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街中ダンジョン  作者: フィノ
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閑話 人とヒト 前 19 挿絵あり

後はいつになるか未定ですが、多分早めです

「フロア担当の増田さん取引先の佐藤さんがお見えです。奥の部屋で打ち合わせをお願いします。」


「分かりました、お客様は少ないですが売り場は任せます。」


 因果なもので、クロエ専属のネゴシエーターとなってもこのバックグラウンドは残った。そして、取引先の佐藤とは公安の元部下。その職は辞して久しいが、わざわざここに面会に来るというのは珍しい。元々は使う立場だったが、役職を辞した後は別の者が上に立ち私は名目上、民間協力者の位置づけで動いている。


 一度日陰を歩いた者は日向に出ようと白ではなくグレーだ。全てを捨ててチヨダの室長となった際、私は自身の過去を抹消しているので、親の死に目には会わず出身大学の経歴は私のみ知る所となり、今の妻でさえ本当の私の名も過去も何も知らない。そもそも、結婚して娶ったのも抹消した過去を補強する為に、人との強固な繋がりとして娶ったに過ぎない。


 全ては自分の意思で国に捧げた。いらないのだ、個人などという存在は。私は歯車であり、感情で動くものではなく国の意思として仕事をこなす者に過ぎない。死んだとしても、悲しむものは少ないほうがいいと、何もなければそろそろ離婚も考えていた。


 しかし、その何はあった。ゲートであり・・・、クロエである。歯車として動き、室長としてではなく、一般人として強固な繫がりができたので、結婚生活を破棄しようかという矢先、件の人物が愛妻家と言う事で結婚生活は継続され、なし崩し的に増田 竜一と言う人物も存続することになった。まぁ、この辺りは私がまだ室長だった時に受けた指示なので、室長を辞した後は多分、死ぬまで世間で呼ばれる増田 竜一の名に変更はないだろう。


 尤も今はネゴシエーターなので、そろそろ大手百貨店フロア担当責任者から、更に行動しやすい民間スィーパー会社の経理営業担当へ移行する予定だとの通知も受けている。クロエが現れる前までは、人の多い百貨店は有用な情報共有の場であったが、職を辞しているので、もうチヨダに直接指示を出す事はないだろう。民間スィーパー会社というのも、幽霊企業で数十名の会社と言う事だが、中身は私のような立場の者達が席を置いているだけの会社だ。


「お久しぶりです佐藤さん、新作の秋物ですか?今年はダークオレンジと年始めに聞いていましたが、やはり黒が来そうですね?」


「えぇ、増田さんもお元気そうで。今年は黒ですよ。よく外しますが間違いない。やはり、彼女の影響が大きい。デザインはリストの8番あたりのモノです。」


 部屋に入りお互い挨拶をしてフロア担当責任者としての顔で話す。声が漏れようと、会話に不自然な点はない。フロア担当責任者が新しい衣類の話をするのは当然で、それが季節の変わり目なら尚更。しかし、これはすべて暗号文。拾った情報を頭で整理すると、混ざった色=不確定、原色=確定。デザイン=武闘派、穏健派。リストの8=監視対象組織名リスト、その名簿の8番目。そこになにか動きがあったか。


 リストの8は武闘派の古い組織で名はホングヌス。一番不味い組織の名が出たか。ホングヌスは国内にある監視組織対象で有りながら、中々手の出せない組織でもある。それは、成り立ちと構成員に依る所が大きい。中、露の完全に外国人が牛耳る組織で、質が悪いのは組織のバックには国がついている事。合法非合法関係なく、この組織は国内の情報を各国に送るアンテナ組織だ。資金源は様々、薬もあれば表の企業として運営されている所もある。


「8番目ですか、仕入れは多い方がいいですか?1人では決められない所もありますが。」


「いやぁ、1人で決めてくださいよ。責任者なんですから、早くしないと量も減ってきています、いちばん大事なポジションから外れるんですから、仲介はするんで最後の仕事と思ってね。そう言えば最近は朝露がつくようになりました、冬も近付いてきていますね。」


