこかの大きな部屋。辺りを見回すイメージをすると視界が動き天井等が見える。事前に聞かされた事だが、この部屋の至る所に視界用のカメラが設置され人の視界と同じ様に見せているらしい。
「クロエ、こちらは見えますか?」
「見えますよ。自分の手は見えるのに、その手が千代田さんを貫通するのは何だか幽霊にでもなった気分ですね。」
とりあえず歩くようにイメージして歩き、手を伸ばすが千代田には触れられず手が貫通した。目に映る限りでは、作成元のスタッフ数名と松田達が見える。背後は見えないが、何か裏技とかあれば見えるのかな?とりあえず、キセルを取り出してプカリ。
「煙って見えてます?」
「かなり薄いですが見えていますよ。装置から外に漏れた分は表示されていませんが。」
「ロストと言う事ですね。エマ、そっちはトラップ出せる?」
離れた位置に出現したエマも普通に歩けている。見た感じ本当にここにいると認識出来れば、歩く事は難しくないようだ。これなら、多少の訓練をすれば格闘戦なんかはできるかも知れないが・・・。
「出ているガ、これは正解なのだろうカ?判定出来る人間は誰ダ?」
「待ってください、今確かめます!」
スタッフの1人が近寄り確認している。俺から見た限りでは何時もエマが出しているトラバサミと変わらないが、小さな違いでもあるのだろうか?近寄ってみよう。
「我々としては正解だと思いますが、気になる点がありましたか?」
「どうも軽く感じてしまっていル。映像なので仕方ないだろうガ、その当たりの対処はあるのカ?これで戦うとなるト、少し勝手が違うように思うガ。」
腕を振ったり、罠を何個か出しているようだが、ハリボテなので重さも何も無いのではなかろうか?一応、俺は今のエマにも触れる事が出来るので触って確かめた方が早いかもしれない。握手するだけでも、加重の掛け方が分かるかもしれないし。
「始めて使われたので感覚的なモノかも知れませんね。おい、パラメーターはどうなってる?」
「正常値ですけど、やや不安定ですね。スィーパー数百人から取ったデータを統合して値としていますが、エマさんの方は若干不安定です。逆にファーストさんは美しいくらいに整ってますよ?」
ここでも黄金比が仕事してるのだろうか?しかし、整った数値と言う事は、突出したものが無いとも言える。魔法職なので身体能力は強化しない限り普通だし、そのせいで美しいパラメーターになっている?試しに強化してみるか。
「!数値変動、握力500!?」
「・・・。クロエ、握力お化けになった感想はどうですか?」
千代田がズレたメガネを直しながら聞いてくる。確か500kgの握力ってゴリラと同じだよな?と、言う事はアイアンクローで頭蓋骨が砕ける?流石にそんな事はしないが、色々と要求されるこの身、ちょっとくらい縅してもいいだろう。
「リンゴジュース造るのは楽そうですね。松田さん、今度握手しましょう。ちょっと手の骨が砕けるかもしれませんが。」
「私を標的にする辺り恨みがあると?今度いい店で奢るので勘弁してください。」
しかし、軽く強化して握力500kg。赤峰が前に怖がっていたが確かにストッパーなしだと怖いよな。俺の場合、強化してない=一般人のイメージで済むのであまり気にしてこなかった。まぁ、魔法を使う時は気を付けよう。エマの数値が不安定なのは、複合的な職だからかも知れないな。ガンナーでトラッパーで身体能力が高いなら、読み取る機械にも限界はある。
そう考えると、望田の職はパラメーターとして現れづらいし、鑑定師なんかは更に貧弱なパラメーターになるかもしれない。その部分はマスクデータにでもしてもらわないと、変なイメージが付いてもよろしくない。
「パラメーターはマスクデータにしましょう。多分、その数値に意味はない。特にS職は尖った性能なので、パラメーターはガタガタになりますよ?はい、エマ握手。」
「ふ厶、柔らかい質感は感じるが本物とは雲泥の差だナ。」
「あくまで数値的に反発させてるだけなので、本物の質感は無理ですね。ダメージパラメーターとして出血のエフェクトとかはありますよ。」
そう言われて軽く手の甲を引っ掻いてみるが、確かにそれっぽいエフェクトが発生してき・・・、すぐ治った。データの自動修復とか?
