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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
四十六.草野球――からの~
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四十六ノ02

 狭苦しい居酒屋。

 草野球チームのおっさんどもと。


 電話をかけたのだ。


「おぉ、きちんと出てくれるじゃないか、コータ。見直したぞ」

『普段なら無視する。しかし鏡花さんからだからな、はっはっは』


 相変わらずやっすいファミコンゲームの魔王みたいに笑うコータである。


『それで、いかがなすった、鏡花さん』


 アホみたいな口調はともかくとして。


「出てこないか?」

『ほぅ、どこにかね?』

「住所を言う。来い」

『承知した。楽しみだ』


 コータは単細胞だが、決して阿呆ではない。



*****


 コータはやってくるなり、カイトの姿を見つけるなり、彼女の隣に座った。そのあたりまえのような様子に私はつい笑ってしまった。場も盛り上がった。千鶴に至っては「私も恋人が欲しいですぅ」などとのたまった次第である。


 カイトは顔を真っ赤にしている。男には興味がなかった女が、それが、いまはどうだ。コータに惚れっぱなしなのである。たぶん、コータはそう簡単にカイトに触れたりはしないだろう。という側面から考えると、下手をすればコータはカイトに一生、触ることをしないのかもしれない――否、それはないか。カイトの肉体はエロティックで、コータはコータで逞しい身体をしている。正直、二人の間柄は羨ましい――なんていうのは冗談だ。私は三上鏡花なのだ。俗世間とは無縁なのである。


 ――そのときだった。


 みながわいわい楽しく騒いでいる当該居酒屋に、「手を上げろぉっ!」などと物申すおっさんが顔を出した。なんだ、こんなときに。誰も満足が行く金なんて持っていないぞ。ましてやそも金持ちなど――。


 誰よりも速く動いたのはコータだった。あっという間に飛びかかる。次の瞬間に声を発したのは楡矢だ。「やめとけやぁっ、コータぁっ!!」と叫んだ。でも、そのときにはもう、コータはおっさんの顔面を蹴飛ばし――わかった。コータの蹴りは強すぎる。おっさんの首をやったのがわかった。


 だけど、コータにはなんの悪びれた様子もない。だが、威張るような様もない。ただひたすらに、自分は正しいことをしたとだけ伝わってきて。


「楡矢さん、ごめんなさい。俺は手加減ができないようです」


 言って、コータは微笑んだ。


「消えろや、コータ」そう述べたのは楡矢だ。「俺がしゃべればなんとでもなる。だいじょうぶや。任せとけ」

「楡矢さんに任せるばかりではいけない。最近、そう考えているんです」

「阿保抜かせ。任せられるときは任せとけや」

「あなたが俺のことを誰より買ってくださっているのは知っています」


 そのとき、「ダメ! ダメだよ、そんなの!!」と叫んだのはカイトだった。「だって、おかしいじゃん! 不可抗力じゃん! コータはなにも悪くないじゃんか!!」


 誰もが押し黙った。


 私は物を言うことにする。


「楡矢、おまえがなんとかしろ。おまえが罪をかぶれ」


 楡矢はにっこりと笑った。


「オーライ、はいな。任せといてや」


 コータは「しかし、楡矢さん」と彼らしくもない難しい表情を浮かべた。


「誰も幸せにならん結末。おまえにはそのへん、まだわからへんかもしれへんけどな、そんなんあったらあかんねわ、コータ。まあ、俺に任せとけや」


 コータは明後日のほうを向いて、肩を落とした。


「ただ、勘違いしなくてほしいんだ、楡矢さん。俺には俺の行動について、なにもかもをひっかぶる信念がある。覚悟があるんだ」


 すると、カイトがゆっくりと、だけどしっかりと、コータに抱きついたのがわかった。カイトはコータに「いなくならないで、いなくならないで」と言って、泣く。コータはコータらしくもなく、「……ごめん」と謝った。カイトはコータにしがみついて、離れなかった。


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