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BLUE・STORYⅡ  作者: 森田しょう
◆第2部:覚醒への御印~Wander der Geist und Seele zu führen~
41/96

36章:破壊を誘う言霊たち

 な、なんでまたこいつが、こんなところに……!? 

 あまりにも驚きすぎて、俺は瞬きするのも口を閉じるのも忘れてしまったくらいだった。

「最初からあのポンコツたちが配備されてたってことは、ある程度敵の強襲を想定していたのかもしれないわね」

 彼女は銃口を口でフッと吹き、辺りを見渡した。周囲に散乱する機械兵の残骸に向けて、まるで蔑視するかのような双眸を送っていた。エルダが作ったものだから、自然と嫌悪感が表面化しているのだろう。

「おい、お前、なんでここ――」


「あなた、プルートで待機しているはずだったと思うけど」


 俺の言葉だけでなく、俺の前に出て遮るようにしてフィーアに向かったのは、まさかのメアリー。

「どうしてここにいるの? お呼びではないわ」

 静かなメアリーの言葉。どうしてか、怒りが含まれているような気がする。

「別にあなたに許可を得る必要はないと思うけど」

「少人数で行動するという作戦のはず。勝手な行動をしないで。人の話を聞いていなかったの? 潜入作戦なんだから、私たち4人になった。あなたはPSHRCIの人間、疑われてもしょうがない。だから外れた。そうでしょ?」

 息つく暇も与えない速度で、メアリーは言葉を羅列する。フィーアはそれを聞いているのか、聞いていないのか目を瞑って耳をかいていた。……あれは聞く気のねぇ顔だな。

「……どうしてうちの女性陣は、みんな仲が悪いのかな」

 と、ディンがいつの間にか俺の後ろに来ていて、ため息をついていた。

「その意見には同感。……フィーアがケンカ売ってるからだろ」

「まぁ……そうなんだろうけど」

 俺とディンはお互い、同じタイミングで大きくため息を漏らした。こんな状況になっても、女子のケンカは無くならないことが、哀しいのだ。

「そうやって周囲に迷惑をかけているって自覚がないのかしら? 自己中心的に行動するのもいい加減にしないと、そのうち痛い目に合うわよ」

「一番腕の立つローランが抜けたんでしょう? この状況を見るに。大方、幹部クラスの人間と戦って、あなたたちだけ先へ行くってことなんだろうけど」

 今までローランを馬鹿にしていたような感じにしか見えなかったが、なんだかんだ実力は認めているんだな。たぶん、戦う姿は一度も見たことはないはずだが。

「おそらく、奥には相当な手練れがいるはず。重要な研究施設のようだから、それ相応の準備はしていると考えて間違いはない。あなたたち3人だけで、どうにかできるとは思えない」

「だからルールを破ってもいいというわけ?」

「負けてしまったら、失敗してしまったら意味がないじゃない。成功させる可能性を、限りなく高める。私はそのために、ここにいるのよ」

 フィーアはそれこそメアリーよりも、淡々と言い放った。

「それにこうなってしまっては、隠密行動なんて意味がないのも同然。私も一緒に行った方が、効率的だと思う」

「…………」

 結果論になるが、フィーアの言っていることもわかる。少人数で行動する――ということを反したわけだから、信用を失うのは当然のこと。しかし、秘密裏に行動するのがダメになってしまった以上、少人数で行動する意味はない。最大戦力のローランが抜けたのだ、たしかにフィーアは重要な戦力にもなる。


「……で、二人はどう思うの?」


 すると突然、メアリーは俺たちの方へ振り向いた。目を細くさせている様は、何やら尋問に近い感じはする。

「俺はまぁ……別に構わんけど。断ったって、どうせ付いてくるんだし」

「僕もいいかなって思うな。一緒に来てくれたら、すごく助かるよ」

 俺たち二人は、ぎこちない表情でそう言った。そんな俺たちをメアリーは流し目で見ていた。

「ほら、賛成2票。OKってことよね?」

「……二人とも、諦めたようにしか見えないけど」


 ギクッ。


 俺とディンは思わず、苦笑いをしてこの場を逃れようとしかできなかった。

「二人がいいというのなら、それでいいわ。彼女の言っていることも、わからなくはない」

 彼女はわざとらしくため息をついて、再びフィーアの方へ向き直った。

「それに緊急事態の場合、敵がその“重要な研究資料”を持って退避する可能性もある」

「そ。あーだこーだ言ってる前に、さっさと奥に行っちゃおうよ」

「あーだこーだ言う羽目になったのは、誰のせいだと思ってやがる……」

 俺は思わず、頭を抱えてしまった。

 まったく、この女はサラとは違って、別の意味でトラブルメーカーだな……。







  36章

  

