第三章 第一話 アスラン様たちはミレニアがお守りします
ミレニアが運転している馬車に揺られ、俺たちは王都に向かっていた。
「お兄様、ここから王都までどのくらいかかるのですか?」
「何事もなければ三週間で着くかな」
「そんなにかかるのですね。転移石では一瞬でしたのに」
「まぁ、ないものを強請っても仕方がない。馬車に揺られて目的地に向かうのもたまにはいいだろうな」
義妹のセリアと話していると突然馬車が揺れた。
外で何かあったみたいだな。
「ミレニアさん! 何があったのですか!」
俺は扉を開けてメイドに声をかける。
「あ、アスラン様、それが」
進行方向を見る。すると小汚い格好をした男たちが道を塞いでいた。
手には斧や剣を握っており、下びた笑みを浮かべている。
「俺たちは野盗だ。金目のものを置いて行け! そしたら命だけは助けてやる」
いつかは起きると思っていたけど、ファンタジーのお約束だな。移動すると野盗と遭遇して奴らと戦うことになる。面倒臭いけど、イベントが発生した以上は相手をするしかない。
「野盗が現れた。俺があいつらを倒すから、二人は中に居てくれ」
二人に声をかけ、馬車から降りると俺は前に出た。
「アスラン様、ここはワタシにお任せください。野盗程度ならワタシ一人で十分ですので」
ミレニアさんは馬車から降りると、スカートを上げた。そして足に隠してあったと思われるナイフを握る。
「それでは行きます」
ミレニアさんが一歩前に足を出すと、一瞬にして彼女は野盗の背後に周り、野盗の男の首を斬った。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
首筋から鮮血を噴き出し、男は地面に倒れる。
「よくも友を殺しやがったな」
友を殺されて激情に駆られた男が、ミレニアさんに斧を振り下ろす。しかし、素早い身のこなしで男の攻撃を避けると、今度はポケットから紐を取り出して男の首を締め上げた。
「ガアッ……アッ!」
紐で気道を塞がれたようで、二人目の野盗も一分も満たない内に息を引き取った。
「さぁ、お次はいったい誰がお相手してくださるのかしら?」
ミレニアさんが野盗たちに訊ねると、男たちは尻込む。
「くそう。撤退だ! 化け物が護衛に付いている以上、俺たちに勝ち目はない!」
このままでは自分たちの命が危ない。そう判断した野盗たちは、俺たちに背を向けて全速力で逃げていく。
「このワタシが見逃すと思っているのですか? アスラン様やお嬢様の道を遮った罪はとても重いです。死を持って償ってください」
ミレニアさんが逃げる野盗を追いかけ、背後から次々と斬り倒していく。
体感で三分もしない内に俺たちを襲った野盗たちは全滅していた。
元Aランクの冒険者だと聞いていたけど、まだまだ現役じゃないか。あの身のこなしにナイフ捌きを見る限り、彼女はアサシンとして活躍していたのかもしれないな。
「アスラン様、襲ってきた野盗はこのとおり全滅しました」
「お疲れ様、ミレニアさん本当に強いのですね」
「いえ、あくまでも護身程度です。現役で活躍されているアスラン様には到底及びません」
いや、どう見たって護身程度の強さじゃなかったぞ。立派な戦士としてまだまだやっていける。
「あ、それとワタシのことはミレニアとお呼びください。アスラン様は未来の旦那様ですもの。従者をさん付けするのはよくありません」
「そ、そうですか。なら、次からは呼び捨てにします」
呼び捨てにすると言うと、ミレニアさんは俺の唇に人差し指を押し付けてきた。
「敬語もダメです。タメ口で言ってくださらないと、主人としての威厳がありませんよ」
「わかりま……分かった。今度から気をつける」
彼女に押し切られる様な形になってしまったが、これは仕方がないことだ。
さっきの戦闘シーンが脳裏に過ってしまい、つい逆らわないほうがいい様な気がした。
多分彼女と戦ったとしても、俺が勝つだろう。だけど彼女の笑みはなんとも言えない迫力があった。
「お兄様大丈夫ですか?」
「野盗が襲っていたみたいですが?」
中々馬車の中に戻って来ない俺を心配したのか、カリンとセリアが馬車から降りてきた。
「大丈夫だ。ミレニアが一人で倒してくれた」
「お兄様、それは本当ですか?」
「お父様から話は聞いていたけれど、まさか本当にミレニアが野盗を倒すだなんて」
「ご心配をおかけしました。ワタシはもう大丈夫ですので、アスラン様たちは馬車の中にお戻りください。すぐに王都に向けて出発いたします」
ミレニアが微笑み、馬車に戻るように言う。
「分かった。カリン、セリア、馬車の中に戻るぞ。王都に向けて再出発だ」
二人に馬車の中に戻るように言ったその時、これから向かう森から爆発音が聞こえてきた。
森の方に顔を向けると、もくもくと煙が上がっているのが見えた。
あの森で何かがあった。最悪のケースを考えた場合、あの森を抜けることができずに遠まわりをすることになる。
「ミレニア、急いで森に向かってくれるか」
「畏まりました」
森に向かう様に命令すると、俺は急いで助手席の方に乗った。
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