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街中ダンジョン  作者: フィノ
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9話 そんな驚き

 宮藤と話して喫煙室を出た後、俺は橘に捕まり、今婦警達と共に更衣室にいる。見栄えのする衣装の試着という触れ込みだが、婦警の格好でもするのだろうか?流石にミニスカポリスは無いだろうが、さてはて。


「今回衣装選びと化粧を担当する柊です。」


 そう言って挨拶したのは、赤縁メガネで童顔巨乳の柊さんと他数名。胸より尻派の俺だが、あの胸だと肩が凝りそうだ。そして、橘への疑惑が深まる。


「いや〜綺麗ですね。小さくて細くて儚げで、お人形さんみたいですよ。私の事お姉様とか呼びません?」


「生憎と妻がいるもので。」


「スール的な者も可ですよ?」


 この人グイグイ来るな、押しが強い。俺は余り女性には強くものが言えない質なのだが。先行きが不安だ。


「ロサ・ギガンテス・アン・ブゥトンでしたか?」


「違います、ロサ・ギガンティアです!どこぞの1つ目怪物にしないでください。しかし、知ってるんですね、嬉しい。」


「まぁ、昔取った杵柄です。こちらからも質問ですが、私の事は?」


 そう聞くと、荷物を出していた彼女は手を止めて、こちらを振り返る。俺の事を知っているのと、知らないのとでは対応が変わる。


「知ってますよ。私もそんなに綺麗になれるなら、潜りたいくらいです。」


 げに恐ろしきは、女性の美への執着か。人は中身と言うけれど、中身に行く前に外見がある。出会った瞬間に人の印象は7割決まり、その後変えるのには多大な労力を使うと言う。化け物外見を変更して良かった。


「なら、特に言う事はありません。やってください。」


 そう言うと、集まった婦警達は箱から、ゴソゴソと衣類を取り出した。潜入捜査用だろうか?なぜこんなに衣装があるんだろう。


「サイズは高槻医師から聞いてるので、大丈夫だと思います。衣装諸々は経費なのでご心配なく。」


 不思議そうに眺めていると、柊がそう話した。経費・・・税金か。未だに財布は会社にあるので、出してくれると言うのなら素直に受け取ろう。しかし、高槻よ個人情報たれ流しではないか?手間は省けるし、知られて困る事もないが。


「先輩、これどうです、これ。似合うと思いません?」


「いや、体型からするとコレでしょ。」


「待って肌の色があんなに白いのよ、原色系でまとめないと!」


 女性が集まれば姦しい。ここには女性が多いわけだが、よくできた漢字である。女性が服を選ぶ際に男が出来る事は黙って耐え忍ぶか、自分も服を見ると言って離脱するしかない。俺の場合は耐え忍ぶ。ランジェリーショップだろうと、耐え忍ぶ。妻といて、綺麗に飾ってくれるのだから安い安い。中年既婚者のメンタルは意外と強い。


「黒江さん、何か好みは無いんですか、好みは!このままじゃ収拾付かなくて、着せ替え人形コースですよ?」


 何やら下着を持った柊が俺の方に来た。服には無頓着でしかも女性物となると、中々ハードルが高い。


「色は黒が好きです。あとのデザインは・・・画面映えするものを。後は任せます。」


「分かりました!」


 そう言って戻っていく柊に断りを入れて、喫煙室で一服。こんな事なら、遥に連絡を入れて選んで貰った方が楽だったかもしれない。あの子はファッションデザイナーを目指しているだけあってセンスがいい。


「黒江さん、服決まりましたよ。早速試着してください。」


「・・・、分かりました。」


 柊の後を付いて歩く。さて、どんな服が選ばれたのやら。願わくは戦闘に支障のない服であってほしいが・・・。更衣室に入ると、先程の婦警達が二分化され、方や晴れやかに、もう片方は膝を付いて落ち込んでいる。明確な勝者と敗者だ。下手に声を掛けると着せ替え人形待ったなしなので、スルーする。