  ――破壊を誘う言霊たち――





 通路をずっと進み、どんどん奥へと進む。依然として警告音と赤いランプが施設内を照らしているが、既に職員たちはいない。ほとんどが外へ逃亡できたのだろう。その方が、これから戦闘があったとしても巻き込ませてしまう心配はない。

「エルダの機械兵があったということは、あいつも来てるのか?」

 走りながら、俺はフィーアに訊ねた。

「さあ、どうだろうね。ここはどちらかと言ったら、軍部の人が来てるみたいだけど。……ゴンドウ中将とか」

 ゴンドウ中将か……。早い段階で出てくると思っていたが、もしかしたらここには来ていないのかもしれない。それこそ、ハワード軍部長官がいてもおかしくはないのだが。まさか、局長しかいないっていうことはないだろう。

「どちらにせよ、いないに超したことはないよ。さっさとやるべきことやって、おさらばした方がいいさ」

 フィーアはそう言って、前を向いた。ま、さっさとサラを奪い返して、逃げるのが得策だな。





 しばらく通路を進むと、大きく扉が開いた場所に辿り着いた。扉の横には、暗証番号か何かを入力するための装置が備わっており、元々ここは閉じていたのだろう。今回の騒動で緊急のシステムが作動し、閉じられていた場所は全て強制的に開いたのか、或いは中の人が逃げる際に開いてしまったか、だな。

 中へ進むと、地下へ行くためのエレベーターがあった。それは従来のように真下に下降するものではなく、斜め下へ向かって行くものだった。手すりが両端に付いており、民間用というよりも工事用のようなものに感じる。

 それに乗り込み、後部にあるスイッチを押して作動させる。その瞬間、ガコンという音とともに大きく揺れ、金属が掠れるような音をはじき出しながら動き始めた。

 屋根や壁の部分はなく、外の光景がむき出しになっていた。白塗りの壁面が途中で切れ、出てきたのは不思議な風景だった。焦げた茶色の岩石群になっていて、あちこちに光る鉱物が散りばめられている。等間隔に設置された青白い光が、それらをより輝かせていた。

「ここって、基となる惑星でもあったのかしら」

 その風景を眺めながら、端っこに佇んでいるメアリーが言う。コロニーの造り方として、惑星から造られるものと最初から人工的な建造物で成るものがある。たとえばセフィロートは後者であり、月などは前者のものである。

「プルート周辺に、そうなるようなものはなかったと思うんだけどな」

「僕たちが知らないだけで、何かあったのかもしれないね。プルート周辺なんて、滅多なことではいかないしさ」

 まぁ、ディンの言うとおりだろうな。ただ、それにしても……その“惑星の基”の内部をくり抜いて、その奥で何をしているのだろうか。意味があるのか、それとも急ピッチで建造したため、内壁を作る余裕がなかったのか。


