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BLUE・STORYⅡ  作者: 森田しょう
◆第4部:滅びゆく世界へ ~Bis die Welt zerstört ist, liegt die Liebe in Ihren Händen~
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61章:観測地点Ⅱ ガランバタウン

 俺たちはフィーアとチャールズと合流し、この研究所の探索を行った。


 俺とメアリーが調べたあの部屋が最も情報の詰まっていた場所で、その他は電気を生産し供給するための施設であったり、あの“崩壊の扉”をリアルタイムで調査しているものばかりだった。

 本来であればローランたちと情報を交換し合いたいものだが、遠隔地への通信を行うと電波を敵に感知されかねないため、作戦終了まではお互い連絡を取れない。アナログな連絡手段――西暦時代から使われている無線技術くらいしか使えないのだ。


 作戦は現地で一週間滞在と決めており、その後各自次の目的地へ向かい、また一週間調査を行う。俺たちは今日で6日目なので、明日は体を休ませ、明後日には南極大陸にあるメディウス=ロクスへ向かう。

 特にトラブルが無ければ、ローランたちも明後日にはマチュピチュへと向かう予定だが……。


「あいつ、余計なことしてないかね」


 この廃墟の隅にある、10畳ほどの広さしかないコンクリートの建物の中で、俺たちは火を囲んで食事をしていた。フィーアは長い串に刺した真ん丸な豚肉にかじりつき、目を細めていた。

「あいつ……ローランのこと?」

 メアリーが即答すると、フィーアは大きく頷く。二人とも、あいつに失礼だよな……。


「呑気な顔して、どうでもいいことに首突っ込んで、何かトラブルひっかけてそう」

「それは、サラのこと?」


 メアリー……お前……。


「あの二人だと、ちっちゃなことも大きくしちゃいそうでね。あたしゃ心配だわよ」

「お前が偉そうに言うか? 一番のトラブルメーカーが」


 俺は思わず、茶々を入れるようにして言った。


「私は自覚があるからね。それに、計画的なトラブルだし」

「意味わかんねぇことを……」


 したり顔でフィーアはほくそ笑んでいる。


「今頃、どうしてるかねぇ……お姫様たちは」


 彼女は天井に空いた隙間から見える闇夜の星空を見上げ、どこか穏やかな笑みを浮かべていた。

 心配と言えば心配だが……まぁ、一番力量のある奴がいるんだから、大丈夫だろう。





 61章

 ――観測地点Ⅱ・ガランバタウン――





 ローランたち一行は、なるべく日の出ていない夜に移動した。大地を踏みしめながら歩く――という行為は、彼らにとって初めてのものだった。厳密に言えば、月面のコロニーから地球に飛ばされた時にも歩いていたが、雑草が生い茂る平原の道や、今の灼熱の黄砂が広がる地平、それらは同じ地球という大地の上でも、踏みしめた時の感触が全く違うのだ。その違いにすぐに気づくことはなかったが、これこそ人類が二千年近く忘れていた“感触”なのだ。


 ガランバの研究所は砂漠の地中に建造されており、そこへ行くには真上に位置する町から地下へ行くしかない。しかし、その通路は秘密のもので、すぐに見つけることはできなかった。

 予めアーサーからもらった情報によると、都市の中心に位置する噴水広場――通称“オアシス”が通路へ通じる鍵ではないかとのことだった。

 無人の街中は風を切る乾いた音だけが通り過ぎ、レンガが敷き詰められていた道路には亀裂が走り、その隙間に砂塵が積み重なり、殺風景な光景に時の流れを混ぜ込んだものとなっていた。


 かつては自然豊かな国立公園として多くの観光客が訪れ、様々な動物がそれぞれの生活圏を形成している様は、多くの人々の胸に記憶として強く刻まれていた。しかし、第三次世界大戦後、砂漠化してしまったため動植物は姿を消し、青々とした緑の草原は枯れ果て、生物のオアシスだった河は干上がってしまい、人の寄り付かぬ荒涼とした死地となった。

 だからこそ、世界連盟やSICにとってうってつけだったのだ。ほとんどの人類にとって、“崩壊の扉”は極秘事項であり、その研究所は誰も寄り付かなさそうな場所に作らなければならなかった。

 この町――オアシスは研究所で働く研究員たちのための町であり、彼らのほとんどは現地のものではなく、地球連盟、若しくはSICから派遣された人たちだった。彼らは自分たちが研究員であることを隠し、あたかもこの町で生計を営んでいるように見せかけるために、表面上の農業や商売をしていた。


 そういった情報は、全て地下の研究所に遺されてあった。


「まさか、噴水広場から直接入れるとはね」


 無機質な研究所内部で、ローランはため息交じりに言った。

「水を循環させるためのパイプ……運よく、俺たち人間が入れる広さで助かりました」

 と、ノイッシュは苦笑しつつ言った。

 噴水広場は思いのほか大きく、無人の町にしては異様に水がきれいで澄んでいた。おそらく、何らかの装置でろ過されており、地下からくみ上げられていることを考えるに、途中で研究所を経由している可能性があると踏んだのだ。

 ローランはセフィラの力を使い、全員に“空気の膜”で覆い、水中に入ったのだ。そこに設置されていた柵をこじ開け、流れるまま下へと進むと、下水道のような場所に出ることができた。そこから複雑な道を進み、いくつかの扉を抜け、地下研究所へ辿り着いた。


 いくつかの扉を抜け――?


