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BLUE・STORYⅡ  作者: 森田しょう
◆第3部:魂と言霊が還る地~Sehen, deine Liebe und Verbleib von Traurigkeit~
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◆◆日常その1◆◆



 ~日常その1~





 ある日、急にローランがカールを呼びつけた。たまたま俺たちは船内の食堂で注文をしようとしたところだったのだが、ローランはなぜかカール以外の俺やノイッシュを一瞥すると、気まずそうな表情を浮かべていた。

 ……何を企んでやがんだ?

「カール、ちょっと」

 ローランはカールを手招きしていた。目を細くして。あれはどう考えても、良からぬこと考えてやがんな。

 カールはと言うと、何か閃いたようにポンと手を叩き、「了解です!」と言って、ニコニコしながらローランの方へと向かって行った。そして、二人は俺たちをチラッと見るや、会話が聞こえないようにコソコソと話し始めた。

「なぁ、ノイッシュ」

「ん?」

 そんな二人の光景を、俺たちは腕を組んで眺めていた。

「別に聞く気もねぇのに、ああやってされるとさ」

「うん」

「なぜか無性に腹立たねぇか?」

「……うーん」

 ノイッシュは、苦々しい表情を浮かべる。

「わかるような、わからないような」

「だろ、やっぱりわかるよな」

「え?」

 俺は無理やり自分を納得させるも、ノイッシュは驚きのあまり開いた口が塞がらないようだった。

 その時、カールとローランは食堂から出て行った。

「良からぬことを考えてるな、絶対に」


「そうね、悪いこと考えてるわ」


「だろ――って、え?」

 後ろを振り向くと、そこにはなぜかメアリーの姿が。俺と同じように腕を組み、彼らが出て行った先を見ていた。

「どうせ、スケベエなことをしようとしているのよ」

 そうなのか……? と、俺はノイッシュと顔を見合わせた。てか、なんだよ“スケベエ”って……。

「まぁ、男だからそういうのがあってもいいと思うけどね」

 ノイッシュは苦笑しつつ、擁護の言葉を発した。すると、メアリーは軍人か顔負けの、睨みつけを彼に見舞った。

「ダメに決まってるでしょ。これから私たちは、世界を裏で牛耳る組織と戦うのよ? それなのに、女のエッチな写真とか動画とかで盛り上がってるような低層の欠片もない不潔でだらしない人間がいていいと思うわけ?」

「いや……そういうつもりじゃ――」


「そう、ダメなのよ。そんなことじゃ絶対にダメなの」


 ノイッシュの言葉を聞かず、メアリーは言を被せる。それにしても、えらい早口だな……。普段のメアリーからは予想できん姿だ。

「戦う男は、自分の中途半端な欲望に負けてはいけない。命を削って世界のために戦うのに、あんなことで戦いに勝てるとでもいうのかしら。あんなんだから、いつもいつもへらへらしていられるのよ。あれでも私より年上って言うんだから、おかしな話よね。どんな生活と教育を受けたらああなるのかしら。親の顔が見てみたい」

「これから見に行くんだけどね」

 小さい声で、ノイッシュが言う。そこで突っ込もうとするとは、ノイッシュも度胸あるんだな……。

「セフィラを扱えるんだから、それこそこの船にいる人間の誰よりも誠実で、清廉で、大人であるべきなのよ。それなのにいつもいつもへらへらへらへらして、あれが本当に強い人間だと言えるのかしら。いいえ、言えないわね」

 さっきから同じようなこと言ってるな。

今までの不満というか、いろんなものが噴出しているように見える。ここまで饒舌なメアリーは見たことがない。

「……なぁ。こいつ、酒でも飲んだのか?」

 俺はノイッシュに顔を寄せ、小さな声で言った。

「いや、違うと思うよ。本当にローランのことが嫌なんだと思う。普段」

 俺と同じ声量で、彼は苦笑しながら言った。まぁ、気持ちはわからんでもないが……。

「後で問いただしてやる。そして、何時間も正座させてやる。本当の男はどうあるべきか、みっちり叩き込んでやる」

 目を細め、遠くの何かを見つめるメアリー。どこか虚ろのように見えるが、喜怒哀楽の“怒”があのポーカーフェイスの裏で、沸々と煮えたぎっているのが手に取るようにわかる。

