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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
四十七.飛べ!
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四十七ノ01

 常時、暇を持て余していると言っていい私は、時折表に出ては空を見上げる――決まって青空だ――雨天に好んで外に出るニンゲンなどいない。ピーヒョロロ~と泣きながら上空を旋回するのがとんびである。とんびだって美しい――と言うより、愚直なあたり気が利いている。素晴らしいと思うのだが、どうやら国においてはそうでもないらしい。にしたって「とんびが鷹を生む」などとは失礼千万だ。訂正しろと投書してやろうか、文科省あたりに、真っ向から。


 もはや秋の最中(さなか)だというのにまだまだ暑い。深い深い我が胸の谷間に汗をかいてしまう。また保冷剤でも挟んでやろうかと思う。ひんやりして気持ちがいいのだ。冷たすぎるきらいもあるのだが。


 ――あれ? と思う。


 眺めていたとんびが突然、バランスを崩したのだ。落ちる――。私はそう判断し、慌てて走った。行き過ぎた。引き返す。くるくる円を描いて飛びながら落ちてくるので落下地点の予測が難しい。


 しかし私は、大きなとんびの身体を身体いっぱいを使って抱き止めることに成功した。言葉が通じるとは思えないのだが、それでも「おいっ、おいっ!」と呼びかける。とんびは翼を畳んだ。元気がない。明らかに弱っている。


 このままでは死んでしまう。


 私はとんびを抱いたまま家まで駆けた。スマホを使って適当な連絡先を見つけ、そこに電話を入れた。鳥獣保護を専門にしているらしい非営利団体だ。電話に出たのは女性だった。


「とんびが落ちてきた!」

「はあ?」

「馬鹿か、おまえは! 私は早く助けに来いと言っているんだ!」

「ま、まずはご住所をお教えいただけますか?」


 私は速やかに住所を述べた。


「早く来い。生き物に目の前で死なれると気分が悪いんだ」

「とんびは比較的、死んでしまったりするものなのですが……」

「私のとんびは死なせたくない。早くヒトを寄越せ。二度も言わせるな」



*****


 ねずみ色の作業服を着た若者がやってきたのである。ろくに挨拶もできない若造が相手ならひどく突き放した態度をとってやるつもりだったのだが、どうやらそうではないらしい。「すみません。早くそのとんびを見せてください」と理知的に言ったのだった。


 どうしたらいいのかわからなかったので、とんびにはとりあえず座布団の上に座ってもらっていた。座ってもらった――そう。とんびはお行儀よく座ったのだ。作業服の若者は覗き込むようにしてそっととんびのことを観察した。


「けがをしていますね。おなかの下のあたりに血がにじんでいて」

「やはりそうか。原因はわかるか?」

「恐らく、カラスでしょう」

「カラス? このとんびは奴さん連中よりよっぽど身体が大きいじゃないか」

「カラスには複数で自らより大きな個体を攻撃する習性があります」

「そうなのか?」

「はい。そうなんです」


 若者は困ったように笑った、苦笑いだ。


「で、だいじょうぶなのか? こいつは治るのか?」

「だいじょうぶです。治します」


 「治るのか?」と訊いたのに、「治します」と返ってきた。

 どうやら意志の強い若者らしい。


「治したら、返すのか?」

「そうです。返します」

「連絡をくれ」

「えっ」

「自然に返してやるときには私に連絡をくれ」

「僕が連絡したとして、あなたはなにをしたいんですか?」

「応援だ」

「応援?」

「そうだ。応援したいんだ。私は音痴だから応援歌は歌えんがな」


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