第二章 第五話 セリアの魔力が暴走した。ここがざまぁへの分岐点だ
「スゲー、魔物が次々と雷に打たれていく」
「これがSランク冒険者の実力というやつなのか」
俺の派手な戦い方を見て、冒険者たちは驚きと称賛の声を上げた。
「凄いです。一から落雷を生み出すなんて。さすがお兄様です」
「わたくしもアスランに負けないくらい頑張りますわ」
「俺たちも負けていられねぇ!」
どうやら落雷で一気に魔物の数を減らしたことで、みんなが奮起してくれたみたいだ。
これならいける。このまま全員の力で魔物を倒していけば、ざまぁは回避できるはずだ。
絶対にざまぁされないからな。
「アスラン、今度は大型の魔物が現れましたわ」
「ふん、大型だろうと巨大生物であろうと、俺の落雷で倒してやる!」
俺は遠目で見える魔物に対して落雷を落とした。
魔物に直撃したな。これでやつはぶっ倒れる……嘘だろう。怯むどころか普通に前進してきやがる。
雷が効かない魔物なのか。今回のざまぁではそんな魔物は出てこなかったぞ。
「アスラン、あの魔物はライトニングロウですわ」
「ライトニングロウだって!」
ライトニングロウは、狼の顔に獅子の身体、頭には二本の角があり、体毛は静電気を帯びた髪のように逆立っている。そして前足と後ろ足は鋭い爪を持つ魔物だ。
おい、おい、どうしてライトニングロウが今回のざまぁに出て来ているんだよ。あいつはもっと先のざまぁで出てくることになっていたじゃないか。
ライトニングロウの身体が光だした。くそう。俺の魔法が利用される。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
魔物が咆哮を上げた瞬間、俺の作った雷雲から落雷が落ち、ライトニングロウに当たる。
やっぱり俺の魔法を利用されてしまったか。
やつは雷雲を発見すると、咆哮を上げて落雷を自身に落とす。そして雷を纏うことで、触れれば感電する鎧を構築するのだ。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
もう一度咆哮を上げやがった。だけど今度は魔物の身体に落雷が落ちていない。ということは!
くそう。間に合ってくれ!
脳内で魔法のイメージを瞬時に描く。
質量を持たせることができるヒッグスと呼ばれる粒子を光に使い、球体に変化させる。それによりできた光の壁をシェルターのようにして俺たちを覆う。こんなイメージだな。
「ライトウォール!」
呪文を唱えた瞬間、俺たちを覆うようにドーム状の光の壁が現れた。
それと同時に落雷が落ち、完成したばかりの光の壁に雷が落ちる。
ふぅ、間一髪だったな。あと一秒でも遅れていたら、俺たちは死んでいたかもしれない。
俺の作った雷雲を勝手に使いやがって、使用料を払いやがれ!
まぁ、こんな冗談を心の中で言えるってことは、俺にはまだ心の余裕があるな。それにしても、早く対策を考えないと。
そう思った瞬間、俺たちの身を守ってくれた光の壁にヒビが入り、砕けた。
咄嗟に想像したから耐久力がなかったか。
やつを倒すには、膨大な魔力の塊を放つしか現段階では方法がない。それを可能にできるのはセリアだけだ。
「お兄様、こうなったら私の魔力をライトニングロウにぶつけるしか」
「それはダメだ!」
それだけはさせられない。彼女は魔力の制御が苦手だ。生まれ持っている魔力量が膨大なせいで、魔法は通常の三倍の威力を発揮する。
しかも強力な魔法ほど、魔力が暴走してしまうリスクが高い。だから俺は毎回、彼女には威力の弱い基本的な魔法しか使わせてこなかった。
原作では、三百体の魔物に負けそうになったところで、セリアが強力な魔法を使って敵を全滅させる。だが、それがトリガーとなって彼女魔力が暴走してこの辺一帯を吹き飛ばした。
それが原因でアスランとセリアは犯罪者扱いをされ、国から追われる立場になる。
セリアの魔法に頼らないといけないという、原作に近いシチュエーションにはなっている。しかし、だからと言ってそんな未来を引き寄せるわけにはいかない。
「ライトニングロウは他の方法で倒す!」
考えろ。考えるんだ! セリアの魔法なしでもどうにかしてライトニングロウを倒す方法がきっとあるはず。
あいつの遠距離攻撃を防ぐには、接近戦に持ち込むのがいい。だけど前方には俺が魔法で作った落とし穴のせいで魔物のところには普通にはいけない。
なら、俊足魔法で崖の側面を壁走りだ。
脳内で足の筋肉の収縮速度を早め、瞬発力が生まれるイメージを固める。
「スピードスター!」
呪文を唱え、俺は一気に崖を駆け上がって壁走りを行い、落とし穴を横切った。
そして、魔物に接近すると頭の中で魔法をイメージする。
炎が矢の形となって敵に射出される。
「ファイヤーアロー!」
脳内でイメージしたとおりの炎の矢が十本空中に展開されると、ライトニングロウに向けて一斉に解き放つ。
十本の炎の矢は魔物に命中してやつを攻撃するも、ダメージは微々たるもののようだ。
全然苦しむ素振りを見せない。
こいつは本当に骨のあるやつだな。楽しませてくれる。
さて、どうやってこいつを倒そうか。
討伐方法を考えていると、ライトニングロウは鋭い爪を持つ前脚で、俺を叩こうとしてきた。
回避するのは難しいか。なら、ここは肉体強化の魔法で敢えて一撃を受ける。
敵の攻撃を受けた際に生じる慣性力と粘性力によって、元の位置に留まろうとする力を利用する。一時的に体内の水分が硬化することで肉体に強度を与えるイメージだ。こんなものでいいだろう。
「エンハンスドボディー」
肉体強化の魔法を唱え、俺は魔物の一撃を受けて後方に飛ばされる。
よし、防御魔法のお陰で全然痛みを感じないな。
「お兄様ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
セリアがここからでも聞こえるほどの大声を上げた。
まさか、俺が吹き飛ばされたことで、俺がやられたと思い込んでしまったのか。
これはまずい。直ぐに彼女の視界に入る場所にまで移動しないと。
そう思った瞬間、ライトニングロウに向けて直径五メートルほどの火球が連続で飛んできた。
これはデスボール? いや、デスボールにしては色が鮮やかだ。これはファイヤーボールで間違いない。
禁止していた中級魔法を、セリアが使ってしまった。
中級でも、上級魔法並みのこの威力だ。もし彼女が上級魔法なんて使ってしまったら、この辺一帯が吹き飛ぶことにもなりかねない。
「お兄様! お兄様! お兄様! お兄様! お兄様! お兄様! お兄様! お兄様! お兄様!」
セリアが大声で俺の名を連呼する度に、ファイヤーボールの威力が上がっている。
このままではファイヤーボールではなく、デスボールを使われてしまう。
くそう。こうなったら俺がライトニングロウを倒して、俺が生きていると証明するしか、セリアの暴走を止めることはできない。
幸いにも、ライトニングロウはセリアの魔法で大ダメージを負っている。倒すなら今だ。
頭の中で水分子が集まり、巨大な三角錐を作り上げる。その水は固まって先端が鋭い氷柱と化す。
「アイシクル!」
魔法を使った瞬間、俺の想像どおりに巨大な氷柱が現れ、ライトニングロウを串刺しにした。
頼む。こいつで気づいてくれ!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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