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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
四十八.棺桶を引きずるアフロの男
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四十八ノ02

「アフロ男よ」

「なんだい、鏡花のねえさん」

「いや、おまえにねえさんなどと呼ばれる筋合いはないんだが、まあいい。ヤクザへの報復なんてやめておけ。いい目が出ることもないし、いい目に遭うわけもないぞ」


 アフロ男は「俺はやらなくちゃならないんだよ」と生意気な口調で力強く述べた。右手を使ってパチッと指を鳴らしたくらいである――いったいなんの意味が?


「だったらもうなにも言わん、死んでこい。私はいっこうにかまわんぞ」

「ああ、死んでやるさ。任せろ」


 まったく、なにを任せろというのか。


 表からがらがらどしゃんっとなにか木製の物を轢き殺したような音がした。


 木製の物?

 まさか――。


「ま、マジかよ、それだけは勘弁してくれっての!」


 アフロ男が大声を出して表、商店街のほうへと向かう。私もそれなりに急いで後を追った。目の前の光景を見ると、それなりに笑えた。棺桶が粉々にぶっ壊れていたのである。


 アフロ男は茫然としているようで、やがて両膝を地についた。


「待てよ、おい。この商店街は真昼間から車が行き来しやがるのかよ……」

「そう珍しいことでもない。あることはある。残念だったな」

「棺桶を引きずって歩くのが、俺のアイデンティティだったんだぜ?」

「知らんがな」

「それを奪われちまったってんなら、俺はどうしたらいいんだ?」

「だから、知らんがな」


 アフロ男はいきなりもいきなり、駆け出した。


「三上鏡花は馬鹿だ! 俺はおまえのせいで死んでやる!!」


 おぉ、馬鹿が馬鹿を言い切った、投げやりを決め込んだ。

 よいではないか、べつに、奴にどんな事情があって奴が死のうが。


 私はいよいよ古書店の――店番に戻る。

 ――が、なんとも気持ち――居心地が悪い。


 そこで頼った相手。

 それは男で、桑形さんちにの楡矢くんという。


「わっほい、鏡花さん。あなたから連絡もらうと目の前がちかちかします」

「世辞はいい。相談に乗ってもらいたい」

「はいほー、なんぞや?」


 らしくないなぁと思い、私は自らの後頭部をがしがし掻いた。


「馬鹿なアフロの黒人がいるんだよ」私は右手で前髪を掻き上げた。「助けてやれ。いまのところ、奴さんは無罪だ」


 楡矢は「ほぉ、へぇ、なるほどぉ」などと要領を得ない返事をした。しかし、「任せろや」と言うあたり、なんでもできるし、どこにでも顔が利くということなのだろう。万能性が窺える。


「鏡花さん、案件は請け負ったるさかい、一つお願い」

「なんだ? 速やかにほざくといい」

「食事、付き合ってやってぇさ」

「なんだ、それくらいならわけないぞ。ヤらせろと言うのかと思った」


 楡矢は電話の向こうで「にっしし」と悪戯っ子のように笑った。


「約束やで? 忘れんといてや」

「エロいドレスくらいなら着るぞ?」

「えぇぇっ、ホンマに?」

「私は私のことについてひどく客観的だ」


 あははと笑い、楡矢は「アフロの黒人やね。間違いない?」と問うてきた。「間違いないぞ」と答えると、「ホンマ、任せとけや」と返ってきた。


 本件、楡矢にうっちゃっておこう。


 思えば奴に面倒を押しつけてやって、失敗したためしなどありはしないのだ。


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