「それで、どの衣装ですか?」


「これです!いや~難航しましたよ。危うく殴り合う所でした。」


 何が彼女達をそこまで駆り立てるのか?きっと神のみぞ知ると言うやつだろう。手渡されたのは黒いドレスのような服と編み上げブーツ、広げてみると、あちらこちらにフリルと赤いリボンタイが付いている。


「ゴスロリですか・・・。」


「はい、画面映えして、ある程度動けて、下着も見えない。色も黒ですし、これとメイド服で意見が割れましたが、平和的にこれに決定しました。」


 何が平和的かはさて置き、この歳になってゴスロリを着るとは思わなかった。まぁ、女性になった以上、女性物の服を着るのは吝かではない。スカートだって履ける。しかし、ゴスロリかぁ。


「参考までに、これは私に似合うので?画面映えだけ狙う為なら、再考願いたいですが。」


「何言ってるんですか!今の貴女に似合わない服なんて、それこそ・・・なんだろう?ともかく、似合わない服が無いんですよ。」


「はあ・・・。」


 俺の気の抜けた返事は、そのまま流され、ゴスロリ服を着付けてもらった。頭に付けるヘッドドレスは無く、代わりに髪をツインテールにされた。編み上げブーツは自衛隊で、半長靴を履いていたので、そこまで手こずることなく履けたが、新品なので若干硬い。スカート丈は膝下まであり、タイツも履いたので下着が見える事もないだろう。


「髪の色はどうします?目立つ容姿なので染めた方が本人特定されにくいですが?」


「あー、多分無理なのでいいです。」


 髪を染める原理はキューティクルを開いて、そこに色を入れる方式が一般的だが、そもそも俺の身体は巻き戻る。多分、色を入れる前の段階、キューティクルが開いた瞬間に閉じる。


 マジックやスプレーで直塗りならいけるかも知れないが、試したいものではない。衣装を着付けて、ほんの心ばかりのメイクをして準備完了。姿見で全身を見るが、特におかしい所はない。


「皆さん、ありがとうございます。1人ではどうしようもなかった。」


「いえいえ、いい仕事ができました。」


 そう言って手伝ってくれた、柊達にお礼を言って外に出る。取り敢えず、現場まではこの格好のまま、過ごさないといけないのか。着方脱ぎ方整え方は習ったが、服が服だけに時間がかかりそうだ。


「黒江さん?くっ、いや、お綺麗になられて。」


廊下を歩いて喫煙室に向かう途中で、橘に出会った。向かうまでにもかなりの人に見られ、振り返られたが無視だ。橘は着飾った俺を上から下まで見ると、口もとに手を当てて笑みを隠している。


「橘さん、ロリコンか?」


「まさか、綺麗な方は好きですが。」


 おまわりさんコイツです。いや、コイツがおまわりさんか。喫煙室に橘と入りふと気づく。服に臭いを付けて大丈夫だろうか?いや、クリーニングして返すから大丈夫か。自己完結してタバコに火を付ける。


「その付け方も、何だか見慣れましたね。」


「そう遠くないうちに、これが日常になります。・・・慣れるなら早い方がいい。」


 たゆたう紫煙を見ながらそう返す。今回の配信で、どれほどの人が見るかは分からない。配信者も厳しい業界だと、聞いた事がある。しかし、時は戻らず進み続けるのなら、この配信にも何かしらの意味があるだろう。・・・真面目に見たらひっくり返る内容だが。


「こちらは準備出来てます。後は、黒江さんにかかってますが・・・、すべてを押し付ける様で申し訳ない。」


 そう言って橘は頭を下げる。押し付ける、か。俺が失うものは今の所無い。家族も居る、命もある。働き口は探さないといけないが、容姿に恵まれたので、自画自賛の様で嫌だが、モデルでもなんでもどうとでもなる。