 すると、メアリーは腕を組んだまま、食堂の出入り口へと向かって行き始めた。背筋をぴんと伸ばしているその後ろ姿は、まるで鬼教官のよう。

「……何が着火点なんだ?」

 と、俺がそれを見ながら訊ねると、ノイッシュは言う。

「たぶん、ローランの全てが気に入らないんじゃないかな。ほら、ローランって女性にひどく嫌われそうだし」

「……お前、結構きついこと言うのな」

「え? そ、そうかな?」

 そんなやり取りしていると、急にメアリーが俺たちの方へ振り向いた。何事かと思い、俺とノイッシュは何度も瞬きをした。


「ゼノ。言っておくけど、私はお酒なんて飲まないから」


 そう言い放つと、彼女は再び歩きはじめ、食堂から出て行った。

「……おっかねぇな」

「そ、そうだね……」

 地獄耳も備わっているとは、手に負えんぜ。

「どうも俺たち陣営の女ってのは、女らしさってのが今一つなんだよなぁ」

 俺はイスにドサッと座り、足を組んで天井を見上げた。

「女らしさって?」

「そりゃ、おしとやかさだとか、いろいろあるだろ。可愛いものが好き~とか」

「……ゼノの求める女性像って、そんな感じなの?」

 と、ノイッシュは呆れたような表情を浮かべる。

「理想じゃねぇよ。どうも男勝りな奴が多いってことさ。やれやれだぜ」


「な~にが“やれやれ”よ!」


「おわっ!」

 急に、俺の視界にディアドラの顔が入ってきた。言わずもがな、眉間にしわを寄せて可愛くない面をしている。怒っている女ほど、可愛げのないものもあるまい……なんて、口が裂けても言えんな。

「好き勝手言ってさ! ふん!」

 ディアドラはわざとらしく足音を立てながら、メアリーと同じ方向へと歩きはじめ、食堂を出て行った。

「……あと短気なんだよ」

 な、とノイッシュに同意を求める。


「それを言ったら、ゼノもでしょ」


 今度はいつの間にか、隣にサラが立っていた。なんなんだこいつらは……忍者か?

「短気なのは否めんがね。もう少し女らしくしろってことだよ」

「その“女らしく”っていうのが、いけないの! 傷つくんだよ? その言葉」

 サラも口をへの字にして、怒ったような表情をしている。サラがそうやると、なぜか子供がしているように見えるので、なんだかおかしい。

「お前はちょっと女っ気が足りねぇんだよ」

「はぁ!? 失礼な! 例えばどんなところよ!」

 わざわざ聞いてくるとは、簡単に売るケンカを買う奴め。

「強いて言えば、童顔なところ」

「…………」

 そう言うと、サラは顔をしかめて後ずさりをした。

「あとは……まぁ、あれだ。もうちょっと、太れ。痩せすぎだ」

「それ、どういう意味?」

「……」

 サラはギロッと、俺を睨む。言わんでもわかってほしいのだが……。

「ディアドラほど欲しいってこと?」

「いや、そこまではいらねぇよ。あと2~3カップ……ん?」

 隣のサラとは反対方向に、フィーアが立っていた。と同時に、サラの顔が真っ赤に染まる。


「さ、さいってぇぇ!!」


 乾いた音が食堂内に響く。そして、彼女もディアドラと同じように床を強く踏みつけながら、食堂の外へと出て行った。

「あなたが悪いわね」

「……誘導尋問みたいなもんだろ」

 俺はビンタを食らった右の頬をさすりながら、ため息を漏らす。ついつい、本音が漏れてしまった。

「私がDで、メアリーがたぶんC。セシルはCに近いDね」

「おいおい、急に何を言いやがる」

「え? 知りたいんじゃないの? ディアドラなんてFよF。けしからんでしょ?」

 フィーアはきょとんとした表情で、俺を見てきた。てか、ディアドラの奴、そんなに大きいのか。

「どこをどう見りゃ、知りたがってるなんて思うんだよ」

 と言いつつも、知りたいか知りたくないかで言えば、前者であることは間違いないのだが。

「ふーん。でもさ、お姫様は気にしてるのよ。自分の小ささ」

 強烈なビンタを見舞えば、そんくらいわかるんだがね。別にじろじろ見てきてるわけじゃないが、成長しねぇなぁとは思っていた。


「あれはおそらく、限りなくAに近いBね! ズバリ!」

「え、そうなの!?」


 おい、なぜノイッシュが食いつく……。

 しかし、やっぱりそんなに小さいのか。だから細すぎるってんだ。

「私のオッパイセンサーだと、ほぼ間違いないわね。それにしても、けしからんオッパイとは、ディアドラのことよ。私たちに分けてほしいくらいだわ」

「なんじゃそりゃ……」

 俺はがっくりと肩を落とす。だから“女性らしさ”が足りねぇんだよ……。フィーアに至ってはオヤジじゃねぇか。

 まぁ、貴重な情報だったと言えば、そうではある。何より、あのローランが知りたかった情報だろうが。




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