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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
四十八.棺桶を引きずるアフロの男
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四十八ノ01

 美人すぎる古書店の(あるじ)なるコアなコンテストがテレビ等で催されれば私は大圧勝することだろうが――。


 さて――私は今日も和室の端から店内へと足を放り出してそれなりに店番じみたことをしているわけだが、そんな折に外からずりずりずり、ずりずりなる、まさになにかが引きずられてくる音が聞こえてきたわけである。まだえらく遠いところから聞こえる音のように思えるが、なんだか耳障りで、だからなんだか気になって、そこで私は本をたたんで表に出た。ぎょっと――とまではならなかったが、なにをしているのだろうと、その人物を見て、不思議に、あるいは不安に思った。不穏に感じることはなかったが、不可思議にはなった。


 アフロヘアの黒人男性が太い縄を背負って棺桶を引きずって歩いているのである。


 刹那、私は考えた。

 なかなかにシュールで面白い様だな、と。

 ナンセンスだ。

 馬鹿馬鹿しくて非常によろしい。


 声をかけずにはいられなかった。男が前を通り過ぎたところで、「おい男、おまえはなにをしている」と呼びかけた。


「ついに俺様に声をかけてくるビッグマムのお出ましか」

「いや、マムではない。菊の花も好きじゃあない」

「ヘイ、三上鏡花!」

「私の名を知っているのか。だったらなおのことフルネームを言うのはよせ。照れ臭いからな」

「ヘイ、三上鏡花!」

「そうか。おまえの耳は死んでいるのか。まことに残念だ」


 男は息を切らしている。そこまでするくらいならなにをするにももう少し余裕を持てと言いたいところだが、そういう話でもないのだろう。男は棺桶の上に腰を下ろし、あらためて、くふふと笑った。男の含み笑いほど気色の悪いものはない。万人に共通する総意だろう。


「で、アフロの男、おまえはなにがしたいんだ?」

「この際だから言っちまおう。俺は兄貴のカタキが討ちたいんだ」

「兄貴のカタキ?」

「カタキってのは近所のヤクザさ。兄貴を殺してくれた。復讐しねぇとな」

「あるいは、そのカタキとやらをおさめるために、棺桶を引きずっているのか?」

「ああ、そうだ。カッコいいだろ?」


 ああ、違うぞ、このすっとこどっこい。

 棺桶を引きずっていたってカッコよくはないぞ?


「まあいい。呼び止めてすまなかった。せいぜい、うまいこと復讐を完遂してくれ」

「わかってるさ。俺はやってやる。見てろよ、三上鏡花!」


 あまりに名を連呼されるとさらに気色悪い。そも、私はヤクザと仲良くあるつもりはないのだが、にしたってそのヤクザとぶつかると、このアフロの黒人は鮮やかに命を散らしてしまうことだろう。


「待て、アフロの男」

「ああ、俺はアフロの男だが、それがどうかしたか?」

「人殺しに向かうのは結構だが、そのまえに麦茶を振る舞いたい」

「麦茶?」

「ああ。尊い飲み物だ。喉を潤し、心にもゆとりをくれる」

「わかった。いただくぜ」


 アフロの黒人は棺桶をずりずり引きずりながらいよいよ店の前までやってきた。麦茶を振る舞っているあいだは我が古書店の前に棺桶が置かれているわけだ。うむ、シュールでナンセンスだ。すばらしい構図と言えよう。


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