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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
四十七.飛べ!
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四十七ノ03

 千鶴もカイトも駆けてきたらしく、我が古書店に訪れるにあたっては息を切らしていた。「どうしたんだ、二人とも」と訊ねると、「とにかく急いできたんだよ」とカイトは要領を得ない返事。カイトには恋人のような男がいて、そいつはコータというのだが、「なんであれどうせなら連れてくればよかったのに」と意見すると、「奴さんは喧嘩だってさ」とカイトは笑った。河原でやるようなやつだろうか。なんにしてもそのへん適度にこすって理解があるあたりカイトは大物だ。将来性がある。千鶴は千鶴で「まっすぐに来たのですよ」と言うあたりに可愛げがある。要するになにが言いたいかというと、私は千鶴もカイトも大好きだということだ。


 フツウのニンゲンは立ち入れない草むらがある。足の短い草むらだ。私、それに千鶴とカイトは彼に向って三人揃って手を振った。堤防から見下ろす位置である。その若い男はケージを地面に置いてから、私たちが手を振ったのに応えてくれた。いい奴だ、ほんとうに。奴さんは性善説を信じているのだろう。愚かな考え方だが、彼に限ってはそう、悪くない。


 夕暮れどきだ。

 西日が眩しい。


 私も千鶴もカイトも慌てるようにして堤防を駆け下りた。


 カイトが「このケージの中か? このケージの中にとんびは入ってるのか?」などと無邪気に訊ねた。そんな無作法さにも目くじらを立てることなく、若い男は「ええ、そうですよ」と丁寧に笑った。千鶴が「だいじょうぶなのですか? ケガをして、それで保護されたのでしょう?」と心配そうな顔をした。すると若い男は「もうだいじょうぶです」と言い。「きちんとちゃんと飛べますよ。リハビリはカンペキです」と笑顔を浮かべ。


 若い男だけではなく、周囲を専門家だろう、そんな彼らが見守っていることに気づく。リリースするのは若い男であろうが、そこにはなんらかの責任が生じ、だからみなで見届けようというのだ。とんびだ。たかがとんびだ。だけど、力強く送り出そうというニンゲンがいる。感動しなかったと言えば嘘になる。


 若い男がケージの扉を開けた。「行けっ!」と発した。


 とんびがケージから飛び出し、ばっさばっさと翼をはためかせ飛び立った。


 すでに泣きそうになっている私ではあったが、もはや千鶴は涙ぐみ、カイトにいたっては「すげー、すげーっ!」と完全に泣いていた。


「なあ鏡花、とんびって猛禽類の中では軽んじられてるんだってな」

「それはそうだが、カイト、そんなこと、どこで知った?」

「調べたんだよ。調べたんだ、グーグル先生で」

「感心至極だ」

「すげーよ、すげーっ! あのとんび、ほんとに羽ばたいていきやがった!」


 飛べ、飛べ、飛べ。

 飛べっ、飛べっ、飛べっ!!


 私たちは上空で円を描きながら「ぴーひょろろ~」と鳴くくだんのとんびに、最大限のエールを送った。「がんばれよー」って。――俗物的な発想には吐き気がする。


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