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BLUE・STORYⅡ  作者: 森田しょう
◆第4部:滅びゆく世界へ ~Bis die Welt zerstört ist, liegt die Liebe in Ihren Händen~
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60章:観測地点Ⅰ・エアーズロックシティ③


 俺たちは数十分階段を上り、ようやく行き止まりに辿り着いた。そこにある扉の前に立つと、さっきと同じような認証が始まり、扉はスライドして開いた。


 その先にあったのは、巨大な研究室――白を基調としたコンピューターが、さながら墓標のように整然と並んでおり、全てが起動されている。画面にはそれぞれ何かを映し出しており、様々な数値や見慣れない文言が列挙されては、即座に切り替わっていっている。


「これは……自動的に動いているみたいね」


 コンピューターに映し出されている画面を覗き込みながら、メアリーは呟いていた。AIによる自動的な作業――のようだ。


「たしか、地球にある“崩壊の扉”を観測するための研究所ってことらしいが……」


 アーサーやチャールズの説明ではそういう話だった。とりあえず、どれか一つ触っても問題なさそうなコンピューターは無いものか。それこそ、日本の図書館の地下にあった情報の宝物庫のようなものだ。


「先に兄さんたちと連絡を取っておくから、調べておいてもらえる?」

「ああ、わかった」


 この空間はテニスコートほどの広さで、パソコン程度の大きさのコンピューターが4列になって並んでおり、20台ずつあるから80台以上はある。その中で、中央に鎮座しているコンピューターが最も大きく、大きな画面を有している。あたかもそれを見てみろと言わんばかりに。

 そのコンピューターに近づくと、他のものとは違ってディスプレイには何も表示されていなかった。しかし、キーボードのようなものがそれの下部に設置されており、右部分に正方形の白いシートのようなものがある。それには緑色の淡い円形の光が浮かび上がっており、ゆっくりと点滅していた。


 これ……扉にあった認証の装置に似てるな。


 なんとなくそう思い、俺はそのシートに触れた。すると、それは点滅を止めてはっきりと発光し、認証が始まった。


『認証開始……セフィラ“ティファレト”を確認――――アクセス開始……』

『……SYSTEM:BRC……起動……OK』


 様々なアルファベットの文字列が発光体のように点滅し、何かしらのプログラムを起動し始めている。



『お帰りなさい、調停者様』



 その文字が浮かび上がった瞬間、目の前のディスプレイに画像が映し出された。そこには、“SYSTEM:BRC”と隅に表示があり、目次のように様々な文言が列挙されている。そこには、「異常磁気場について」、「多面性次元におけるパラレルワールドの可能性」などと表示されている。

 これは……重要な情報群かもしれない。


「なぁ、メアリー。こっち来てみろよ」


 俺は彼女を呼び寄せ、これらを見るよう指差した。

「……システムBRC……?」

 おそらく、この情報を格納しているシステムの総称なのだろう、彼女はそれに対し、怪訝そうな表情を浮かべて首を傾げていた。


「どうかしたか?」

「どこかで聞いたことあるような気がして。いや、見たことがあるような気もする」


 彼女は目を細め、その画面に近づく。まるで視力の悪い年寄りのように。


「……まぁ、それはどうでもいいか」

「おいおい、いいのかよ?」


 気にならんのかね……。

「それよりも、ここにある情報を見てみよう。かなり重要な内容ばかりだと思う」

 それには同意だ。俺たちはさっそく、そこにある情報にアクセスした。



 〇異常磁気場

 通称“崩壊の扉”。周囲のものを呑み込みながら、巨大化する異空間。その正体ははっきりとしたことは不明であるが、異常な磁気を帯びていることから、ブラックホールに近いものだと推測される。特務機関“CANAAN”特級研究員ソラ=アズマの調査によれば、別次元へと繋がるワームホールであるとのこと。現在の世界はあちらの世界の派生であるため、次元と次元が重なる部分において位相変換が起き、消失してしまっている。その速度は現在かなり緩やかになっているものの、確実に範囲を広げており、地球だけでなくこの宇宙全体が呑み込まれてしまうことは確実である。



 〇多面性次元――パラレルワールド

 別の世界、分岐した世界線。この世界に限らず、あらゆる世界は様々な選択による結果によって形作られた世界である。ソラ=アズマ研究員は、世界で唯一この別の世界“パラレルワールド”に足を踏み入れた人間であり、且つ帰還出来た貴重な人間である。

