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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
十八.楽しい富良野
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十八ノ01

「三人、イケるんだよねぇ」


 ちゃぶ台の向こうで、今日も緑の短髪にタイトな黒いバイクスーツ姿のマキナが、そう言った。


「なんだ。今度は相手を三人に増やしてヤるのか」


 きょとんとした表情のマキナはすぐに、「そういうことじゃないよぅ」と言い、朗らかに「あははっ」と笑う。


「三人で北海道に旅行に行こうって話だよぅ」

「は? 北海道? 旅行?」

「ほら、だって、先日は危ない目に遭わせちゃいましたから」

「そのことならもういい。私はいま、こうしてきちんと生きているんだからな」

「旅行は面倒だってこと?」

「そうでしかないだろうが」

「でも、鏡花ちんのおっぱい、拝みたいよぅ」

「おっぱい、か……」


 べつに胸のことを考えているわけではない。温泉に浸かれるであろうことは無視しがたい魅力的な条件であるというだけだ。


「いつでもいいのか?」

「そうだけど、早いほうがいいよ。避暑ってやつだよぅ」


 温泉で脚を伸ばし、その後、うまい料理を食べて……という事柄には、やはり魅力を感じざるを得ない。


「わかった。いいぞ。日程を組め。ご一緒してやる」

「やほーぃ、やーりぃ」


 右手を突き上げた、マキナである。


「それで、もう一人なんだけど」

「は? もう一人?」

「うん。私、三人だって言ったじゃん」

「べつに二人でだっていいだろう?」

「せっかくだから、三人で行こうよぅ。誰かいい友だち、いない?」

「私が絶望的に人付き合いが悪いのは、知っていると考えていたが?」

「数人くらいはいるでしょ?」


 いるにはいるが、悲しいかな、快く付き合ってくれそうなニンゲンは、一人しか思いつかなかった。


 ――マキナにバイクで送ってもらった先、千鶴の家――立派な一軒家のチャイムを鳴らした。「私は三上と申します」と言ったところで、インターホンから「えっ、えっ! 鏡花さんなのですか?!」と聞こえた。しょっぱなから千鶴に会えるらしい。ラッキーだと言える。


 門が開く。千鶴がアプローチををぱたぱたと駆けてきて、胸に飛び込んできた。


「あああああっ、この香りと張りのある豊かさ。まさに鏡花さんのおっぱいなのですよぅ」


 私は空を見上げながら、不機嫌な顔をした。


「千鶴、話をしにきた。おまえの両親に用事がある」


 千鶴は離れ、「きゃあぁっ」と顔を両手で覆った。「まさか、ついに結婚していただけるなんてっ」と、明後日の方向からの文言を述べつつ、今度はぴょんと跳ねてみせた。


「千鶴、残念ながら、そうじゃない」


「わかってますですよぅ」わざとらしく口を尖らせるあたり、千鶴はきちんと理解しているらしい。「なんの御用なのですか、鏡花さん、なんの御用なのですか?」と、くどい言い方で訊いてきた。


「端的に言う。北海道に、旅行に行かないか?」

「えっ、旅行ですか?」

「ダメならいい。そう言ってくれてかまわ――」

「行くッス!」


 なぜか体育会系男子のごとき返答。

 あまりの勢いのよさに、さすがの私も驚いた。


「学校じゃないのか?」

「夏休みというものがありますです」

「ああ、そうか。そういうことか」

「行きます! 絶対に行きます! ですから、私の両親を説得してください!」

「そのつもりで来たんだよ」私は肩をすくめた。「もう少し、綺麗な恰好で来たほうが、よかったかなぁ」


 千鶴が「鏡花さんはどんなファッションでも美しいのです」と言ってくれた。なんだかいろいろと気に食わん生意気なガキではあるが、たまには嬉しいことを吐きやがるのである。


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