「……そう言えば、フィーア、メアリー。聞きたいことがあるんだが」


 俺はふと思い立ち、訊ねた。お互いがこの6畳ほどの広さもあるエレベーターの隅に立っていて、ほぼ同時に俺の方へ視線を向けた。

「“セフィラ”――ってなんなのか、知ってるか?」

「セフィラ?」

 うーんと、フィーアはおでこに指先を当てて、上空を見上げた。

「……知らないわね」

「ちょっと聞いたことはあるかも」

 同じように難しい顔をしていたメアリーが、何か閃いたように言った。

「兄の執務室に、それらしき表現があったと思う。……神々の言霊、セフィラ……って」

「神々の言霊……」

 神の力の一部――と、局長は言っていたな。

「それがどうかしたの?」

 と、メアリーは頭を傾げる。

「局長が扱う能力、それをあの人は“セフィラ”と呼んでいたんだ。マテイと呼ばれる組織から、その力を奪ったって言ってたが」

「マテイ? それは何?」

 今度はディンが頭上にクエスチョンマークを浮かべる。そう言えば、その重要な話をしていなかった。

「SICを裏で操る組織……最高執政機関、とかって言っていたな。局長は、その組織こそが“本当のSIC”だと言っていた」

「裏でSICを操っていた? な、なんだかオカルト的な小説にでも出てきそうな内容だな」

 困ったように、苦笑するディン。まぁ……SF小説や、ファンタジーものに出てくるような内容だからな。

「じゃあ、評議員や枢機院とかの行政・立法機関は……」

「全てマテイが操作しているらしい。数百年前から特殊なエレメント――“セフィラ”を管理してるって局長が言っていた」

 局長はその“力”を神々の力と比喩していた。エレメントが星の力だというのなら、なぜ同じエレメントの力であるセフィラの力を“神々の力”と言っていたのだろうか。

「じゃあ、局長はセフィラの力を集めて……何をしようとしているんだ?」

 ディンは腕を組んで、そう訊ねてきた。

「マテイを倒すため、だとは言っていた。あと、何か言っていたな……わけのわからないことを」

 なんだっただろうか……。



 ――この星が誕生した時から、その心を携えし命――

 ――僕たちは、そこへ入り込んだ異端児――



 ――その導き手と共に歩くんだ――



 ――星の幼子――




「……そうだ、星の幼子……とかって言っていたような……」

 ぼやけていた視界が、一気に晴れたかのように言葉が舞い戻って来た。

「“星の幼子”? ……なんだか、不思議な響きだね」

 俺の声が聞こえたのか、ディンは外の風景を眺めながら呟いた。

「僕たち一人一人が、星の幼子なのかもしれない。そのほとんどは、その空や海の蒼さなんて忘れてしまっているんだろうけど」

 俺たち全員が――。人類の故郷は、どんなに国境や時代を変えたとしても、あそこだけなのだ。人はどこかで、星への想いを馳せているのかもしれない。どんな時でも。

「お二人さん、そろそろ見えてきたわよ」

 メアリーの言葉と共に、俺は下方へ目を向けた。

 辿り着いた場所は――巨大な扉の前だった。水色の絵の具を少し混ぜたような、白い大理石の扉。それは幅10メートルはあり、高さも30メートル以上もあるものだった。現代的なものというよりも、古代風の建築物だった。扉には幾何学模様が刻まれており、見たこともない不思議な文字らしきものが、波紋をかたどったかのように羅列されていた。

「なんじゃこりゃ……」

 俺は扉を見上げながら、そんな言葉を発してしまった。

「現代建築のものには見えないわね。西暦時代の欧州風建築――に近い気もするけど」

 メアリーも同じようにして、それを見上げて呟いた。

「考えたってしょうがないわよ。さっさと行こう」

 考えるのがめんどくさくなったのか、フィーアは頭をガシガシとかいて、扉の前へ向かった。

とはいうものの、この扉はどうやって開くのだろうか? 押して開けられるっていうレベルの扉ではないことは、見ればわかる。

「……どうやったら開くんだ?」

「私に訊かないでよ……」

 俺とフィーアは腕を組み、扉を睨んでいた。

「あんた、ちょっとパンチしてみなさいよ」

「おいおい、そんな古典的な方法で開くわけねぇだろ」

「やってみたら、意外と開いたりするんじゃない?」

 と、メアリーがボソッと言った。再び心の中で、おいおいまさか……と呟いてしまった。

 まぁ、一応やってみるか。もしかすると、この扉は中身がすっかすかな発泡スチロールだったりするかもしれない。

 俺は扉の前に立ち、ゆっくりと指先で触れた。その瞬間――


「――!?」


 まるで砂で造られたものが崩れていくかのように、その触れた先から扉が消え始めたのだ。崩れているのではない、消えているのだ。それはどんどん広がり、まるで水面に落ちた波紋が広がっていくかのように、扉はその姿を減らしていく。

「……こ、これは驚いたな」

 ディンは小さな声で、思わず言ってしまっていた。俺なんて、驚きで声を出すことも忘れてしまっているほどなのに。

「ただのホログラムだった……とか?」

「いや、違うと思う。たしかに触った感触はあったんだよ。ひんやりとした、石独特の感触が」

 俺はメアリーに対し、顔を振って答えた。あれは本当に“在った”ものだった。決して、この空間に投影されたものなんかじゃない。だとしたら、何かのエレメントなどの類なのだろうか……。