「自動回復付いてたら勝敗つかないんじゃ・・・。」
「いえ、つけてないので修復したならそんなイメージがあるとしか・・・。興味深いデータですね。治癒師の方はそれが出来ましたよ。」
どういう原理が知らないが不思議ボディーは不思議に反映されているらしい。ん〜、認識の問題とか?エマ以外触れないが、確かに俺はここにいる。本体はゲートだけど見ている世界は外のソレ。職が反映出来るらしいし、イメージさえ出来ればそのあたりも機能するのだろうか?中々高性能だなこの機械。そのうちゲーム機とかで売り出さないかな・・・。そうでなくとも、安全に組み手できる機械としてはかなりいい精度だと思う。
「ここまででなにか不明点や違和感はありませんか?」
「特には。エマは?」
「私も得にはなイ。あるとすれバ、さっき言った軽さくらいだろうカ?」
お互いにそこまで大きい違和感はないようだ。軽さは慣れれば解消されるのだろうか?ガチンコするにも出来るだけ本人達が納得出来る様にしておきたいが・・・。
「模擬戦してみてはどうですか?動いてみれば何か変わるかもしれない。」
そう黒岩が言い出し、大井も頷いている。模擬戦か・・・、魔法職の再現を確かめる為にも必要だし、戦わずとも何か引き起こすだけでもいい。しかし、エマは嬉しそうに腕を回しているので、やる気満々なのだろう・・・。一応、確認は取っておこう。
「エマはしたいですか?」
「安全なのだろウ?なラ、手加減も必要なイ。言ってしまえばこれは枷の外れたイメージの押し付け合いダ。やらないという答えはなイ。」
そうか、手加減なしでしたいのか・・・。あまり争い事は好まないが、安全確認と魔法の再現精度を確かめるなら必要だろう。怖いのは処理落ちと、暴発くらい?本体も距離は取ってあるので大丈夫だと思うが、ガンナーとかは何かしらの手立てがいるかもしれないな。
「分かりました、制限時間5分。手加減なしでいいですか?まぁ、再現度とダメージの感覚も知りたいですし。千代田さん達は一応離れてください。」
「分かっタ。それで行おウ。」
危なくないと思うが、千代田達に離れてもらいエマと対峙する。とりあえず、体感ゲームみたいな感じでいいよな?要点はダメージの痛さと欠損なんかが発生した場合の処理。後は、魔法職が魔法を使った際の再現度合い。
「痛かったり、無理だと思ったらギブアップで。」
「させてみロ!」
そう叫ぶエマからの罠3点同時発動。足元からはトラバサミ、前方からはペンデュラム、おまけの最後は攻撃ドローン。さて、一度全部受けてみるか。足首にトラバサミはガッチリ食い込み痛みを伝え、胸を貫く振り子で息はしづらく、ドローンの掃射で身体に穴が開く。なる程、痛いが犬に齧られた痛みよりは痛くない。
「なッ!」
「なる程なる程。これならショック死はなさそうですね?」
キセルをプカリ。空いた穴は元通り。トラップを見た感じ何時ものエマと変わらない様な印象を受ける。それ即ち突然出てくる。なら、煙も多分変わらないのだろう。
「驚いて止まっては駄目ですよ?足元を掬われる。」
吐いた煙は漂い揺蕩う。拡散しようと香りがあるなら、それは煙の混ざった空気であり、煙のある証拠でもある。なら、操作するのは容易だろう。足首に煙を巻き付かせ、引きずり倒して胸の上から瞬間的に圧力をかける。カヒュッと息の漏れる音がするが、外見的に傷が無いのでどれ程のダメージかは分からない。圧力にしても、イメージは心臓マッサージだしな。
ヘッドブリッジで飛び起きるあたり、深い傷ではないと思う。さて、次は強化の方を試そう。足と腕を強化していつもの感覚で走り、キセルで殴りつけるが、それはトラバサミにガッチリと咥えられた。口元から一筋の血のエフェクトが流れている分、それなりのダメージ算出なのだろう。
「痛いじゃないカ。」
「痛くしないと本気っぽくないでしょう?」
「ぽくネ・・・、なら、本気はどこダ!?」
トラバサミにキセルは捉えられたまま、エマが前蹴りしてくるので手を離して後ろに飛ぶが、嫌な予感がする。多分、あれがある。無ければいいが、絶対に浮遊機雷が何個がある!
「包み包んで梱包し、触らぬ神に祟りなし。」
「起爆!」
発光するキューブが辺りにいきなり現れるが、それは機雷を箱詰めした後に爆発した結果。数は5だが火力は十分だろう。近接武器も再現されて打合いも出来る。手放したキセルは手元にあるような感覚はするものの、映像上は表示されないし、エマが持っているように見える。
なる程、武器を落としたり奪われたりした時の処理はこんな感じか。魔法も概ね再現されてるし、死なない体感ゲームとしてはいい塩梅なのではないだろうか。後は処理落ちの確認がしたいが、あまり気合を入れて暴発しても困るが・・・。
「スタッフの方、質問ですが魔法発動による本体側での暴発の危険はあり得ますよね?」
「それは・・・、強ければ強いほどリスクはあります。」
「なる程、分かりました。」
「変な枷があるという事カ。」
「ん〜、別々にゲートインすれば、そのリスクは限りなく減らせますが、有線から無線に変更するしかないですからね、しかも超長距離の。さて、再開しましょうか。」
「続けるのカ?」
「やめますか?」
そう聞くと、エマはショットガンを取り出した。罠で捉えトドメにショットガン、必殺ではなく、その先の確殺。あれを出すと言う事は、仕留めにかかるつもりだろう。時間も少ないし、次が最後かな。構えた短身のショットガンから弾丸が放たれる。グリッドイメージで罠を設置したなら、既に背後も左右も上空も罠がある。なら、向かうのは前しかない。
「道を開け尖兵よ、打ち砕け茨の道を、来い従僕腕を振り牙をたてよ!」
煙で出来た無数の犬がで・・・、た?駄目だここで処理落ちした。まぁ、モンスターを無作為に噛み殺しまわる魔法なので、量と再現で処理落ちしたかな。