「橘さん、私より貴方の方が危ういでしょう?この配信は貴方の独断だ。私はまぁ、一般人なのでせいぜい、捕まるだけで終わる。次第によってはより、身分が確定される。しかし、貴方は全部・・・今の地位も何もかも、失う可能性がある。」


 そう言って橘に視線を向けると、手で顔を覆い何処か芝居がかった様に話しだした。


「私は警察官で、市民を守る義務がある。1つ昔話をしましょう。幼少の頃、クラスメイトが私と遊んだ帰り、交通事故で死にました。犯人は見つからず、時効は成立。この時私が許せなかったのは、犯人ではなく・・・その場に居なかった私自身だ(・・・・)


誰も私を責めない、だってその場に居なかったのだから。誰も予想できない、あそこで事故に遭うなんて。分かってるんです、分かってるんですが、私は私の無力さが許せない。だから、行動を起こすんです。」


 橘は顔から手をどけて、俺に背を向けてタバコを吸う。俺は橘ではないので、彼の葛藤は分からない。悲しみも、喜びも、共感は出来るが、他人の気持ちの代弁など自己満足の極地だ。だから、慰めないし、気持ちが分かるなどとは口が裂けても言わない。


「不器用ですね。まぁ、何処まで出来るか分かりませんが、やるだけやりましょう。後悔の無い様に。」


 そう言って喫煙室を出る時、背後から『ありがとうございます。』と聞こえた気がしたが、俺は無言で立ち去った。そして、程なくして時間となり人も機材も揃ったので出発。


 ゲートに着く前に会社に寄ってもらい、伊月と宮藤に依願退職届けの提出と、荷物とバイクの回収をお願いした。本来なら直接出向くのが筋なのだが、俺の今の姿では要らぬ混乱を招き、場合によっては罪悪感を植え付ける。


「私の事は何と?」


「今回のゲートの件で特別アドバイザーになったと。自衛隊に所属もしていたので、取り扱いは特別国家公務員枠と伝えてあります。」


 そう宮藤が答える。会社員から公務員なら、栄転と言ってもいいだろう。直接別れを告げられないのは寂しいが、仕方ないと諦める。スマホを取り出し、同僚のグループラインに別れの挨拶を書き込み、グループを抜け、電話帳から上司や同僚達の番号を消して行くとノスタルジックな気分になる。


「良かったんですかな?」


「今も昔も私は私ですが、他人の信用を得るには変わり過ぎた。いいんですよ、死亡の知らせでない限り、日々の時間で思い出になり、喪失するんです。・・・もう着きますか?」


「ええ。着きました。」


 目の前には夕日を背に、巨大なゲートがそびえ立つ。これから突入や、配信と言う事もあり、辺りの警官達は忙しなく動き回っている。こんな時だが、俺は人前に出るのが苦手だ。しかし、人は好き嫌い関係なく、人前に出る場面が思いの外ある。音楽の授業での発表然り、卒業式での卒業証書然り。そんな時どうするのか?思い悩んだ俺は、自己暗示する事にしていた。そして、今回も暗示をかける。ひたすらに、深く、深く。


「黒江さんいいですか?」


「良くは無いですが、なんですか?」


「・・・体調不良は、無しにしてくださいよ。今回の突入は5名です。1名は撮影係の宮藤君として、残りは選別しました。」


「分かりました、自己暗示中なので、もう少し1人にしてください。私は・・・。」


「準備出来たら教えてください、後、貴女の事はファーストと呼びます。最初に入った人、ファーストレディのファースト。安直ですが、分かりやすいでしょう?」


「好きにしてください、私は・・・。」


 橘が邪魔をする、早く消えろ。暗示無しだとぶっつけ本番のこの配信は、間違いなく失敗する。私は役者、私は役者、私は役を演じる者。私はこのゲートを知るもの。私しか知らない私の場所。ここを知る、私以外は凡愚。私は私として、私の思うがままに。私・・・『魔女へのアクセスを確認しました』



