Prologue~終わりへの序曲
知っている人も知らない人も初めまして、森田しょうという者です。
これは自分の三作目の連載小説で、「BLUE・STORY EpisodeⅥ」ということで、最終章になります。
前回の作品がEpisodeⅣだったので、あれとはまた世界観の異なる話になっている……と思います。ファンタジーとありますが、SF要素(?)がけっこうあるので、ファンタジーじゃないかもです。
「BLUE・STORYⅡ」とありますが、別に前作を読んでないからってわからないようなことはしていませんので、別個の作品だと思って読んで頂ければ幸いです。
今回のテーマは「破壊」ということで、それが何を意味するのかを感じていただけるように、頑張っていきたいと思います。
拙い作品ではありますが、どうぞよろしくお願いします。
では、
第1部 「無限と有限が重なり合う中で」
開始です。
丘まで登ると、ようやく周囲を見渡せた。
足下には緑が広がり、多種多様な色の花たちが所々で咲いていて、私の周囲を駆け抜ける風は優しくそれらを揺らしていた。それぞれがまったく同じ動きはしていなくて、個々が別の歌と共に踊っているように見えた。こうした風景を見るのは、とても新鮮だ。
ずっと向こうには蒼い海が広がっている。
明け始めた世界の光を受けて、海面は真夜中の星空よりもキラキラ光っていて、そこここに宝石が埋まっているかのような錯覚を起こしそうだった。波は穏やかに揺れ動いていて、それがこの星の鼓動なのかもしれないと思うと、自然と笑みが零れた。私が知っている世界では、このような「鼓動」は存在しなかった。
――いや、存在し得なかったのだ。
私は上空を見上げる。太陽の方向は白く霞んでいて、だんだんと空の青が世界に広がって、全てを包んでいた。
この星を――私を包んでいた。
ぼやけた白い雲は、ほんの少しずつではあるけれど動いていて、同じ形をした雲は一つもなく、所々透けて青い風景が滲み出ている。薄く引き延ばされたかのような雲は、西から東へひたすら長く続いていた。
「鳥だ」
それらの雲の下を、何羽かの鳥が群れとなって飛んでいる。すごく高い場所を飛んでいるから、私からは黒い物体にしか見えない。鳥の種類なんてほとんどわからないから、黒い鳥――という感覚しかないのが、なんだかもの寂しい。もう少し、図鑑とかで勉強していれば……と思った。
あの鳥たちを見上げながら、私は“ああ、私も飛べたらな”――なんて馬鹿なことを考え、でもやっぱり私は地上から見上げるこの景色の方が好きなような気がする。遥か上空からこの星を見つめたことは数回だけど、やっぱりそう思ってしまう。きっと、地上で生きることを余儀なくされたあらゆる生命は、翼を持つ者たちへの羨望を持つのと同時に、地上を這う自分たちのことも愛していたのだ。
それはヒトも同じ。
私も同じ。誰もがそうなんだ。
たぶん……。
もっと先へと、私は歩いた。ひたすら草原でしかなかったけれど、もっと上へと行きたかった。そこから、風景を広く眺めたいのだ。
緩やかな斜面だから、歩き続けていると少しずつ呼吸の回数が多くなっていった。体もほんのりと火照ってきて、額から汗が滲み始める。でも、そんな私を朝の優しい大気と風がなで、ひんやりとした感覚を与えた。それがとても気持ちよくて、とても新鮮で、とても切なくて……なんだか泣いてしまいそうだった。たぶん、風で目が乾燥してしまったせいもあるんだと思うけれど。
ひたすら歩いて、最も高い場所に出た。呼吸は少し荒くなってしまっているけれど、大気が何よりも澄んでいるせいか、深く息を吸う度に純度の高い大気が肺に充満し、酸素が血液を巡って細胞の一つ一つに行き届く。呼吸一つに、ここまで感動するなんてこと、生まれた場所にいた頃は想像できなかった。
さっき海などを眺めていた丘も、ここから見ることができる。太陽はさっきよりも昇っていて、反対側の空はまだ微かに夜の気配が残っていたけれど、今は完全に元来の青さが広がっている。
「広い……」
呟くように、自然と言葉が漏れる。
この広い世界を見て、私は立ち尽くす。
あまりにも――世界は広い。広すぎる。私一人では。
この草原も、あの海も、あの空も。
あらゆるものがこの星から誕生し、紆余曲折を繰り返しながら、それぞれが生きる場所を求めて、旅立って行った。空の向こう――誰も見たことのない世界の果てを見ようと、必死にあがいて、ひたすら何かもわからない「何か」を求めて、自分たちの生きる場所や、その意義、生まれた意味を探し求めていたんだ。
「あの空の向こう、だったんだ」
空を見上げ、そう呟いた。青空のずっと向こうには、私の全てがあったのだ。私が生きてきた証だとか、それまで蓄えてきた感情や想い、届けられなかった言葉たちとか、或いはもっと表現しきれないもの。いつまでもそこへあるのだと、当時は思っていた。
でも、もう持ち出すことはできない。何もかも、手の届かないところに行ってしまったのだから。失うことを恐れ続け、それでも抗い続けようと思ったのに、運命や世界というのは残酷で、ほんの少しの妥協も許してはくれなかった。
全てを、赦してはくれないのだ。
月が――見える。早朝の輝く空の真ん中に、ぽつんと。真っ暗な夜に煌々とその存在を示していた宇宙の星たちは、既に見えなくなってしまっていて、月は一人だけこの広い青空の中に置きわすられてしまったかのよう。
今の私のように。
たくさんの人たちに、私は置いていかれたのだ。
この青い空の下に。
この、果てしなく広い世界に。
一人でいるには、広すぎるというのに。あまりにも酷だ。たとえ世界が美しく、光と穏やかさだけに包まれているとしても……。
でも、あれはもう月とは言えない。バラバラに砕けてしまったクッキーのように、あそこに浮かんでいる。
咎を背負いし者たち――
私もあなたも、彼らも彼女たちも……元々は、いつかの月のように一つだった。けれど、それぞれがまったく違うものを求め、同じ夢を見つめていたが故に、バラバラになってしまった。互いが互いを認めながらも、相容れぬものだと考え、互いに血を流し合った。
互いに、ずっと泣き続けているのに。
ねぇ、ゼノ。
私は……私たちは、どこへ向かうのだろう。この想いは、どこへ流れるのかな。
無数の選択肢と、それらを選び取ることの結果。
そうやって、どこへ辿り着けるのだろう。どこへ辿り着いたのだろう。
永遠のような旅路と、そうでない始まりと、そうでない終わり。
何度も何度も交叉し合って、絡み合ったツタのように離れることはできなかった。傍に居続けるしか、なかった。
ねぇ、ゼノ……
世界はあなたを愛してくれたのかな。
あなたも、世界を愛してくれたのかな……。
「……カリ・ユガ……」
私は、小さく呟く。
私たちは迎えてしまった。
その時を。その瞬間を。その刹那を。
でも……それでも。
それでも、私は何度でも、あなたの名を呼ぶよ。
ずっと。
ずっと……
だから、答えて……
ゼノ……