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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
二十一.女子の会話
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二十一ノ01

 どうして、そうなるんだ?


 夜、電話口でそう答えつつ、私は右手を額にやった。


『ガールズトークですよぅ、しましょうよぅ』


 そんなふうに言ってくるのは、千鶴だ。


「ガールズトークとはなんだ? 私の知らない単語だ」

『えぇーっ、それって嘘でしょう?』

「ああ。嘘だ」

『どうしてそんな意地悪をするのですか?』

「おまえのことが嫌いだからだ」

『がーん! ほんとうなのですか?!』

「嫌いではないかもしれん。ただ、妙な面倒事を持ち込むな」

『面倒事ではありませんよぅ。愛おしいコイバナですよぅ』


 私は麦茶を一口飲み、コップをちゃぶ台に置くと、和風のランプシェードを見上げた。


「いつ来る?」

『えっ』

「いつ来ると訊いたんだ」

『週末に参ります! 重装備のほうがよいですか!!』

「重装備?」

『キャンプができるくらいの装備を指しますです』

「布団なら貸してやる」

『蚊は多いですか? もう夏なのです』

「網戸くらいは閉めてある」

『では、身体一つで窺うことにいたします』


 私はここで電話を切った。

 するとすぐに着信があり――千鶴だった。


『鏡花さん、なにも言わずに切るのはひどいと思うのです』


 そんな内容だったので、私はまた無言で切ってやった。


 また着信。また千鶴だったらキレてやろうと決めたのだが、あいにくと違った。カイトからの電話だった。


『よ、よぅ。鏡花、元気か?』

「元気だ。じゃあな」

『ま、待ってくれよ。なにも暇潰しでかけたわけじゃないんだ』

「だったら、なんだ? なんの用だ?」

『ガールズトークがしたいんだ』

「……は?」


 私の目は点になる。


『えっ、えっ、ダメか? ダメなのか?』


 電話口でどぎまぎしているカイトの様子が目に浮かぶ。いろいろと考えた末――考えた末、もうなにもかもがどうでもよくなってきた。それでもなんとかリスクヘッジしようと思う。アンガーマネジメントを講じようと考える。


「いいぞ、来い。歓迎するぞ」

『えっ、ほんとうか!?』

「ああ、ほんとうだ。私の華麗なる恋愛遍歴を披露してやろう」


 単純すぎるくらい単純で、さらには馬鹿で愚かしくもあるカイトという少女はなにも疑わないらしい、『やったー!』と歓喜の声を上げた。電話を耳に当てたまま、万歳をしていることだろう。


『いつ行ったらいい? 明日か? 明後日か? なんだったら、いまからでも行くぞ?』

「土曜日に来い。うまい茶を用意しておく」


 またもカイトは『やったーっ!』と叫び。ほんとうに阿呆な女だ。巨大なカマドウマにでも食われて死んでしまえばいいのに。


「じゃあな、切るぞ」

『うん。当日はよろしくお願いします』


 ほぅと感心した。弁当屋で働くようになってから、カイトは最低限の礼儀ぐらいはわきまえるようになったようだ。喜ばしい。労働の喜びを感じていることだろう。もっと言ってしまうと、(せい)の意味すら噛み締めているかもしれない。


 ――千鶴からまた電話。


『鏡花さん、鏡花さん』

「二度も呼ぶな。一度言えばわかる」

『おとうさんがですね、心配だから自分も行くと言い出したのです』

「来たらガールズトークにはならんぞ」

『そこをなんとか』

「じゃあ、一泊はナシだ」

『ですよね』


 千鶴がにこりと笑ったような――印象。


「いいから、一人で来い」

『はいなのですっ!』


 通話を終えた。一回りとまでは言わないが、それに近しいくらい年下の娘どもが泊まりにやってくるわけだ。「やはりどうでもいいな」と呟きつつ、私は電気を消して、二階に上がった。今度、まとまった金が手に入ったら、茶の間の畳を新しくしようなどと、突拍子もなく思った。


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