ーside 橘ー



 突入の為、ゲートの前まで来たが黒江氏が出てこない。暗示をかけるというが、そんなに上手く出来るものなのだろうか?警官となり、取調等々色々な人は見てきたが、なくて七癖人は何処までも自分からは逃れられない。


「橘さん、こちらは準備出来ました。後は・・・黒江さん待ちですが、大丈夫でしょうか?」


「宮藤君、こればかりは私でも分からないよ。ただ、彼女が居ないと何も始まらない、補給も彼女に任せたしね。あぁ、君は撮影係だから内部では私語を慎むように。話し掛けられれば答えても構わないけど。」


「分かりました、撮影と内部での撮影拠点作成は任せてください。」


 そう言って、彼は機材の再確認をする。黒江氏の話では中で、無線やスマホは使えなかったと聞いている。最初の関門であると同時に、リアルタイムで無ければ、録画配信として放送するしかない。現場での指揮は、伊月さんに任せたから大丈夫だとは思うが。


「我々も準備完了です。」


 ヘルメットに黒いフェイスマスク、全身黒尽くめで防弾チョッキにはPOLICEの文字。私は顔出しだが、彼らは顔バレすると庇い切れないので、隠してもらっている。代わりに分かりやすい様に首に赤、黄、緑のマフラーを巻いてもらっている。銃は本来ならライフルが欲しかったが、流石に調達できず、ニューナンブ60で我慢するしかない。もっとも、中に入れば武器は貰えるらしいが。


「君たちの献身に感謝するよ。」


「よしてください、俺達は面白そうだから入るんですから。」


 目と声だけで笑って見せる赤マフラーに、私も笑顔で返す。さて、黒江氏はそろそろ良いだろうか?再度呼んでみるか?

そう思っていると、バンの扉が開き、署で話していた彼とは全く雰囲気の違う、別人の様な黒江氏が降りてきた。


「待たせたわね。さぁ、行きましょうか?楽しい楽しいピクニックへ。」


 蠱惑的な笑みを浮かべる彼女に、空気が一気に飲まれる。美しいとは会ったときから思っていたが、なるほどこれは本能で感じる美しさか。宮藤君に目配せすると、彼はカメラを構えながら、親指を立てる。先程の登場からカメラは回せていたようだ。


「ええ、ファースト。これから最初の被害者である貴女が、入ったゲートに入りましょう。」


「えぇ、俺が私になった場所へ。橘、警官である貴方は顔を隠さないの?」


「私は警察が介入している事を、知らせる為に顔出しで。あとの方は、撮影と護衛なのでほとんど喋りません。」


 そうやり取りをした後、ゲートの前まで黒江氏を先頭に移動する。最後尾を付いてくる宮藤君のカメラには、POLICEの文字が映って居るだろう。


「現状の話をしてあげる。今このゲートは休眠中で、入れるのは私と私の同行者だけ。開通は・・・そうね、明後日辺りかしら?」


 そう言うと、黒江氏は右手を前に付き出す。リングには何も無かったはずだが、突き出された手に呼応するように、リングの内側に薄い光の膜が満ちていく。そして、満たされると一陣の風が吹き荒んだ。腕で顔を覆い、隙間から見ると黒江氏は微動だにしない。


「さぁ、ゲートが開いたわ。橘、エスコートなさい。」


「他の同行者は?」


「貴方の空いた手を、お手手を繋いで入りましょう。手を離すと1人で寂しく行く事になる。」


 黒江氏から差し出された手を取り、空いた手で数珠繫ぎ。1人での侵入は危険すぎるので、皆、しっかりと手を繋ぐ。全員が繋いだ事をチラリと確認した黒江氏は、そのまま一歩踏み出し、ゲートの中へ吸い込まれ、手を繋いでいた私達も引き込まれる。