 異常磁気場はこの世界と同時に存在する“別世界(パラレルワールド)”へ繋がる扉である。この扉は非常に不安定で、基本的には呑み込まれた物質は全て原子レベルに破壊され、エネルギーとなって別の世界へと流れ込んでいる。体を構成する元素αと元素βが分離することにより、物質としての維持が難しくなってしまい、崩壊してしまう。かつて、日本国のある地域に“別世界”――便宜上、ソラ=アズマ研究員が呼称していた“レイディアント”と呼ぶ――からの住人によって造られたワームホールを安定させる設備が設置されていたが、西暦2008年頃に姿を消してしまった。“レイディアント”での古代文明はこちらの世界の現代を凌駕しており、ワームホールを遥か太古の昔から認知し、それを利用する技術を確立していたものと思われる。



「……パラレルワールド……? そんなものが存在するの……?」

「信じられんが……」


 俺もメアリーも、驚きを隠せない。だが、この記述が嘘だとも思えないのだ。俺はそのパラレルワールド――“レイディアント”というものを選択し、情報にアクセスした。



 〇レイディアント

 この世界と繋がる“別世界(パラレルワールド)”をソラ=アズマ研究員は“レイディアント”と呼んでいた。異常磁気場の研究の結果、この世界は“レイディアント”から分岐した派生世界であることが判明した。今の世界は過去の選択とその結果によって無数に存在するが、何らかの要因でこの世界とレイディアントは強く結びつけられており、感知できないが隣り合って存在してきた。

 太平洋に沈んだ古代都市“アベルの都”は、紛れもなくこの世界の文明のものであるが、その流れを汲む文明が今まで発見されたものの中に存在しないことから、この文明と存在が確認された古代文明との年代の差を考えるに、4万年~1万年前頃に分岐したと考えられる。“アベルの都”が造られた時代には、おそらく二つの世界は分岐していなかったと推測される。

 現在の調査では、あちらの文明レベルはこちらの世界の約1000~700年前頃と同等である。但し、あちらではこの世界には存在しない“魔法”なるものがあり、それによって世界を巻き込む大きな戦争が頻繁に繰り返された結果、文明レベルが数世紀ほど――産業革命前ほど遅れているとも言える。こちらからエレメントによる特殊な外装を纏わせることで、物質の形を保ったままレイディアントへ送ることが可能になったものの、やはり情報は少ない。



「……簡潔に言うと、あの“崩壊の扉”というのは、この世界と分岐した本物の世界と強く結ばれているために、徐々に呑み込まれていっている……ってこと?」

「この内容を読むに、そういうことだろうな。本来であれば、分岐したところでそれらの世界が繋がることなんてないんだろうが……何かしら大きな事象があって、それのために繋がりが強くなってしまった結果、位相変換――消失が起きてるってことだろう」


 その事象は数万年前に――って、恐ろしいな。そんな時代に、アベルの都のような超文明の代物が作り出されたってことだ。歴史なんてのは、おいそれと全て把握できるものでもないってことか……。


「ここの研究所は、異常磁気場――“崩壊の扉”に探査端末を入れて、あちらの世界の情報を収集しているみたい」


 メアリーは“多面性次元観測研究所”というものにアクセスしていた。ここはその観測地点の一つであるらしい。


「何が原因で異常磁気場が発生したかわからないけれど、この世界だけでなく、大元の世界の情報を調べることで、解決策を導こうとしているのね」


 なるほど、と彼女は少し満足げに頷いていた。


「……レイディアントという無数の選択肢の中にある世界と、この世界を繋げる何か……それを破壊する、或いはそれを……?」

「その繋げている何かってのがわかんねぇと、どうしようもねぇんだろ。千年以上研究してもそれがわかんねぇってことは、一朝一夕でどうにかならねぇんだろうな」

「……関連項目を見てみよう」


 と、彼女は他の情報にアクセスした。



 〇アーネンエルベ

 “アベルの都”より発見された高エネルギー物質。ソラ=アズマ研究員が過去に提唱した“新エネルギ――エレメント”を限りなく無限に内包する異常物体。人の手で造られたものではないと考えられるが、人為的に何かを組み込まれていることが窺えた。


 〇アベルの都

 第三次世界大戦で世界を破壊し尽くした古代都市。原因は定かでないが、主動力であるアーネンエルベが機能停止したため、太平洋に沈んだとされる。

 内部は現代科学を遥かに凌駕する高度なもので造られており、過去の文献にない文字が使用されていることから、当初は地球外生命体による都市であるとか、様々な憶測が囁かれた。

 大きく分けて三階層に分けられ、上から居住エリア(中心部に行政区画と思われる施設が存在する)、軍事エリア、研究エリアとなっている。居住エリアの広さは1500㎢を超え、ニューヨークシティを上回る。

 ソラ=アズマ研究員はこの都市の歴史とも言える文献を残し、姿を消した。このことから、彼はこの古代都市が存在した時代の文字を解読したと推測される――



 アズマ博士が文字を解読しただと!?