「朝露がですか、結構ついてましたか?」


「いえいえ、少ないですよ。大きいのが流れ落ちるのを見たくらいです。では、これは見積もりになります。」


 暗号を頭で整理しながら、見積もり書を封筒から出して見る。協力者=1。量が減る=構成員は減らした。最後の任務通知。朝露の露=ロシア側を受け持て。大きいのが流れ落ちる=ボス拘束ないし始末。見積もり書の内容は、トラックドライバー=協力者名、トラックナンバー=装備品受領指定品倉庫、品目数=協力者と会う日時、記載ナンバー18782、運送会社の出発地芝浦埠頭、諸々の見積金額¥18,782=芝浦埠頭で装備ないし、次の暗号を受諾、協力者は高橋、記載ナンバーと見積もり金額を足すと・・・、18782+18782=37564。穏やかではない。ポケベルなんて物が出た当初は、数字の語呂合わせは行わなくなっていた。しかし、それが廃れて久しいのでこうして蘇った。


 見積もり書を貰い世間話を終えて佐藤は退出したが、後の情報は加藤からと言う事になる。装備品の項目がある以上銃を使えという事。ソレで対応出来るならいいが、相手がスィーパーだとするなら心許無い。しかし、私は職に就いていないので、これしか対応する武器がない。やれやれ、一線を退いて室長となり、職を辞したあと、栄転前の最後の仕事がこれですか・・・。


「すいません藤田さん、統括の元へ服の話をして来ます。後は貴方に任せました。」


「分かりました増田さん。」


 店舗内を歩きながら考える。上も人が悪い。ネゴシエーターなのですよ?それをわざわざ危険地帯に放り込むとは。正式に幽霊会社に栄転して更に自由に動けるようになったなら、国の歯車として調教するとしましょう。しかし、久々の現場・・・、多少は自由にさせてもらいましょう。おっと、この顔はお客様には見せられませんね。


  挿絵(By みてみん)


「統括、仕入れ(・・・)があるので明日から不在になります。」


「分かった、栄転はいつ頃になりそうだね?」


「仕入れが終わり次第との話です。送別等は必要ありません、後任は追って連絡があるものと思ってください。」


 百貨店統括マネージャー、彼は民間の協力者で我々が統括に据えた人物。しかし、彼は私の事を末端どころか使いっ走りだとしか思っていない。全ては霧の中、闇から闇へ移ろい真実は必要なく、事実さえ積み重なればいい。どの道、彼と私はこの話を最後にこうして話すことはなく、仮に話すならばその時は客と店員以外の立場はない。


「そうか。優秀だったから、そのままいてもらいたかったが仕方ない。どうだ?給料も増やすから残らないか?増田だけに。」


「はっはっはっ・・・、小粋なギャグですね、しかし、決めた事なので。」


「決めたなら仕方ない、退職等の事後処理はしておこう。」


「ありがとうございます、では。」


 仕事を円滑にする為に、様々な従業員と酒を飲み時には相談に乗り、或いは愚痴をこぼして姿を隠していた。今の統括のギャグはいい愚痴の材料だっただけに、餞別に笑いを送ろう。集団の中で埋もれるなら、誰かと同じ愚痴をこぼすのが共感を得やすい。そして、更に埋もれるなら無個性であればいい。


 黒いビジネススーツに少し野暮ったいメガネ、七三分けだった髪は流行に似せて誰かと同じ髪型にした。惜しむべくは、髪型を変えたせいで、生来の強面が強調された事か。妻子がある以上整形は無理で、クロエに出会ってからは完全に非効率的と切って捨てた。


 日々見る人物が急に整形などすれば、その時点で要らぬ疑いを持たれる。ならば、そのままでいい。彼女は元は一般男性で、人は良さそうだが決して馬鹿ではない。それに、下手に騙す結果となれば何が起こるかもわからない。一般男性の時ならば、話の通じる良き友人と言う協力者に出来ただろう。しかし、事態はそうはならなかった。


 男性の時に会う事はなく、女性となってから出会って交わった線は複雑怪奇な模様となり、私もそれにかすめ取られた側の人間だ。黒江 司。たった1人の人間として国を・・・、いや、世界と言う枠組みを怯えさせた人物。ゲートなんてモノが無ければ埋没した有象無象だったはずの彼は、最初に入り彼女、クロエ=ファーストとして生まれ変わった。


 彼女の功績は計り知れない。それと同時に、彼より先に他の誰かが入った方が、良かったのではないかと言う意見もある。いや、意見ではないか。馬鹿が入ってくれればコチラが操りやすかったと言う嘆きだ。官民一体、政府が嫌がり彼女が押し通したコレは政治家からすれば頭の痛い話でしかない。郵政民営化ですら現場への多大な労力と時間を割いたというのに、ゲートにまつわるこの話はその比ではない。


