四十三ノ03
最近、以前にも増してカイトが元気いっぱいなのはわかってのだが、そこにある要因がコータに基づいているものだとは思いもしなかった――嘘だ。なんとなく見当はついていた。
今日も今日とて茶の間に迎え入れてやった。
趣向を変えて熱い緑茶を出してやる。
カイトは「うへぇ、おいしいなぁ」とかわいいことを言った。
私は「どこかに遊びにでも行ったのか?」と至極まともなことを訊いた。するとカイトは察したらしく、食い気味に「コータとボーリングに行ってきたんだ!」とやはり元気よく答えたのだった。
「コータ、メチャクチャへたくそなんだ。三桁も行かないんだぜ? 俺もギリ三桁なんだけど。俺とコータが一致したのはとにかくボールが悪いってことなんだだよ、へへへっ」
「楽しかったのか?」
「当然だろ? じゃなきゃ報告になんか来ないよ」
明らかだ。もはや明らかだ。カイトの奴はこれでもかってくらい、コータに惚れている。
「でな? でな? わざわざ迎えに来てくれるんだ」
「弁当屋までか?」
「そうなんだ。凄いだろ? また痴漢にでも遭ったらいけないからって、ホント、わざわざ来てくれるんだぜ? きゃあぁっ」
両手で顔を覆ったカイトである。まあいい。たぶん、この少女は感情をうまく言い表す術を持たないのだろう。だからこちらから質問することで、その答えを導き出させようと決めた。
「カイト」
「な、なんだよう。いきなり怖い顔するなよぅ」
「付き合ってしまえばいいだろう?」
「へっ? 俺とコータが、か?」
「そもそもおまえ、自分がコータと呼んでいる意味を理解しているか?」
「……はっ!」
私は「ふん」と鼻を鳴らした。
「コータの根っこまでは知らん。ただ、おもしろい小僧だとは思う。ちなみに、私がこんな評価をすることは珍しいぞ?」
「だからって、ひゃあぁ、うひゃあぁっ」
「好きなんだろう?」
そう言ってやると、カイトは顔を真っ赤にしながら、こくりと頷いた。
「まずは伝えることだ。成功しようが失敗しようが、伝えないのならメチャクチャ後悔することになるぞ」
「でもさ、ダメだったら……」
「だから、それは結果だ。前に進もうとしないとなにも解決しない」
ブルーのキャスケットを、カイトは取り払った。猫耳、出現。「うー、うー」と苦しげに発し、両手で頭を抱える。
「でも、嫌じゃん。ダメだって言われるの、怖いじゃん……」
「まあ、それはそうだが。ああ、そういえば、こんな話があったな」
「ど、どんな話だよ」
「高校を卒業したら、コータは楡矢に連れていってもらうらしい」
「それは聞いたよ。PMCっていうんだろ?」
私は嘆くつもりで首をふるふると横に振った。
「楡矢は大人だ。そしてあいつなりの義務、あるいは正義、美学があって戦っている。いくらコータが『行く』と言っても、私は行くつもりではないと考えている。楡矢とコータは別なんだ」
「PMCはダメだって言うのか?」
「そうだ。だからカイト、おまえがコータをつなぎとめる鎖になれ」
「そ、そんなこと言われても……」煮え切らないカイトである。「俺なんかじゃ無理だよぅ。だってコータって、メチャクチャ強くて、カッコいいんだもんよぉ……」
「おまえだっていい女だぞ?」
「ほ、ほんとうか?」
「何度も言わせるな。自信を持て」
カイトはしばらく考える素振りを見せたのち、割り切ったように「うん、わかった!」と快活に返事をしてみせた。
「おまえは魅力的だ。そこのところを誤解するな」
「魅力的だって、鏡花は俺のこと、やっぱりエッチだと思ってるんだろ?」
「それは違いない」
「あはははは。でも、ありがとう」
カイトがここまで晴れやかに笑ったところは、これまで見たことがなかった。やはりコータの存在は、カイトに良い影響を与えているようだ。