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BLUE・STORYⅡ  作者: 森田しょう
◆第3部:魂と言霊が還る地~Sehen, deine Liebe und Verbleib von Traurigkeit~
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47章:反目する、咎を背負いし者たち③

 光の円環――


 それは彼女を中心に、一瞬にして煌めきながら広がっていった。部屋全体を覆い、光が満ち満ちていく。それは今まで感じたことのない光景であるはずなのに、どうしてか“わかる”のだ。

 太陽の淡い光が降り注ぐ、優しい風の舞う緑の大地。風に揺られて、様々な草木や花がその体を左右に動く。どこまでも青く、遥か彼方まで広がる空。その中に、まるで絵の具を塗りつけたかのように疎らに混在する白い雲。

 この光は……感じたこともない“あの星”での光景を映し出しているかのようだった。


「くっ……まさか、これは……!?」


 その光が眩しく、中将は手を前に出して光を遮ろうとしていた。

「“ダアト”の波動――か! 所詮、付属品程度の力のはず……!」

 当惑した様子で、奴は何かを呟いている。その中将を睨みつけるようにして、サラはキッと睨みつける。

「“私たち”が呟いている……ねぇ、そうでしょう……? ええ、“私”は知っている。これは……星と命の言霊……」

 サラは今までとは違う口調だった。彼女とは正反対のもののように感じる。邪悪だとかそういうことではない。もっと、崇高な何かのような……。

 どうしたってんだ……サラ……?


「穢れなき星の光……永遠(とわ)に眠りし少女の歌声……」


 彼女の銀色の髪が、優しく揺蕩(たゆた)う。光はより一層強くなり、彼女自身が発光体であるかのようだった。

「我らが無垢なる幼子たちよ……さぁ、神々が愛した“原初の人(イヴ)”の下へ還りなさい……」




 ――スーパーノヴァ――




 音色。


 俺には、そう感じた。声が届く――というよりも、“音”が伝わったかのようだった。

 青い光が土へ染み渡る水のようにして、大気中に広がる。それは中将を包み込み、白く輝き始めた。


「なっ――!?」


 すると、光は瞬く間に消えて行った。

「なん、だ……これは? “絶対障壁(アブソリュート)”が発生しないだと!?」

 中将は自身の両手に目をやり、驚いていた。そして、何かに気付いたのか視線をさらに向け直した。


「そうか……! “ダアト”の力――“アルバア・ハ=イマホット”としての力が顕在化し始めたか!」


 奴は驚きを含ませながらも、どこか喜んでいるようにも感じた。

「それならば、これ以上好きにはさせん!」

 中将はそう言い、掌を俺たちの方へ広げた。またもやエレメントを発動させる――そう思った。しかし、身構えたものの何も起きなかった。


 何も起きらない……?


 そう思い、少しずつ体の緊張を解きながら中将に目をやった。そこには、俺たち以上に今の状況を飲み込めていない奴の姿があった。

「なぜ発動しない……! どいうことだ!?」

 中将は己の掌を凝視しながら、喚くようにして言った。まさか、エレメントが発生しないのか?

 なんでそうなっているのかわからんが――これはチャンス!

 俺はグラディウスを振り抜き、衝撃波を飛ばした。中将が避ける前提で、俺はそれを追うようにして突進した。中将は衝撃波を右へ避け、そこへ俺は剣を振り下ろした。奴はそれを大剣で受け止めるも、俺に力負けしているのかすぐさま後方へ逃げた。

 違和感――とでも言えようか。

 俺はそれを確かめるために、畳み掛けるように追撃を行った。中将はそれを避けた――が、さっきまでと違う。避ける動作に余裕がほとんどないのだ。機敏さが失われ、力も俺に負けてしまうほどになっていた。


 サラが発動した“何か”の影響なのか?


 俺も中将と同じように理解できていないが、それでも今の状況は最大の好機。

「ディアドラ! 畳み掛けるぞ!」

「え? う、うん!」

 俺はそう言って視線を送り、頷いた。彼女は目をパチクリさせながらも、大きく頷きエレメントの詠唱を開始した。

「なんで動きが鈍くなってんのか知らねぇが……容赦はしねぇぞ!」

「くっ……!」

 中将は防御に徹しながら、苦悶の表情を浮かべていた。そこへ、光が集う。


「――サン・ブレイズ、Lv9!」


 俺が後ろへ下がった時、その光は一瞬にして火柱となり、遥か天井まで立ち昇った。中将は炎に包まれ、雄たけびにも似た声を上げていた。

「ナイス、ディアドラ! いつの間に高位エレメントを発動できるようになったんだ?」

 後方にいたディアドラの下へ着地し、思わずそう訊ねてしまった。今のはエレメントの中でも高位のもの――扱えるチルドレンは少ない。

「私だって、訓練は続けていたのよ。カムロドゥノンでのんびりしてただけじゃないからね」

 彼女はそう言って、照れ隠しに微笑んでいた。


「ぐっ……!」


 火柱から出てきたのは、あちこちが焦げて煙が出ている中将だった。想像以上にダメージを負ってしまったのか、呼吸が荒い。

「まさか、“ダアト”の力がこれほどとは……」

 中将は俺たちを睨みつけた。そして、大剣を自身の前に突き刺した。奴はそれにもたれかかるようにしていた。普段であればエレメントの防御壁でダメージを軽減できるのだろうが、今はそれが一切できていないようだ。中将の状態からして、それを窺い知れる。