 俺は沸き立つ興奮を抑えつつ、続きの文章へ目を移した。


 ――その文献によれば、この都市は遥か五万年前に存在した文明の中心となっていた“首都機能”を持つ都市だった。その古代文明は、“アルケー”という宗教組織により築き上げられた世界統一文明“ロンバルディア”だという。その文明は“審判の日”という日を境に滅び、この都市もまた地表から姿を消してしまった。聖書にある“審判の日”、伝説の大陸“アトランティス”のモデルになったのではないかと思われる――


 どうやら、アズマ博士が残した文献というものに関して、非常に機密性の高いものであるためか、これ以上のことは記載されていなかった。


「五万年前の文明……って、俄かに信じ難いわね。頭が痛くなりそう」

 あまりのことに、驚きを通り越したのか、彼女は頭を抱えため息を零していた。。

「そうだな。だが、あの都市は存在している。それが何よりの証拠ってことなんだろ」

 異様な雰囲気を持つ構造物、無数のコンピューター群……超古代文明のものっていうのなら、ある程度納得はいく。寧ろその方がロマンがあるってもんだ。


「本当に五万年前からあったとして、どうやってそれまで発見できなかったわけ? 西暦時代の文明であれば、海底に都市が沈んでいるなんてわかりそうなものだけど」

「それについてはフィーアとも話したんだが、おそらくエレメントの類を使って見えないようにしてたんじゃねぇかって」

「エレメント……? あ」


 すると、思いついたように彼女は上を見上げた。


「ローランのセフィラとか?」

「ああ。あの力なら、見えないようにすることも、海水から都市を護ることさえできる。まぁ、あれだけの都市を包むってんだから、相当な規模なんだろうが」


 言い換えれば、それだけのエレメントを操る技術もあったということ。下手をすれば、現在の宇宙歴文明さえも凌駕していることになる。

「それについての記載はないの?」

「ん? ああ、ちょっと待ってくれ」

 メアリーに急かされ、俺は下にスクロールした。


 ――“アベルの都”とは、古代文明時代――“ロンバルディア文明期”においては“大都アンフィニ”と呼称され、第三次世界大戦時のように宙に浮いてはいなかったようである。この都市を浮遊させたのは、“アベル”と名乗る人物。彼こそが、第三次世界大戦を引き起こした張本人とされる。


「アベル……!?」

「この人が、第三次世界大戦の首謀者!? ここの情報……かなり機密レベルの高いものね」

 驚きの連続だ。まさかこの場所で、世界を崩壊させかけた戦争の首謀者が判明するとは……。

 しかし――何か……。

「アベルについては別の頁になっているみたい」

 彼女はそう言って、その情報へアクセスした。



 〇アベル

 第三次世界大戦を引き起こした人物とされる。太平洋の海底に沈んでいた古代都市“アベルの都”を浮上させ、強力な兵器を使って世界の主要な国々を破壊した。

 どの国の出自なのか、経歴は一切不明。不可解なことに、全世界の映像端末をハッキングし演説を行った際、その言葉は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どのような技術を使ったのかは不明であるが、現代の科学を上回る知識を持っているとされた。

 彼の演説内容は具体的な内容について公表はされず、戦争後の各国による情報統制で、演説に関するあらゆる映像・録音などが処分された。

 彼の情報については各国首脳の最高機密となっており、2000年後に情報を解禁するとされている。



 さすがに、これほどの重要人物の情報は得られない――か。若干落胆してしまったものの、得た情報はかなり大きい。

「結局、この“アベル”の目的も何もかも、わからなかったか」

 と、メアリーも期待していたのか、どこか不満足げに呟いていた。

「まぁしょーがねぇよ。まだ研究施設は別にあるんだし、ローランやフィーアたちが別の有力な情報を得たかもしれねぇからな」

「……そうね」

 彼女は小さく頷き、再び他の情報がないか調べ始めた。


 それにしても――アルケー、ロンバルディア……アベル。

 どこかで聞いたような気もする。ずっと昔から、印象深い名称として。



 ――見ろよ! これはまさに……星の遺産だぞ――!



 閃光のような、空気を割く声が聴こえる。俺の心の中で。時空を揺蕩う想い出の陽だまりの中で。

 純粋な眼差しで、“彼”は歓喜の声を上げた。その双眸はまるで、創作物にある英雄に憧れていた子供が本物の英雄に会った時のように、喜びを爆発させていた。体は身震いし、顔が高揚しているさまは、“彼”に似つかわしくない格好だった。



 そうか……お前は……


 俺の、最愛の友――だったんだ。


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