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街中ダンジョン  作者: フィノ
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87話 増えるんだってよ 挿絵あり

 駐屯地でお祭りが終わって数日、エマはなにか吹っ切れたかの様に動きと言うか罠の発動がスムーズになり、罠だけでもモンスター相手に後れを取る事がなくなった。その上で、飛び道具全般の扱いが得意なので、どんどんオールマイティーになっていく。更に言えば煙は無くなったものの、勝手にフィールドっぽい物も作っている。そうだよな、地面から竹槍っぽい物が生えるのは立派なトラップだよな。


 お気に入りなのかは知らないけれど、ベアトラップがピラニアの様に、カッチンカッチン刃を鳴らしながら飛んでいって喰い付くのも追尾トラップだよな。あっ、チェーンが付いているから喰い付いたら振り回すのか。待ち伏せしない攻撃性トラッパーってあんな感じになるのか・・・。振り回して周りを薙ぎ払った後は、地面に叩きつけて銃でぶち抜いておしまい。


 大型だろうがなんだろうが何のその、そもそもエマは米国の軍人なので超近代兵器・・・、詰まる所攻撃型ドローンを知っている。それは空からの目であり、コンピューター制御で侵略してきたモノへ自動的に攻撃する罠であり、自身のフィールドを作成する上では頼りになる相棒である。


 自前のフィールド、犬を付けての狩り。不明な敵なら相棒(ドローン)で様子見すればいいし、来てほしくないなら感知発動で牽制すればいい。狩人とは・・・、常に森に1人相棒と定めたモノと共に、人ならざるモノを狩る職業である。なら、1人で出来る事が多いのは当然だろう。


「ふ厶、こんな所カ。」


「ええ、そんな所です。20階層は暇ですか?」


「暇・・・、どうなのだろウ。ココのモンスターにもう脅威は感じなイ。しかシ、先に進む一歩は重イ。恐怖なのだろうカ?」


「普通の感情ですよ、何事も初めては怖い。この階層も今は2人だけ、しかし、知った階層だから怖くもないし、散々モンスターも倒したから、見知ったモンスターなら対処できる。階層を跨ぐ時に一番怖いのは、未知なるモノをより強大にイメージする事です。」


 強いと思えば強くなる。下地の強さはもちろんあるが、それにもまして強く感じる。クリスタルの大小で出力が決まるので、ユニークになればなるほど、喋りだせば喋るほど、確固たる個として強くなる。


「動画を見ろという事カ・・・。確かニ、見知ったモンスターなら対処のイメージも浮かびやすイ・・・。経験カ?」


「秋葉原でパチンコ玉に手酷くやられましたからね。今は何ともないですけど。」


「参考までに聞くガ、どう対処しタ?」


「パチンコ玉ですよ?要は鉄、酸で溶かしました。」


 賢者がやったが、今にして思えば驚くほどにスムーズにイメージを確定させ、酸の貫手で一撃。毒のイメージもあるので、触れただけでサヨウナラ。今なら出来ない事はない。他者を確定させるイメージを。


「・・・、一つ思うのだガ、魔法を失敗したらどうなるのダ?ファーストとテ、初めて魔法を使ったんダ、失敗はあるのだろウ?米国は魔術師が少なイ。教えるにしても、危険があるなら知っておきたイ。」


 エマの言う事はもっともだ。失敗したらどうなるか。糸は固定されず煙と消え、イメージを違えればモンスターは犬になる。割と危ないよね、魔法。霧散ならいいけど、変に操作すると化け物が・・・?俺の場合、殆どイメージを使い捨てにしているので、失敗してもいくらでもリトライする。逆を言えば、似たようなイメージしても結果が変わる事も・・・。具現化?法を破ったモンスター?


「黙り込んでどうかしたカ?恥ずかしい失敗カ?」


「・・・、いえ、どの工程での失敗かによります。魔法の工程は知っていますね?」


「あア、思考し、妄想し、空想し、操作し、具現化し、法を破るだったカ。どの工程でも同じ結果になるのカ?」


「具現化の失敗なら霧散です。法を破ったなら、間違ったイメージだろうと、それは引き起こされる(・・・・・・・)。」


 糸は消えたが犬は残った。違いはイメージを確定した事。糸を作る時は無から有を生み出すイメージが貧弱すぎて都度霧散した。しかし、犬に対しては全ての工程を徹底的に思考して固めて法を破った。汗も掻かない身体なのに、背筋に冷たいものが流れるような気がする・・・。魔法はコードを束ねて事を成す。なら、魔法ならモンスターを生み出せる?


 仮にそうだとすれば、ソーツは確かに資源など好きなだけ出せるし、いくらでも好きなモノが作れる。他の俺達より高度な星がゲートを受け入れるのはコードのより良い扱いを知る為?なら、ソーツはもしかして自身のイメージを潰す事が出来ない?なぜ?強固すぎるから?いや・・・、群体だから多様過ぎて誰がイメージしたか分からない?ならガーディアンではなく掃除するモノを作れば?