「仕方ない。こうなった以上、“解放”させるしかあるまい」

 中将はそう言って、ニヤッと笑みを浮かべた。

「……強がりは止してほしいんですがね、中将」

 俺は思わず、そう訊ねた。

「図に乗るなよ。貴様らだけに、その力があるわけではない」

 中将は直立になるように立ち、俺たちを見据えた。


「――碧き樹海、その輝ける慈悲よ――」


 中将に集結するように――いや、まるで衣を纏うかのように、青白い風が彼を包むこんでいく。それは俺たちに寒さを抱かせるものだった。

 しかし――



「よしなさい」



 光が、砕ける。砕け散ったガラスの破片が、周囲に降り注ぐかのようだった。そして、その破片とともに現れたのは――


「てめぇは……エルダ!」


 妖艶な褐色の肌を出し、彼女はその場に浮かんでいた。

「エルダ!? ……何の用だ」

 “力の解放”とやらを邪魔されたためか、中将は怒気を孕んだ声で彼女に訊ねる。しかし、エルダはそれを気にする素振りを全く見せず、寧ろ腹を立てている子供を微笑ましく見つめる母親のように、ふふふと笑っていた。

「その“力”、まだカシュデヤンからきちんと譲渡しないのでしょう? 無為に操ろうとすると、自我が崩壊するわよ」

「何度も訓練している。問題はないはずだ」

「もう、せっかちね」

 エルダは紫色の口紅が艶めかしく塗られた唇に指を添え、ため息を漏らした。

「でも、あの程度の“ダアト”の解放でエレメントを封じられるくらいなら、結果は変わらないと思うけれど」

「…………」

 中将は苦虫を噛んだようにして、視線をエルダから逸らした。

「“ダアト”の波動が感じたから覗きに来たけれど……へぇ、あなたが例の」

 エルダはサラに目をやり、その姿をじっくりと脳裏に焼き付けるかのように見ていた。サラは言い表すことのできない悪寒を抱いたのか、一歩後ろへ下がった。俺は自然と、彼女の前へ立ちエルダの視線を遮った。

「あら、ナイト気どり?」

 エルダはそんな俺を見て、フッと笑った。

「悪いかよ? 俺の大事な連れなんでな」

「……“セカンド”といい、“サード”といい……あなたも歪な運命を背負わされているのね。少しだけ同情しちゃう」

 意味不明なことを言って、エルダは頬に手を添えてアハっと笑った。だが、すぐにその笑みを消し去り、目を細めて虚空を睨んだ。

「けれど、あなたもまた私たちと同じ“咎を背負いし者”。この次元が誕生した時から、その運命の円環に囚われている」


 咎を背負いし者。


 それは異様な表現だった。そう感じるのと同時に、妙に納得してしまった。意味も分からずに。

「神様がいるのなら、どうしてこんな運命を辿らせるのかしらね。所詮、私たちなんて“ヒトの紛い物”でしかないのに」

 ふう、と彼女はため息を漏らし、俺たちを見据えた。

「けれど……これも一つのお楽しみよね。こうして殺し合えるのだから」

 エルダは歪に口角を上げ、笑みを浮かべる。

「ここで“マクペラの壁”を破壊させはしない。あなたたちがあの場所へ行くのは、時期尚早というものよ」


 空気が冷える――気がした。

 それは寒さではない。エレメントの冷気でもない。単純な“殺気”だ。目に見えないそれが、俺たちを覆いつくそうとしている。


「あなたは帰還しなさい」

 エルダは中将に目をやることなく、そう声を掛けた。

「……このまま帰られるわけがあるまい!」

 怒気を孕んだ声で、中将は言った。

「わからないの? “ダアト”の影響下で、あなたに勝算はないわ。打ち勝てるのは――そう、私の“処刑人(エクセキューショナー)”だけ」

 それとも――と、奴は続けた。凍てつくような紫苑の瞳で。

「その肉体から魂を剥ぎ取られたいの?」


「……っ……!」


 中将は今にも歯が割れんばかりに噛みしめ、俺たちを一瞥することなく後方へ下がり、そして光とともにこの空間から去っていった。


「さぁ、て」


 エルダは妖艶に宙を浮かび、舌なめずりするかのような笑みで俺たちを見渡した。


「あなたたちに宿る“神々の言霊(セフィラ)”――存分に感じさせてちょうだい」


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