「まさか、本当に触るだけで開く――消えちゃうとはね」

 フィーアはそう言いながら、一人で先へ進み始めた。

「ほら、ボーっとしてないで行くわよ。時間ないんだし」

 彼女は俺たちを誘うように、手でこっちへ来いという仕草をした。言われなくてもわかってる――とは思いつつも、俺たちは彼女の後を付いて行った。




「不思議な場所だな」

 思わず、そんな言葉が出てきてしまう。扉から先は、あの扉と同じほどの高さもある空洞で、横幅も同じだった。何より、外壁が特徴的なのだ。まるでガラスかのように、俺たちの姿を反射しているのだ。それらはどこか水色を含ませており、ガラスではないことはわかった。天然の鉱石から造られたもの――というよりも、さらにそれをレプリカとして持ってきたような、そんなものに見えた。それらの奥底から光が出ており、この通路内を照らしていた。ただ、その光は天井にまでは届かず、まるで宇宙の闇が上に広がっているような光景に見える。

 数百メートルほど歩いて、再び扉の前に辿り着いた。今度はさっきのような古風なものではなく、現代風の金属製の扉だった。

「ここだけは、取り付けられたかのような扉ね」

 その扉をまじまじと眺めながら、メアリーは言った。

「……開けるぞ」

 俺はその扉を押し開け、中へと進んだ。



 そこは想像だにしない空間だった。

 通ってきた道よりも天井は高く闇夜のように広がっており、この広間の広さは戦艦一つでも入りそうなものだった。そして新品の大理石化のように、床は煌めくほどきれいなものだった。不思議なのが、周囲に長方形の物体がいくつも立ち並んでいるのだ。それらの大きさはまちまちだが、何かのアートのようにも見える。中には宙に浮いているものもあり、ここは“特異な場所”だということが、はっきりと伝わってくる。


「ゼノ! あそこ!」


 ディンは声を張り上げ、前方を指し示した。彼の視線の先にあったのは、巨大な十字架。そして、そこに少女が(はりつけ)にされていた。

 銀糸のように細やかで美しい髪。あれは――まさか……!



 ――サラ!?



「サ、サラ!?」


 そう、あそこに(はりつけ)にされていたのは、サラだった。その十字架はここから50メートルほど先、大きな段差があって、丘のような場所の上に突き刺さっている。


「ディン、行くぞ!」

「ああ!」


 俺たちは周囲を確認せずに、彼女の下へ走った。そして、巨大な十字架の手前にある段差の前で、何かを感じて急ブレーキをかけた。それはディンも同じで、怪訝そうに前方を見つめる。

「これは……なんだ?」

 目を凝らしてみると、俺たちの前には何やら薄い膜――透明な壁のようなものが広がっていたのだ。それは俺たちを阻むためのものというよりも、彼女を囲うためのもののように感じる。その透明な壁に触れてみると、薄いが確かに壊れそうもない、頑丈なものだと直感した。

「エレメントか? だったら、ぶち破って……」

 ディンはそう言って、クレセンティアを握った。

「待て、ディン。物理的なもんで破壊できるような感じじゃねぇぞ」

 だからといって、エレメントでどうにかできるようなものにも見えないが……。


「サラ、サラ! 聞こえるか!? サラ!!」


 ディンはこの壁の前で、彼女に向かって声を飛ばした。


「サラ! 迎えに来たぞ、起きろ!」


 俺も同じように、大声を張り上げた。だが、いくら叫んでも彼女の反応はなかった。

「お宅ら、落ち着いて周りを見てごらんなさいよ」

 お宅ら……ごらんなさい……? 変な口調で言いながら、いつの間にかフィーアは俺たちの後ろに立っていた。

「たぶん、そこにある装置か何かでエレメントが発生してるんじゃない? よく見てみなよ」

 彼女は右と左に視線をやった。まるで、俺たちにそこを確認しろと言わんばかりに。たしかに、少し離れた場所に50センチ四方の枠が床に収まっていた。それは約20メートルほど離れて、同じものがもう一つあった。

「これは……エレメントが流れているのか?」

 俺は入口から見て左を、ディンは右側のそれを覗き込んでいた。その枠の中心に同じ直径の穴が開いていて、そこには翡翠色の淡いもやが流れていた。通常、エレメントのエネルギーそのものは視覚出来るものではないが、仮に視覚出来るものにさせたら、もやのように目に映ると講義で聞いた覚えがある。

