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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
十四.掛け値なしの悲劇
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十四ノ03

 「きゃあぁっ! きゃあああぁっ! お願いです、鏡花さん! 助けて……っ!」


 ある日の日中、電話越しにエリからそう聞こえたので、私は――このうえなく焦った。不安になった。一気に絶望しそうにもなった。エリ、どうした? おまえの身になにが起きたんだ?


 電話の背後ではカンカンカンという踏切の音が鳴っていた。すぐに彼女のもとに向かいたい。だが、踏切の音だけでなにかを見つけられるわけでもないし、なにかを知ることになるとも思えないし……。


 私はとにかく取り乱している。エリが助けを、私が高く評価してやったエリが助けを求めている。それだけはわかっていて、しかしなにも、なにもできるとは思えない。だからって、ほうっておいていいのか? そんなの嫌だ、嫌だ! エリはイイ奴なんだ。エスプレッソを苦そうにすすって、チョコレートパフェをうまそうに食べて……。


 私はとにかく慌てている。それを自覚しているのに冷静でいる、いや、いられない? とにかく自分がなんだか嫌になる。――が、そんなことはいい。助けてと言ってきたエリのことを、なんとしても救ってやらなければならない。そこにどんな理由があるのかわからないが、切羽詰まったセリフ、状況であることは間違いないのだ。


 どうしよう、だからといって、どうしよう……。困り果てた私の指は、ケータイの――楡矢の番号にターゲットを絞った。通話の要求にあっという間に応じてくれた。やっぱり、彼にとってのプライオリティについては、私が最も高いということなのだろう。


「よぉ、鏡花さん、久しぶり。あなたから連絡されると嬉しいし、そりゃ秒で応じてまうわ。ちなみにいまは会議中なんやけど、つまらんおっさんしかおらんさかいね。受け付けの女のコはそれなりやったけど。あははははっ」


 私は鼻をすすり、情けない声で、三上鏡花らしからぬ声色で、「楡矢ぁぁぁ……っ」と発していた。どうしようもないから、どうしようもない気しかしないから、すがるようにその名を呼んだ。すると、楡矢はなにかを悟ったようで、「鏡花さん、俺んこと、信用してくれや」などと言ってきて。


「女だ。私の大切な女が、助けを求めてきた。なにから抜け出したいのか、なにから助けてもらいたいのか、それがまったくわからん。だが、のっぴきならない状況にあることだけは認識してくれ」

「阿呆か、鏡花さん、それだけの情報で動けると思うかぁ?」

「踏切の音がした」

「それ以外は?」

「サイレンが鳴っていたように思う。消防車と救急車のサイレンだ」


 一拍の間。


「ほかにはなんや、心当たりはないん?」

「ない。だから、困っている」

「男と女の話なんか?」

「楡矢、どうしてそこまで、おまえの勘は冴えわたるんだ?」

「そういう一面において、俺にはつまるところ、思いつくところがある。浮かぶんや、光景、情景が。鏡花さんからすれば、それって奇跡やと思うんやろうけれど」

「なんでもいい。彼女を……エリを救ってやりたい」

「踏切にサイレンやな? 最後に訊きたい。近所なんやな?」

「わからん。だが、恐らくそうだと信じたい……っ」


 楡矢は「わこた」と言うと、「まあ、任せとけや」と力強く述べた。私は拝むようにしてケータイを持ち、「なんだ、なんだ、どういうことなんだ、エリ……」とつぶやいた。胸が苦しくて苦しくてたまらない、真ん中から胸が張り裂けてしまいそうだった。


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