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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
十七."フューラー"
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十七ノ04

 三人で我が家の茶の間のちゃぶ台を囲み、緑茶を飲んでいるところである。一人は当然、私である。他の二人はマキナと楡矢。偶然、顔を合わせることになったのは、私以外の二人である。


「えぇっと、コンフォートホテルやっけ?」

「違うよぅ、楡矢くん、シーフォートホテルだよぅ」

「ああ、なるほど。そうやったかぁ」

「そのとおりなのだよぅ」


 ハッハッハと顔を見合わせ、笑い合った二人。私はそんな二人に順番に顔を向け、くり返し、しかめ面をした。


「二人は知り合いだったか?」

「知り合いだよぅ」

「そうや。知り合いや。若年性健忘症もええとこやな、鏡花さん」


 そんなことはどうでもいいのだが、あっはっはと笑った二人を見ると、当然、眉間に皺が寄る。


「で、派手なことがあったくだんのシーフォートホテルだが、その後、どうなった?」


 てっきりマキナが答えるのだと思っていたのだが、楡矢のほうが口を開いた。


「ホテルはね、地下駐車場が使用不可になってる。あと、ホテルの正面が通行止め。使えるようになるまで時間はかからへんと思う。そういうもんなんやわ、事の成り行きと行政の対応ってのは」

「やはり、怪しげな組織なのか?」

「まあね。せやけど、それ言うたら、マキナんとこもおんなじやわ」


 また「あっはっは」と笑い合う二人。頭痛を覚えるまでには至らないが、にしたって、私があずかり知らないところで深く知り合っていて、当該現場で二人が仲良くすることは気に食わない――というだけだ。さておき、今後の話がある。"ホーリーランス"とかいう組織は、私のこの自宅を知っているのだ。今後、あおりを食う可能性もなくはないだろう。とても迷惑な話で、だから二人に対して、多少、語気を強め、「なんとかしろ」と告げた次第である。


「その点については、大丈夫やと思うよ」と楡矢が笑顔で簡単に言う。「俺が調べた限りやと、そこまで非常識な連中やないらしいわ」

「興味深い一節だな」私は腕を組んだ。「しかし、なにをどうしたら、そんな楽観的な話になるんだ?」


 今度はマキナが話を引き継ぎ、「組みにくい相手じゃないってことぉ」などと答えた。


「もう一度、訊く。連中はまともなのか?」

「一般人を襲わないという点に関しては、すっごくまとも」

「あれだけの乱痴気騒ぎを起こしておいてか?」

「どういう騒ぎを発生させたとしても、フューラーは賢人。その感じと漢字、鏡花ちんも目にしたと思うけど?」


 確かに、奴さんの漢字は余裕の「裕」だった。相変わらず不便な能力としか言いようがないが、そのじつ、そうなのだろうと判断している。


「話はわかった。で、どうなんだ?」


 楡矢が「なにが?」と口を利き。

 マキナも「なにが?」と同様に。

 二人が目を合わせた結果、楡矢が代表してしゃべるようにしたらしい。


「それってひょっとして、鏡花さんが今後の生活において心配してるってこと?」


 私は睨みつけるようにして、楡矢を見た。


「その旨、当然だから、三度目を訊いているんだよ。私のこの気楽で平和な生活に支障をきたすような事態になってしまっては困るんだ」


 すると二人でまた笑い合い。マキナに至っては右手で腹を叩いたりもして。また率先して、楡矢がくっちゃべるらしい。


「そのへんは大丈夫やよ」

「なにをもって、大丈夫なんだ?」

「俺が四六時中ボディガードをしてさしあげるから大丈夫なんや」

「嘘と事実の判別くらい、私にもつくんだが?」


 冗談、冗談やよ言い、楡矢は少々、どことなく決まりが悪そうには微笑み。


「いまんとこ、連中は事をかまえへんよ」

「だから、なにを根拠にそんなことを述べるんだ?」

「感覚的なもんやよ。奴さんらは無茶はせーへん」

「高速を走っている最中、後方からさんざん撃たれたんだが?」

「それって命中せーへん程度に撃ってたんやろ? プロとまでは言わんけど、相手はその道に長けてるんや。当てることくらいは簡単やったはずや」


 そう言わてしまうと――納得せざるを得なかった。


「っちゅうわけやさかい、本件、クローズや。またなんかあったら、マキナにでも俺にでも言うてくれたらええ。速やかに対応するよ」

「そうそう、鏡花ちん。楡矢くんの言う通り」

「昼飯行こうや、奢ったるさかい。ぼろっちぃ店やけど、味はたしかや。マキナ、車、走らせたってくれ。ちょい遠いんや。その後、カラオケでも行こうや」

「カラオケ大賛成! いいよね 鏡花ちん?」

「断る」

「えーっ、どうしてぇぇ?」


 そんなふうに訊ねてきたマキナに「私はひどく音痴でな」と答えると、楡矢もマキナも大笑いした。心外だったが、良しとした。私は肝が太いのだ。


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