第一章 第六話 スパン短すぎるだろう!
リピートバードがギルドに入ってきた瞬間、俺は嫌な予感がしてならなかった。
まさか、もう次のざまぁが発生したなんて言わないよな。
心臓の鼓動が激しく高鳴る中、俺はリピートバードを見る。
「お兄様、帰らないのですか?」
「セリア、ちょっと黙っていてくれないか。今、大事なときなんだ」
「あのリピートバードがどうかされましたの? アスラン」
「ああ、もし、俺の予想が当たっていたら、大変なことになる」
頼む。つまらない定期連絡であってくれ。
「リピートバードか。いったい誰からの連絡なんだ?」
『ギルド本部より、本部長からのメッセージを受け取っています。お聞きになりますか?』
「本部長からだと。分かった。聞かせてくれ」
ギルドマスターが鳥にメッセージを言うように告げると、フクロウに似た鳥は嘴を動かす。
『俺だ。聞こえるか。お前の街から百キロ離れたダンジョンが爆破された。そのせいで住処を失った魔物が新たな居住地を求めて大移動をしている。魔物たちの進行方向からして、お前のギルドがある街を通ることになるだろう。健闘を祈る……メッセージは以上になります』
メッセージを伝え終わったリピートバードは、翼を羽ばたかせてギルドの窓から出て行く。
くそう。まさか本当に来てしまったのか。アスランパーティーざまぁへの道、三百体の魔物編が!
スパンが短すぎるだろうが。さっきダブルざまぁを回避したばかりじゃないか。
「魔物の大移動だと! こうしてはいられない! 急いでこの街にいる冒険者を呼び出すんだ!」
ギルドマスターが受付嬢に大声で叫ぶと、仕事をしていた彼女は急いで事務所の奥へと走っていく。
「たくさんの魔物がこの町にやって来るのですか? お兄様」
「ああ、しかも三百体だ」
「何! それは本当か!」
俺はポツリと言葉を漏らしたつもりなのだが、どうやらギルドマスターには聞こえてしまったらしい。
彼は俺に顔を近づける。
近いって、そんな髭面を近付けないでくれよ。
「どうしてそのようなことが分かりますの? アスラン」
あ、やべー。思わず原作の話をしてしまったけど、カリンたちには何も分からないんだよな。俺が異世界の人間で、なぜかアスランの身体になっていたと言うわけにはいかないし、ここは誤魔化すとするか。
「あーそれなんだけよ。俺、実は未来予知に目覚めたみたいなんだ」
「凄いですアスラン! 未来が見えるなんて」
「さすが私のお兄様です。その未来予知の力があれば、対処することも可能ですね」
ふう、どうにか誤魔化すことに成功したみたいだな。それにしても前回もきつかったが、今回のざまぁも中々エグい。原作では、アスランとセリアの二人だけで戦うことになっているからな。
今回のざまぁを回避する鍵は、ギルドマスターの演説をどうやってうまく成功させるかだ。
原作の方では、暴動が起きてアスランが冒険者たちを挑発するが、それが原因で二人だけで三百体の魔物を相手にすることになる。
最終的にはセリアの魔法で全ての魔物を消し飛ばすことになるのだが、それがきっかけで次なるざまぁが発生する。
絶対にざまぁなんてされるかよ。今回だって『記念追放』の知識を使って、ざまぁを回避してみせる。
しばらくすると、呼び出された冒険者が次々とギルドに集まってきた。
ざっと見て五十人くらいか。うん? 五十人? 原作では百人くらいはいたはずだぞ。
さすがに原作どおりとはいかなかったとしても、半分と言うのは少なすぎる。
「どうやら全員集まったようだな」
ギルドに集まっている冒険者たちを見ながら、ギルドマスターが口を開いた。
え? うそだろう。まさか本当に五十人程度しかいないのかよ。
「先ほど、ギルド本部より連絡があった。ここから百キロ離れたダンジョンが爆破された。住処を失った魔物たちが住処を求め、大移動をしている。その数はなんと三百体だ」
「三百体の魔物だって!」
「おい、おい、おい、マジかよ。俺たちだけでどうにかなる数ではないだろう!」
「俺たちに死ねと言いたいのか!」
ギルドマスターが状況を冒険者たちに話すと、彼らは口々に文句を言う。
うん、うん、原作どおりの反応だ。だけどまだ俺の出番ではない。もう少し様子を見るとするか。
「お前たちの気持ちも分かる! だけどこれはこの町の一大事なんだ! この町を守るには、冒険者のお前たちが必要なんだ!」
「何がこの町の一大事だ。俺は無謀に挑んで死ぬなんてことはしたくないね。俺はこのギルドの専属ではない。巻き込まれる前にとんずらさせてもらう」
「俺も逃げようかな。この町には何か思い出がある訳でもないし」
「どうせ報酬も山分けだろう。五十人もいたのなら、大した金額にはならないって。命を賭けて戦うには報酬が少なすぎる」
ああ、そうだな。誰だって自分の命が惜しいさ。金のために冒険者をしていると言っても過言ではない。
俺だってざまぁからは逃げられないと言う状況でなければ、極力やりたくはないイベントだ。
だけど、俺がざまぁをされないためには戦力が必要だ。誰一人として、ここにいる冒険者を逃すわけにはいかない。
「ああ、そうだな。俺もお前たちに大賛成だ。俺だって命を賭けて戦うのであれば、多額の報酬を要求する」
「アスラン!」
「お兄様!」
俺の言葉が予想外だったのだろうな。二人は驚いた顔をした。ギルドマスターの方を見ると、彼は絶望感を漂わせている。
まぁ、俺の言い方が悪かったとしても、早とちりだ。ここからは俺の腕の見せ所だな。
「お前らはどうよ。多額の金があればギルドマスターの依頼を受けるのか?」
帰ろうとしている冒険者たちを見ると、彼らは顔を俯かせる。
「そりゃ、命をかける価値があるのなら、やってやるさ。だけどここのギルドの運営がどの程度なの分かっているつもりだ。どうやっても俺たちを満足させるほどの金は用意できない」
「だとよ、ギルドマスター! 実際のところはどうなんだ?」
声をかけると、ギルドマスターは俯く。
まぁ、その反応は最初から分かっていたがな『記念追放』でキーファがギルドマスターに訊ねた時も、同じ反応をしていた。
ここまでは原作どおりだな。なら、どうにか上手くいきそうだ。
「分かった。なら報酬金は俺が出そう。一人百万ギルだ。これなら文句はないよな」
「百万ギルだと!」
「確かにそれだけの金がもらえるのなら、命をかける価値はあるが」
「本当に払えるのかよ! 俺たちを戦場に向かわせるための口実なんじゃないのだろうな!」
冒険者たち全員が俺を睨みつけてくる。
おお怖い、怖い。こんなに殺気立てられると、さすがの俺もビビりそうになる。
「安心しろ! 明日前金として一人五十万ギルを用意する。残りの五十万ギルは無事に三百体の魔物を倒した後に支払おう」
俺は口角を上げて冒険者たちを見る。
「どうやらその顔は嘘をついていなさそうだな」
「分かった。なら、明日五十万ギルをもらうことができたのなら、魔物討伐の依頼を引き受けよう」
ふう、どうにか上手くいってくれてひとまず安心だな。まだ半信半疑だろうが、これで時間を稼ぐことができた。
「アスラン、本当に大丈夫ですの!」
「五十万ギルと言っても、全員分で二千五百万ギルを用意しないといけないよ」
「安心しろ。俺には秘策がある。一日あればどうにかしてみせるさ」
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