 しかし、先を見るという視点ならこの話は切っても切れないものとなる。要はどの世代でいつ、誰が舵取りしてやるかという話なのだ。下手をうって失敗すれば批判と損失は計り知れない。なので漫画の主人公のように、無責任に『命は大事だ!』と、だけ叫んでもらい、後の構想のない状態で政府になげてもらい、政府は『なら公務員限定にしよう』としたかったが、いくら説得しようとも彼女は今やるの一点張りで政府側が折れる羽目になった。


 彼女は冷酷ではないが、人が死ぬのは容認する。それは、秋葉原を見ても分かる。そして、その時期に私に政治家を殴りに行かせたのもまた、感情でやらせたのか、それとも計算でやらせたのか?あれはいい防波堤になった。事態の規模が分からぬ状態での開戦前だったが、あれのお陰で政府もチヨダも動きやすくなった。今でも思い出される愉悦。



________________________


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「ここは安全で、ファーストがすぐ助けに来て護衛してくれる!なに!私達が依頼を出したのだ、断るわけがない!」


「そうでス、我々は特命全権大使!一国を背負っていまス、我々に何かあれば、ニホンは後がないデス!」


「安全エリアが本当か分かりませン!早くファーストを!」


 車を飛ばし赴いた場所には、各国の大使と先導する政治家。自国の政治家ながら浅ましい。死にたくないのは分かるが、避難した先で更に怯えその上で自身の功績を得ようとする様は腐ったミカンでしかない。既に、集まった大使の名は他のチヨダが調べ上げている。なら、後はミカンを潰せばいい。


 コツコツと鳴らした革靴の音に気付いた政治家に、なんの躊躇いもなく一発。拳が頬の骨を捉え、砕かんばかりに振り抜き鈍い音が部屋に木霊する。ふむ、久々に殴ったが腕は落ちていない。的確に捉えた拳は力を余すことなく伝え、伝えられた政治家の頬は程よく変形している。登場から流れるようなストレートだった為、誰も声を出せず倒れた政治家のみが痛みに呻いている。


「ファーストの言葉を届けに来ました。一発かましてクソ喰らえだそうです。今後、ここにお集まりの皆様の国の要請について、一切受け付けないと。明言されました。」


 呻いていた政治家も、大使達も私の顔を見ると青ざめる。既に政府公認のファーストに対するネゴシエーターとして、各国の大使達に私の話は回っていた。虎の威を借る狐ではないが、どの大使も押し黙り私を見ては悲壮な顔をする。この後の自身の処遇を理解しているのだろう。


「べ、弁明と謝罪の場は!我々は大使なのだゾ!」


「あるわけ無いでしょう?要請は受け付けないと明言されたのです。そもそも、彼女は個人です。国がその人権を侵害できない。どうぞ、国に帰国されてこの話をお話しください。近場の安全(・・)な空港までお送りしましょう。」


 たった1人の人物の意向で、この時世界は動いた。私のやった事は、1人の老いぼれを殴ったに過ぎないが、しかし、この拳は確かに、舐められっぱなしだった我が国が世界を殴りつけたのだ。自身の成した事ではないが自然と笑みが溢れるのを感じた。



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 断頭台に送られる様に大人しくなった大使達は、疲れ切った顔をし、中には血が出るほどに頭を掻きむしる者もいたが、自身の軽率な行動が蒔いた種。その後の処遇は私の知る所ではない。寧ろ、私はこの種を蒔いてくれたクロエに感謝している。愛国主義者ではないが、私は国の歯車。歯車にとってその回転が邪魔されず、規則通りに回るのは喜ばしい。


「あら、貴方。早かったのね。何時もは残業ばかりなのに。」


「ただいま。早織、明日から他県の店舗で会議する事になった。ファーストが現れてから、今年の流行総変わりで疲れるよ。」


「お父さんお帰り、ファーストちゃんまた来る?」


「ファーストさんは忙しいから、そうそう来ない。それより亜沙美、宿題は終わったのか?まだなら早く終わらせなさい。」


「お父さんのケチ〜。いいもん、ご飯食べてからやるし。」


「出張はどれくらいかかるの?前みたいに1〜2週間?」


「それくらいだ。話が早くまとまればすぐに帰る。」


 家に帰り不在の旨を伝える。幾度となく交わした会話は、スルスルと口から嘘のアリバイを紡ぎ、妻と子を納得させる。前は良かったが、こうなると分かっていたなら私は独身のままでいただろう・・・。いや、愛妻家の彼女と話が合うのでこのバックグランドは有効か。2人に愛情というモノがない訳では無い。ただ、私の優先順位の問題だ。