『それは先の話。賢しい貴方、愚昧な貴方。忘れた思考も呼び起こし、何故忘れたかも気付かない。その先を知りたいなら、中層へ行きなさい。最後の部分は預かっておく、貴方が預けた思考だもの。別のヒントを渡しとく。』


 誰がイメージしたか分からない?だから自分達よりも多様性の有りそうな他の星に依頼している?モノを作ると言う時に必要なのはインスピレーションもだが、それよりも絶対的な不自由さが必要だ。全てが満たされているなら、何も必要はないのだから、何かを作る必要はないし、そもそも作ろうという発想にならない。なら、ソーツは何かしらの不自由を感じているか、作った作品に可能性を求めている?


 話す時間すら惜しむほどにモノを作る事に没頭し、作ったはしから廃棄する程に目標としているものと違うものが出来ている?それは・・・、もしかして完成目標を見失った・・・、のか?見失ってしまったから、大量に作って当たりを引こうとしているのか?底に行けば行くほど作品は古くなる。なら、先に行けば彼等の目標が見えてきて、交渉の余地が生まれるのかもしれない。全ては空想だが、嫌に頭にこびり付く。


「間違ったイメージが引き起こされル?分かりづらいナ。何か例えはないカ?」


「樹の実がいっぱいなった木を作ろうとして、目玉わらびになる。食肉と移動手段を兼ねたモノを作ろうとして不気味な馬になる。ソーツは人やこの星の在り方を知っている。それは交渉の時に渡した。」


 効率を重視してあの形にしたと思っていたが、仮に失敗したイメージだったとしたら・・・?要らないと断じれば彼等は捨ててしまう。なら、身体がないからそのイメージも捨てて、結果として失敗したイメージとなっている?やはり奥か、答えを得ようとするなら奥に向かわなくてはならない。その答えに意味があるのかは別としてだが・・・。


「あれらはすべて失敗作であるト?」


「成功作をわざわざ捨てますか?」


「・・・、捨てないナ。成功したなら記念でもサンプルでもとっておク。」


「そういう事です。一応、セーフスペースはこちらからの要望でしたが、アレが成功例かどうかは分からない。成功に至る失敗かも知れないし、失敗した成功例かもしれない。答えは本人達にしかない。・・・、さて、訓練を再開しましょう。喋っていたらモンスターが湧きました。」


 そう話を区切るとエマがモンスターを倒しに行く。途中で魔女に呼びかけられたが、俺はどうやら思考の一部を預けているらしい。その選択をした理由が、なにか良くない事が起こる為だったと言う事は分かる。そして多分、この思考は同じモノを賢者にも預けている・・・。2回目が巡って来たと言う事は、何かしらそこに引っかかりを覚えているという事になる。


 どちらにせよ中層か。確か、下に行けばエラーコードが緩和されるんだったよな?スタンピード回避の為にも、中層の掃除は必要で、猶予はあるにせよ、悠長に構える事も出来ない。警告はあるにしても、10日前にゲートに明かりが灯るのみ。その後は溢れる前のアナウンス。親切だとは思うが、回避方法も推測なのでやって証明するしかない。


 講習会の終わりが見えてきたなら、やることは多いが奥を目指しだそう。差し当たってはエマである。感じ的には後は道を見つける事だろうがそればかりは本人達にしか分からない。逆を言えば、きっかけさえあれば至れる下地は多分あるのだろう。元々自力で20階層までは来ている・・・、頃合いを見て30階層を目指すとするか。


 そんな事を、考えていた次の日。今日もゲートに入りエマと話して本人の意向次第では、30階層を目指そうかと思っていると千代田に呼び出された。なんでも頼んでおいた動画の編集が終わり米国へ送る用のデータができたらしい。何時ものように喫茶店で待ち合わせをして、奥の個室でタバコとアイスコーヒーを楽しむ。なんで毎回アイスコーヒーかって?猫舌だからだよ・・・。


「さて、データはメモリースティックですか?それとも動画ファイル転送になりますか?」


「編集が完了済みなので転送という形になります。こちらがデータになりますので、エマ少佐に渡してください。ハッキングされて流出しても問題のない内容です。」


 駐屯地祭りで、娘さんと来ていた千代田は今日も今日とて強面である。もう七三分けには戻らないのだろう。まぁ、娘さんが怖がらないならいいか。


「分かりました、渡しておきます。話はこれだけですか?」


「いえ、1つは本部長候補の話です。中位は確定としてそれでも受講者は30名、残り17名+αを選出したいと考えています。αの部分については本部長に準ずる実力か又は副本部長として、ゲートの多い県に複数人の中位ないし実力者を配置する為の措置です。如何に強かろうと、ゲート内に入れば連携は取りづらいですからね。」


 ふむ、要は副ギルマスを作りたいと。事務方はスィーパーでなくとも、ゲート外の書類仕事に限定すれば処理能力があればできる。しかし、ゲート内に限って言えばスィーパーで且つ実力がないと務まらない。


「決め方は推薦ですか?それとも、名のある実力者とか?」


 推薦になると公務員バンザイだし、実力者となると民間バンザイになる。正直、どっちもどっちだがゲート内の行動はカメラでも持参しない限り不明なので、自己申告でしかない・・・。嫌な話が思い出されるな・・・、ガチンコ勝負とか・・・。