「・・・っ!ここが中ですか?」


「えぇ、薄暗がりは怖いかしら?寂しいだろうけど、もう手を離しても大丈夫。」


 エレベーターに乗った様な一瞬の浮遊感の後、気がつけば石壁の通路の様な場所に全員でいた。クスクスと笑う黒江氏から手を離し、辺りを見回すが入ってきたであろう背後には、壁しかない。目の前に浮かぶウィンドウは後回しだ。


「ファースト、出口は?」


「焦らないの、先ずは職業を選びなさい。一生に1回か2回しかない大切な権利。これから貴方達が来る度に、貴方を守る剣と盾。3つの内から好きな物、お好きに選んで下さいな。」


 ニコニコと笑う黒江氏は、選ぶまで動く気は無いようだ。自己暗示なんだよな・・・?出会って話していた彼とは、余りにも違いすぎる。宮藤に目を向けると、カメラの方は大丈夫な様で配信を続行させる。


「赤マフラー、それぞれの職業を全てメモ。ファースト、選ぶのに時間が掛かる。タバコでもどうです?」


「あらありがとう、気が利くのね。」


 そう言って、取り出したタバコに魔法で火を付けたが、その火は外で見た火よりも明らかに大きく、消えることなく黒江氏の横を漂っている。


「・・・その炎は?」


「暗いだろうからサービスよ?」


 そう言ってタバコを美味しそうに吸い出した。・・・、取り敢えず、職業だ。私のこれから付き合う職業は?S鑑定師、格闘家、追跡者か。なんとなく理解は出来るが・・・。


「ファースト、職業の詳細はないのか?」


「私は知らない。でも、職業名を読んでみたらいいんじゃないかしら、タップはダメよ?タップしたら確定するから。」


「分かった、因みにSとは?鑑定師の頭に付いているんだが。」


 そう言うと、タバコを吸いながら目を丸くした後、淡い笑みを浮かべる。これは・・・最初に説明を受けたスペシャルだろう。あの笑みからして、あたりだと思う。


「コングラッチュレーション!Sはスペシャル。多分、有用性は高いわよ。EXが出たならワンダフル!下位、中位、上位、Sそして、上位の先にあるEX。まぁ、滅多に出ないから出たら喜びなさい、貴方の適性に。」


 話を総合すると、選ぶのは鑑定師で確定だろう。頭の中で鑑定師とは?と呼ぶと詳細が出てきた。ただ、詳細と呼ぶには余りにも情報が少ない。


S鑑定師:物品の鑑定を行い使用出来る。

     選択した場合、自身が鑑定したモノを使いこなせる。


 雑な説明だが、Sならば選ぶ他ないだろう。それに、ゲート内の情報は余りにも少ない、少しでも情報収集の為にこの職は有効だと思いたい。


「私は鑑定師を選択する、君たちはどうだ?」


 残りの4人を見ると、既に職業選択を済ませたのか、自身の手や体を触って確かめている。黒江氏の前例がある以上、何かしらの変化を確認するのは当然だろう。赤マフラーから手渡されたメモには、それぞれの表示された職業が記載されていた。


赤マフラー:格闘家、採掘家、ガンナー


黄マフラー:剣士、サバイバー、探索者


緑マフラー:剣士、槍師、肉壁


宮藤:スクリプター、魔術師 火、記者


 被った物もあるが、職業一覧がない以上、14の職業が明らかになっただけで良しとするしかない。しかし、名前だけで判断するのは難しいものがある。これから入る者達が、しっかりと考えて選ぶよう祈るばかりだ。


「では、行きましょうか。」


 黒江氏の号令で石畳の道を進む。多分、武器を取りに行くのだろう。薄暗がりの道を黒江氏の炎を頼りに進むが、彼が最初に来た時には、何も知らされずに入った事を考えると、彼と言う人の強さが分かる。