 愛情を切って捨て、身分を隠して紛れ、人を殺し、ただ歯車として国に殉教する者達の長として、私がこの2人を最優先とする事はない。いや、無かったが正しい。職を辞したのだ、最後のこの仕事が終われば、2人を優先しても問題がなくなるのか?ふむ、ヒトを捨てていたが、どうやら私はまた人になる切符を貰ったようだ。


 娘の宿題を見終え、学校からの授業参観日等が記載されたプリントを確認する。今までは妻に任せきりだったが、不意にそんなモノが目についた。


「珍しいわね、貴方が学校のプリント見るなんて。」


「これでも父親だ。・・・、次に間に合えば私が行こう。」


「・・・、どういう風の吹き回し?親御さんでも狙ってるの?」


「なんでそうなる・・・、娘の成長を見るんだ。」


「そう、何を見るにも仏頂面の堅物だから、私に飽きてるのかと思ってた。なら、カッコいいスーツ準備しなくっちゃ!」


 妻がそう言いながら嬉しそうにしている。仮初だと思っていた夫婦生活はしかし、形は保てていたのか。しかし、それを真実にするにはまだ仕事が残っている。どこもかしこも人材不足、私とて駆り出されるのだ粛々と仕事をこなそう。室長ではあったがプライドはない。歯車にそんなものは必要ない。頭を下げるくらいで相手が引いてくれるなら安すぎる。


 就寝して次の日。私は車を走らせて芝浦埠頭にいた。装備品の回収の為だ。倉庫街を進み、指定された倉庫に行くと中で作業員達が忙しなく荷物の整理をしている。さて、ここで接触してくるのは・・・。


「あっ!鈴木さん、ご無沙汰してます。海外から家具がとどいてますよ。」


「おっす!武田くんおっ久〜。いゃぁ、最近は家具の仕入れ大変だよ〜。個人営業主辞めてどっかの会社に雇われようかな?」


「やり手の鈴木さんならどこでも入れますよ、東京駅近くの店舗紹介しましょうか?さっ、こっちです。今回は箪笥ですね。1514年に作成されたルネッサンス初期の鍵付き箪笥。北欧の建材を使ったという珍しい品ですね。」


 ポケットからメモ紙を取り出して読み上げる。建材にしろ何にしろ全て嘘の情報を。別にそれは構わない、骨董品の価値など分かる人間が分かったふうに値段を付けているにすぎない。現に、この箪笥は贋作だ。


「ほぅ!やっぱり私の目に間違いはなかった!よし、鍵をくれ一度開けてみよう。」


 鍵を受け取り箪笥を開ける。当然中身は空ですべて暗号。紹介先=目的。箪笥=コインロッカー。1514=路線。北欧=北つまりは東京駅の14、15番線北口のコインロッカー。


「中身の状態もいい、いつもの所へ送っておいてくれ。」


「分かりました。あぁ、箪笥の鍵は封筒に入れるので貸して下さい。」


「ああ、ありがとう!今度差し入れでも持ってくるよ!」


 倉庫を後にして東京駅へ。先程の武田は何も知らない。ただ、彼の上司が協力者で、その協力者も単に私を騙して贋作を渡すと言う指示を受けているだけ。上司の中では私は贋作のブローカーで、中々あくどい事をしている事になっているだろう。


 指定されたコインロッカーからバッグを取り出して、挟まれたメモの指示に従い適宜路線を乗り降りしながら、途中昼食を挟みつつ対象の情報を整理する。対象はロシア側の幹部、名はアガフォン。スペツナズ出身の将校でシステマ使い。骨が折れる相手ですね。システマは生存を主とした格闘技術なので、常に動き続けあらゆる状況に対応するよう、武器に対応した攻防技術が多く盛り込まれている。


  挿絵(By みてみん)


 スパイ天国のようなこの国で常に誤情報を流し続けて、稀に真実を混ぜる事で撹乱していましたが、今回の仕事は彼女絡みでしたか。高橋に会う前に貰った最後の情報、その暗号の中にあったわざわざ組織を潰さなければならない理由。彼等はどうやら莉菜さんに目をつけた様ですね。なる程、総掛かりで潰すに値する事案ですね。そもそも、チヨダとしても彼女には拉致したという負い目がある。


 今思い出しても腹立たしい。歯車が勝手に動けば調律は乱れ、その波紋は予期せぬ事態を呼び起こす。仮にあの時、彼女がコチラを敵と認定した場合、我々は取り返しの付かない状態になっていたでしょう。奇しくも、それは彼女自身を決断させる方向に転びましたが、あのメールを貰った時は正直、指示した人間も実行した人間も射殺しようかと思いました。


