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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
四十五.爆弾を処理するにあたり
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四十五ノ01

 路地にプラスチック爆弾が仕掛けられているのを、若くして八百屋の主人を務める小僧っ子が見つけたらしい。しかも、時限装置つきだったらしい。すぐに警察に連絡を寄越したらしい。そしたらどこの馬の骨とも知れんじいさまが重たそうなボンベを持ってきて、その中身は液体窒素だったらしくて、そして爆弾は問題なく駆除されたらしい。


 八百屋の小僧はその旨を、なぜだか私に伝えに来た。まあなんだからという話で一応麦茶を振る舞ってやった次第である。


 小僧っ子は話した。


「時限装置ってのか? それってホント、漫画とかアニメみたくさ、数字がデジタル時計みたく進むんだよな? だったら俺、やべーじゃん、やべーじゃんって思ってさ」

「そう感じたなら、とっとと退散すれば良かっただろうが」

「そんな真似できるかよ。俺の店の近所なんだぜ?」


 小僧のくせに生意気を言う。一理あるのだが。


「それで、私に持ってきた話はいったい、なんだ?」

「それだけ言いに来たんだ。感動させてやろうと思ってよ」

「私はそう簡単に感動などしないぞ?」

「でも、いい話だろ?」

「じいさまと液体窒素、か……」


 小僧は腕を組み、うんうんと頷いてみせた。


「じいさまが来てくんなきゃ間に合わなかったらしい。爆発物処理班とやらだったら間に合わなかったらしいそうなんだ」

「どうして、そのじいさんは液体窒素なんぞを持っていたのかということになるわけだが?」

「どうする?」

「は?」

「俺、じいさんを招いて、お礼をしようと思ってるんだ、正月みたいな、宴会をよぉ」

「勝手にすればいい」

「鏡花にも出席してほしいんだよ」

「は?」

「花があったほうがいいだろ?」


 それはそうかもしれない。

 私自身が花になることも事実だろう。


 ――が。


「おまえもさっさと結婚してしまえばどうだ? そのほうが真の意味で華やかだ」

「鏡花、おまえ、それ、本気で言ってんのか? こちとらいつ死んでもおかしくない親父を抱えてるってのに」

「ああ、そうか、そうだったな。悪い。失礼をした」

「あ、ああ、いや、いいよ、言いすぎた。あんた以外に言われたら、死ぬほどキレてるだろうけど小僧は「ははっ」と笑った。「なんだかんだいっても、ささやかな宴会にしたいんだ。向こうも奥さんだけ連れてきてもらえるような。うーん、やっぱダメかな、こういうの。わざとらしいかな?」

「おまえはいい奴なんだ。そのへん、にじみ出ているわけだ。嫌とは言われんだろうさ」

「だったら」

「ああ。かまわんぞ」


 小僧はにっこりと笑った。これまで馬鹿だ阿保だなと罵ってきた相手だが、社会人のいろはは身につけたらしい。


「近所の居酒屋でいいかな? ホント、変に気ぃ遣わせるのもなんだし」

「だから、それが正しい判断だ」

「鏡花に正しいって言ってもらえると、嬉しいなぁ」

「私も楽しみにしているよ。時限装置がついているなかでの爆発物処理。興味が湧かないわけがない」

「カッコいいよな」小僧は感慨深そうに言った。「じいさんのくせに、メチャクチャ、カッコいいぜ。どんとかまえてたんだ。頼もしい背中ってやつだ」


 大きな男の背中に憧れるところが、小僧にはある。

 だったらそれを無下にはできないだろう――?


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