 それらは全て認証が必要になっていた。だが、サラが手をかざすと通ることができたのだ。セフィラが必要なのか……と思われたが、ローランでは開くことはなかった。サラが認証を解くことで、浮かび上がったキーワードがその答えを告げているのかもしれない。



 ――“星の幼子”よ、お帰りなさい――





「さて、とりあえず情報を集めていこうかね。あまり長居はしない方がいいだろうし」


 ローランたちは研究所の深部を目指した。

 研究所内部は砂漠の下とは思えないほど涼しく、通路のガラス越しに見える外には、剥き出しの岩壁にあちこちから水が垂れ流れていて、底は巨大な地底湖になっていた。明かりが乏しく、地底湖は地の底へ続いているかのようで、それはまるで深淵が自分たちを誘っているような、吸い込まれそうな不気味さがあった。

 彼らはいくつもの階段を降り、「地下20階」まで進んだ。所々にあるこの研究所のマップによると、そこが最深部のようだった。

 その階層の奥に、“新エネルギー研究室”という部屋が鎮座していた。そこは他の部屋と違い、運動公園が入りそうなほどの巨大なフロアだった。フロアの中心には大きな穴が開いており、そこに落ちないようにしているのか、厚めのガラスの円柱が天井から貫くようにしてその穴と繋がっている。ガラス越しに穴の下の方も見ることができるが、何やら青白い電流が不定期に弾けており、光の粒子が天の川のような形を彩り、流れている。


「何かを観測しているみたいね」


 ディアドラはその穴を取り囲むようにして、放射線状に並ぶコンピューターたちに目をやった。それらは時計の数字のように、12列に分かれていた。


「重力異常力場……崩壊の扉のことかな。“位相変換の浸食域:毎時0.1~1M”……小さいけど、確実に進んでいるのか」


 と、カールはいくつかのコンピューターの画面に映し出されているものを覗き込んだ。


「さーてさて、親父殿が言っていたものがあるかしらね~」


 ローランは視線を注意深く配りながら、アーサーが言っていたものを探していた。それがここにあるかどうかは不明だが、その情報の断片でもあれば――と。

 おそらく、全ての研究所は表面上“崩壊の扉”を観測するためのもの。あちこちのフロアから得られた情報を見るに、かつては人間が観測者として常駐していたが、約600年前からコンピューターによる管理になったと考えられる。それは、現在のMATHEY――いや、“グリゴリ”たちが出現した頃と重なる。ということは、奴らにとって地球上の研究所は、あまり他の人間に知られたくない情報があるということ。或いは、崩壊の扉――“崩壊の時”が迫っているという情報を漏らさないためかもしれない。

 滅びの運命を知った時、人は冷静でいられない――とは、誰の言葉だったか。

 たしかに、そうかもしれない。滅びるだけでしかないならば、俺たちがこの次元に存在している意味さえ無くなってしまう。


 だけどな……グリゴリ……アザゼル、イツァーク。


 人は滅びることを知っていて、初めて自分たちの生に価値を見出すもんだ。そこから、一滴の希望をつかみ取れる可能性を秘めている。

 足掻くことを、抗うことを選択肢に入れることができる。

 この情報――滅びの運命が“パンドラの匣”だというのなら、人は全てを知る権利がある。それによって、どんな混乱が起きようとも。


 それらを受け入れられるだけの力があるってことを、忘れている。


 ローランは想いを巡らせつつ、一番奥にある長机のコンピューターの前の椅子に腰かけた。目論見通りか、彼は口角を少し上に曲げ、リズミカルにキーボードを打ち始めた。

 親父殿が言っていた通りなら、この電子の海に眠っているはず。本当は、チャールズかメアリーがいてくれた方がよかったけど……仕方ない。

 “パンドラの匣”――イヴリース博士の遺した、グリゴリへ対抗するための楔。それさえ手に入れておけば……“レメゲトン”さえあれば……。



「……? これは……」



 ローランは何かの文字列を見つけ、思わず画面に顔を近づけた。

「……!! そうか、そういうことか……!」

 合点がいく。点と点が、はっきりとした道で繋がり始めていく。


「これが……“奴”のしようとしていることか……!」





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