「あぁ、これは橘達に話したかしら?ゲートは撤去不能、移動はできるわよ?。破壊すればブラックホールが生まれるから、オススメしないわ。まぁ、壊すには今の人類の技術力では、不可能でしょうけど。」


「まて、ファースト!その話は本当に聞いていない!私達が聞いたのはモンスターが居て、資源があって、そのモンスターが溢れるという所までだ。移動は正直助かる情報だが、ブラックホールとは何だ!」


 コイツ!撤去不能も聞いた、モンスターが溢れる事も聞いた、しかし、ブラックホール等という、地球そのモノが破壊されるかも知れない事態は聞いていない!それをこの場で、世界に向けて配信している、よりによってこの場で話すか!?


「大丈夫よ・・・。水爆52個、この数字が何か分かる?」


「ゲートを壊す火力ですか?それでも、下手すれば人類は滅ぶが、不可能では・・・。」


「違うわよ。ゲートに焦げ目を付ける、そんな料理の仕上げみたいな事に必要な爆弾の量。わかったかしら?私達はこれからゲートと、ずっと付き合わないといけないの。・・・着いたわよ。」


 直線の通路にある分岐を左へ曲がり、暫く進むと箱の置いてある部屋に出た。多分、これが武器や指輪の入っている箱なのだろう。黒江氏に目配せすると、コンコンと箱を叩きながら話し出す。


「コレには武器や報酬、資源が入っている。罠は知らないけど、ソーツの依頼は掃除だから多分無いわ。不安なら自分で調べなさい。指輪は1人1つ仲良く分け合うのよ?嵌めたら外れないけど。」


 そう言った黒江氏は躊躇なく箱を開ける。宮藤君に指示して、箱の中身を撮影してもらい、箱の中身を取り出す。中には長物2本、黒江氏の持つような棒1本、メリケンサック1つ、丸い球体1つと指輪5つ。報酬だろう金貨が数十枚入っていた。


「武器は好きな物を取りなさい。一応、職業に適した物を持つといいみたい。指輪は左手の薬指に以外なら、いいんじゃないかしら?私は既婚者だから嵌める気なかったし。」


 それぞれに武器を取り、指輪を嵌めている間に、黒江氏はタバコで一服。そのままフィルターを適当に投げ捨てていた。カメラの前で指輪の使い方を見せた後、黒江氏が先程投げ捨てたタバコのフィルターをわざわざ拾い上げる。持って帰って捨てるのだろうか?


「見なさい、ここはこういう場所。」


 差し出された掌にあった、タバコのフィルターは半透明に透けており、程なくして消えてしまった。これは・・・。


「還元変換、この中はそれが働いてる。ゴミ箱には丁度いいんじゃないかしら?さて、お待ちかねの目的地、ゲートの脱出場所は5階層。脱出プランは他にも有るけれど、楽しいピクニックをしましょうか?」


 言う事は既に言い尽くした。そんな雰囲気の黒江氏は先頭に立ち、来た道を戻った後奥へと進んでいく。ここからが正念場、写真や動画で見たモンスターの出現が予測される。


「皆、準備はいいか?」


 振り返って聞くと、各々が頷いて返す。このままモンスターが出ないという、選択肢はあるのだろうか?昼の会議で黒江氏が安全は保証出来ないと話した手前、否応にも緊張が走る。


 3階層まで来たが、今の所モンスターも出現せず、各々が武器を触ったり、途中のコンテナから大量のアルミや金貨数枚、地球には無い形状の電池の様な物等を手に入れた。このまま順調に進めば、あと2階層で外に出られる。1つの階層の探索に約1時間程度掛かった事を考えると、すでに3時間近くは経っている事になる。若干緊張が解け始めた時、黒江氏から声が上がった。


「あら、お客さん。」


 直線の道の先、黒江氏の紡いだ言葉で理解する。あぁ、アレがモンスターかと。何処をどう取ってもアレは、地球には居ない。


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