「そのエレメントの流れを止めれば、あのお姫様を囲ってる壁も消えると思うけど」

 フィーアは呆れた様子で、そう言った。なぜこんなことにも気づかないのか、とでも言いたげに。


「……そんな単純な仕掛けなのかしら」


 と、メアリーが言葉を漏らす。彼女は一歩引いた場所で、俺たちの様子を見ていた。

「それに、誰もあの子を“監視”していないなんて、少し変よ」

 たしかに、このフロアは異常なまでに静まり返っている。地下のため、施設内で鳴り響いていたあの警告アラームは一切聞こえてこない。妙に俺たちの声だけが反響していて、気味が悪く感じる場所ではある。

「だったら、尚更さっさと装置を切って、サラを助けて逃げればいいのよ。ここであれこれ考えてる時間はないわ」

「…………」

 フィーアの言葉に納得いかないのか、メアリーは何も言わずに周囲を見渡し始めた。

「とりあえず、止めてみよう。ディン、同時にやるぞ」

「了解!」

 俺とディンは膝をついて、そのもやの中へ手を突っ込み、体内のエレメントを振動させた。エレメントを中和して相殺するには、同じ振動を与える必要がある。

「いっせーの」

「ハァ!」

 俺たちは一斉に突っ込んだ手を広げ、振動をそこへ放った。するとその枠から光の波紋が一気に広がり、フロア全体がぼんやりと光り始めた。その光はじわりじわちと明るさを強めていき、だんだんと頭上に広がる闇夜さえも照らし始めた。





 ――まずい――





「え?」



 ――君はまだ解き放てない――

 ――魂の同調が、終わっていない――



 何を、言っている? 不思議な声が、俺の頭の中で木霊する。




 ――だめだ、逃げろ――




「――!!?」

 その瞬間、突っ込んでいる手に激痛が走った。俺は反射的に手を抜き――いや、寧ろ何かに押し戻されたかのように手が抜けて、その場で後ろへ倒れてしまった。


「な、なんだ……!?」


 手が光っている。紅く、鮮血のように。さらに、その右手は意味もなく震えており、俺は力を込めることが出来なかった。というよりも、まるで血液を圧迫してしびれてしまったかのような感覚だった。


「う……アアアアァァ!」


 その時、俺の反対側にいるディンがうめき声をあげた。それは痛みを抑えきれない声なのだと、すぐにわかった。

「ディ、ディン!」

 後ろへ振り向くと、あの枠に手を突っ込んだまま苦しそうに悶えているディンの姿があった。


「なっ……貴様、どういうつもりだ!」


 今度は、メアリーの声が轟く。彼女の方へ振り向くと――あいつが、彼女に銃を向けていた。



 フィーアが。



「フィーア、お前……何を……!?」

「“同調”は始まった。邪魔はさせない」


 フィーアは銃口をメアリーに向けたまま、一歩一歩、後ろ――サラのいる台座の方へ下がって行った。彼女は俺の方をちらっと見ると、小さくため息を漏らした。

「どうやら、あなたは“まだ”だったようね。まぁ、ディンだけでも成功したんだから良しとしようか」

「……何の話をしてやがる」

 俺は動かない右手を、左手で強く握りしめていた。……くそっ、まったく感覚がない! どうなっちまってるんだ……!

「ほんの少しだけど“同調”が行われ、あなたの内に眠る“力”が顕在化した。それも、中途半端にね。右腕が使い物にならないのは、強制的に“同調”が遮断されたため。本来その力が収まるべき肉体という器に合わせているから、元のままの肉体では力を制御できないのよ」

 俺の様子を見ながら、彼女は意味の分からないことを羅列していった。

「だから……何の話だ! お前、これはどういう意味だ!!」

 俺は思わず、声を荒げた。この現状を理解できないせいで、若干パニックになっちまってる。フィーアが、何かしたっていうのか? この状況を!?


「そう、裏切ったってことね?」


 メアリーはそんな中で、静かに、そして確かに強く言い放った。彼女の翡翠の瞳が、フィーアを睨みつけていた。

「いや、初めから……か」

「それは違うわね。私は初めから、仲間になったわけじゃない。私の役目は、この日、この場所へゼノとディンを連れてくること」

 役目……? まさか!


「お前、ウルヴァルディから密命をもらっていたのか!?」


 そうとしか考えられない。あいつは初めから――会った時から、PSHRCIの戦闘員なのだ!

「そうよ」

 フィーアは大きく頷いた。それでも、銃口はメアリーへ向かっている。

「そして、私の役目はあと一つ。それは……」



「“用済みを始末すること”。だったな」




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