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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
二十七.カルガモ・オヤコ
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二十七ノ01

 カルガモの親子がここ――"きずな商店街"を練り歩いているのだという。その旨、たまに世間話をしに来るおばちゃんから聞かされたのである。


「ああ、どうしよう、どうしよう。親ガモがいて、子ガモが七羽もいるんだ。ああ、どうしよう、どうしよう。警察に連絡すればいいのかい?」


 私は今日も茶の間から店内に脚を投げ出しつつ、対応するわけだ。


「警察もいちいちそんなことにはかまっていられないだろう」


 するとおばちゃんは「カルガモの親子が事故に遭って死んでもいいって言うのかい!!」と、えらく声を荒らげた。多少、びっくりして、私は読んでいた文庫本を脇に置いた次第である。


「なにもそこまで悪くは言っていない」

「いいや。鏡花ちゃんはそう言ったんだ。とても冷たいことを言ったんだ」


 そういう評価を与えられても文句はないのだが、おばちゃんがしくしく泣くから、関わるしかないかと割り切る次第である。


「鏡花ちゃん、お願いだよ。カモの親子を救ってやってくれ」


 なんとも大げさな話になってきた。


「そのカルガモは? いまはどうしているんだ?」


 おばちゃんは「迷子なんだ。川に行きたいだろうに、その川までの行き方がわからないのさ」となおも悲しげに。


 もはや乗りかかったなんとやらだろう


「おばちゃんよ、もう泣くな。わかった。私がなんとかしてやる」

「ほ、ほんとうかい!?」

「カモの親子の行く末くらい見届けてやれないのであれば、それはそれで気分が悪い。ヒトはできるだけ大らかであるべきだ」


 おばちゃんは右の前腕を目元に当て、おいおい泣いた。


「カルガモも、鏡花ちゃんの言うことだったら聞き入れると思うんだ」


 意味がわからない。


「カルガモはきっと鏡花ちゃんに助けてほしいって思っているはずなんだ」


 ますます意味がわからない。


「具体的に聞かせてもらいたい。カルガモ親子はいま、どうしているんだ?」

「ウチの納屋に逃げ込んできたんだ。だからこそ、申し訳なくてねぇ」


 それならまあ、余計に心配にもなるだろう。


「お願いだ、鏡花ちゃん。とにかくしっかりカルガモたちを助けてやってくれ!」


 期せずして与えられたミッションだというわけだ。


「だから、わかったと言った。力になろう」

「ほ、ほんとうかいっ?」

「嘘をつく理由がない」

「早速、来てくれないかい? カルガモたちは困っているんだ。困っている様子なんだ」

「やぶさかではないと言っている。ただ、彼らは彼らで、ヒトの言うことなんて聞きたくないだろうな」


 そんなことないよ!

 おばちゃんの口振りに、私はぎょっとなった。レジ台の向こうで、おばちゃんはおいおい泣くのである。やはりおいおい、泣くのである。


「おばちゃん、わかったと言っている。カモの親子が目当ての川に到着するまで見守ってやる」

「ほんとうかい? ほんとうだろうね? きちんと面倒を見てくれるんだね?」


 そこまで言うならおばちゃんよ、あんたが導いてやればいいだろうと思うのだが……。


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