 そもそも、クロエの件は私に一任されていて、不測の事態とはいえ家に呼ぶ程度で過剰反応し過ぎなのですよ・・・。指定された場所に歩いて向かい、時間丁度に予約表示でハザードを点滅させているタクシーを拾い乗り込む。何台も止まっていますが、ハザードの点滅を微妙にずらしてモールス信号の要領でこちらに高橋と送っていた。


「どちらまで?」


「東京湾まで。」


 目的地を伝えタクシーが出発する。しかし、上も人が悪い彼を駆り出してくるとは・・・。彼も彼とて今の任務が最優先でしょうに。私が指示した最悪を防ぐ安全装置としての役割。きっとこの先彼はこの任務から外れる事の無いという、首輪をはめられた人物。まぁ、割と楽しそうなんですけどね。


「今は五十嵐君でしたか。中々愉快な場所のようですね、あそこは。」


「不健康極まりない場所ですよ。まぁ、鑑定師が出てしまった以上こうして安全装置になるのも悪くありません。まぁ、これも考え方がそうだったから、と言うのもあるんですけどね。」


「私はスィーパーでは無いので、この辺りの感覚はクロエから聞くに留まります。尤もアガフォンがスィーパーでないと言う確率は低いので、相対した場合、私ではなく君に頼む事に・・・。」


 ゴタゴタの中で最後には確認した資料では、彼はスィーパーではなかった。しかし、就いていないと言うのは希望的観測ですね。ゲート開通の混乱、秋葉原の混乱、そうで無くともゲートに入る事を禁止する法律はない。


「残念ながら、確定でスィーパーです。職は1番嫌な格闘家でしたね・・・。聞き取りには偽名で答えたようですが、その後の観察で間違いないと判断されました。なにせ、素手で中身の入ったドラム缶を潰して、同じ格闘家と本物のナイフ使って近接格闘したそうです。」


 いちばん嫌な職に就きますか・・・。システマ使いの格闘家、一筋縄では行かない相手。今必要な事はクロエの言う対スィーパー訓練を思い出す事でしょうか?ふむ、あれは私には合った対処法ですが、スィーパーでない私がしても効果が有るのかが・・・、いえ、イメージなのですからその辺りは問題ないでしょう。駄目なら死ぬだけですし。


「はぁ、私は無力です。対応は任せましたよ?」


「またまた、貴方は室長(・・)なんですよ?それとも、スィーパーに今からなります?」


「いえ、私がスィーパーになる事はありえません。それに、対人は合気道と逮捕術それとサブミッション以外はできません。」


「それだけできれば十分ですよ・・・、しかし、なんでならないんですか?」


「決まっているではないですか。私はクロエ専属のネゴシエーター。対等でないといけないのですよ。」


 交渉を行う際お互いに立場というものがある。彼女は割と気さくで頭の回転も早いが、スィーパーの長となる人物。そんな人物にどうすれば、対等の立場でモノが言え交渉ができるのか?答えは枠組みに入らないが1番正しいだろう。


 仮に私がスィーパーだったなら、きっとお互いの距離感は崩れ去り先輩後輩、或いは目標や憧れなどという意見を挟みにくい立場となる。それだけは避けなければならない、人が全てスィーパーとなるなら、私もそれに従うが今の時点では、まだ(・・)ならないと言う、選択肢を取った人間もいる。私は国の歯車なのだ、新しい歯車が組み込まれようと、古い歯車が全て無くなる訳では無い。なら、私はネゴシエーターである限り対等の立場である、職に就かない者として口を出そう。


「そろそろ見えてきました、あの廃ビルです。室長の武器は?」


「拳銃に警棒、他は少々の暗器くらいですね。数は?」


「壁に触って鑑定した限りだと・・・、5人何れもスィーパーですね。」


 世知辛い世の中ですね・・・。世紀末ではないですが、一般人には住みづらい・・・、そんな世界にならないように私達が頑張ってるのです。はぁ、プライドはありません。必要ならクロエの足でも舐めましょう。しかし、歯車としての役割はあるのですよ。・・・、なぜ、今クロエが出た?


「どうかしました?」


「いえ、他のチヨダも同時攻撃各個撃破しています。中国側はほぼ壊滅状態。あの国はロシアより分かりやすい。さて、詰めです、行きましょうか。」

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[一言] めっちゃ格好いいインテリヤクザだったのに最後のせいで変態に… クロエのおねだりが効いてますな(笑)
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