「宛があるなら受け付けますが50人くらいありますか、宛が。」


「残念ながら友達100人いないので無理ですね・・・。寧ろ、50人必要なら各都道府県の実力者を全員雇用でいいじゃないですか。」


 スィーパーをライセンス制にして管理元をうちとするだけなら、トップが民間から出る事さえ示せれば、後はギルドから実力者スィーパーに依頼という形も取れる。取れはするが、今の世代の次が全員公務員にされても困る。やっぱりやるしかないのか、スィーパーガチンコ勝負。しかし、生身でやると殺し合いだよなぁ・・・。その話が出ると言う事は、なにか解決策が出た?


「やり方はガチンコ勝負ですよね?解決策は?」


「クロエのお土産と企業が開発したハブで解決しました。それと、最近資源等目録は読んでいますか?」


 企業スゲー。いや、デジタル畑の人間が面白おかしく仕事したら出来るのだろうか?まぁ、ハブがあるならプログラムも出来るのだろうし、処理能力はスクリプターなら暗記出来るので問題ない?お土産はまぁ、ガチンコ勝負出来るようなモノがあるなら、空手の勝負くらいお茶の子さいさいだろう。しかし、資源等目録?


「忙しくて最近は見てないですね。何がありました?コピーして渡したはずですけど、到頭全容を海外へ公開とか?」


「いえ、最近コピーした物にない出土品が出ていると多数報告があります。目録に追記されていませんか?」


 指輪から取り出して見てみる。形こそでかい辞書の様だが、適当に開いてもイメージすれば必要な項目は勝手に出てくるので、特に手間は取らない。政府関係者は頭から最後までをイメージしてひたすらコピーしまくった様だが、ハブが作れるならこれからもデータがぶっこ抜けるかもしれないな。


「追加項目はっと・・・、べらぼうに増えてます・・・。」


  挿絵(By みてみん)


「やはりですか、貸出願えますね?」


「えぇ・・・。これにハブ付けれます?」


「どうにかならない事はないですが、そもそもデータ量が違いすぎてパンクしますね。」


「分かりました、出来そうになったら教えてください。その際はデータを引っこ抜きましょう。」


 富岳がおもちゃだとしても、出土品はある。なら、それに対応した大容量データ蓄積装置とかもあるだろう。なかったらどうにかこうにか探し出すしかないが、この目録もおいそれと人にあげていいものではない。原本喪失は今後の出土品が増えた際に何がどれかわからなくなってしまう。暇を見て新作がないか確認するか・・・。ファッション雑誌を見る女性の様だ。


「準備は進めましょう。しかし、増える事が分かったなら定期的に貸出をお願いします。ロストする品目もあるのでしょうか?」


「ん〜、作成停止品をイメージして開いてみましょう。あくまで資源等目録なので、そこまで大々的に品目を書いているとも思えませんし、わざわざ作成停止品・・・、ん?該当しない。なら、作成禁止とか?」


 作るのが好きだからって、停止品もなく作り続けているのか。辞め時が分からなくなって、本当に完成品を完成品として認識できないのか、或いは完成というものがないのか、完成させる為のパーツが足りないのか。まぁ、考えても始まらない。アイツ等の考えを読もうとしても、そもそも存在が違うのだし。


「禁止品はあるのか・・・、エラー?」


「・・・、それは大丈夫なのですか?」


「さぁ?特に重大とも書いてないので大丈夫じゃないですかね。しかし、エラーって事は奥に行かないといけないのか・・・。」


「奥に行けばエラーが解除されると?」


「感覚的な知識として、奥に行けば行くほどゲートやソーツ。或いは職に対する制限が緩和されます。なので、エラーが出ると言う事は所有者である私の突破階層が浅いということですね。現に中層にも行っていないので。」


「中層・・・、どこからなのですか?その階層は。」


 いい加減教えてほしい。行くにしても、安全圏は知っておきたい。イケイケドンドンで進んで落とし穴に嵌ってはバカ丸出しではないか。賢者か魔女、そろそろどこからか教えてほしい。


『やる気は有るのだし教えてあげよう、51階層からだよ。そこからが中層、逆を言えばそこまでに中位にも至れないのなら、浅い所で掃除するしかないね。』


 思いもよらなかったが、賢者から回答があった。51階層から中層か・・・、今が35階層なので残り15階層降りて、退出と進むゲートを後にした先にあるのか。なら、中位ならその辺りまではどうにか潜っていけるのだろう。ふむ、いい指標が出来た。


「持てる知識からすると51階層からですね。そこまでに中位に至っていないと51階層は厳しいです。まぁ、先を目指すなら鍛えるしかないですね、私も含めてですが・・・。」


 講習会にかまけて奥に入っていない、せめて退出アイテムを持って40階層辺りまでは足を伸ばしたいし、行けるなら45階層の退出ゲートも探しておきたい。ゲートの外でも、ガチンコ勝負やるようだし、また忙しくなってくるな・・・。


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