表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
四十三.カイトとコータ
136/158

四十三ノ01

 夕刻。入店してきた少年には見覚えがある。あれだ、えーっと、名前は……そう、コータ。長く艶々とした銀髪。緑色のブレザーに赤いネクタイ。――そう、コータだ。間違いない。その後ろについてきた人物は美少女――カイトである。青いキャスケットにノースリーブの白いブラウス、ショートパンツはサスペンダーで吊られている。サスペンダーの経路が巨乳で妨げられているのはもはや言わずもがな。


「きょ、鏡花、違うんだ、これは違うんだ!」


 カイトはいきなり声高に否定したのである。本当に高い声である。


 私は刹那考え、一つの答えに至り、そのとおりに話を進めようと思う。


「なんだ、カイト。また痴漢にでも遭ったか?」


 超がつくくらい驚いたように、カイトは目を白黒させた。


「えっ、えぇぇっ! なんでそんなのわかるんだっ?!」

「私の想像力は豊かなんだよ。そして正確性に富んでいる」

「そ、そうなのか」

「ああ。それもこれもおまえの身体つきがエロいことに起因する」

「エロいとかっ!」

「わかりやすく述べると、イヤラシイ」

「イヤラシイとかっ!」

「おまえには受動的な意味での痴漢癖がある」

「痴漢なんてされたくないぞ! ないんだぞ!」


 私はコータに向けて、「詳細を聞かせろ」と命令した。


「ふはははは、すべては神の戯言(たわごと)だ」


 まためんどくさいことを言いだすのだ、この小僧は。だったら、これまた面倒だが、カイトの口から聞かせてもらうしかないのである。


「カイト、どこで痴漢にあったんだ?」

「赤い電車のなかだよ。たまには鏡花の家に寄ろうって思ったんだ」

「おまえは電車のなかで痴漢に遭うのが得意であるようだ」

「そんな特技要らないんだけだけど!?」


 涼しげな顔立ちをしているコータの隣で照れまくっているカイトの様子が愛らしい。


「ふはははは、すべては神の戯言だ」


 まったく、それしか言えないのだろうか、このコータという少年は。


「ちゃんと話すよ。おしり触られてもなにも言えなかったんだ。怖くてさ」

「そこにコータが現れた?」

「う、うん、そうなんだ。すごい蹴りだったよ。向こうの車両にまで飛んでいきそうなすごい勢いだった」右手で「えへへ」と後頭部を掻いたカイトである。「ただの高校生だと思ったのに、驚いたなぁ、びっくりしたなぁ。それで、そのあとに言われたんだ。お茶に誘われたんだ。不愉快に思ったことだろうから、埋め合わせをさせてほしいって」

「コータに?」

「そ、そう。コータさんに。埋め合わせって、コータさんがすることもないのにさ」

「ふはははは、コータでいいぞ、カイト」

「い、いや。そうもいかないって。というより、埋め合わせをしてもらう理由なんてないし。するならこっちの話だし」


 ますます顔を赤らめるカイトである。

 コータはあるいはアホみたいな少年だが、あるいはこれは……。


「で、でな? おかしいんだ」カイトはクスクス笑う。「お茶を振る舞ってくれるって言って、行き着いた先がここなんだよ」

「喫茶店を開業したつもりはないんだが?」

「ふはははは、そう言うな、鏡花さん」

「一つ、試したい」

「なんなりと」


 私はすぐ隣にりんごを置いていたのだが。それをレジカウンター越しに投げて寄越した。「やれるか?」と訊ねた。次の刹那、コータはすでに右手でりんごを握り潰していた。大きく両手を上げて「どひゃっ」と驚いたカイト。


「造作もないことだ、鏡花さん、ふはははは」

「わかった、コータ。行っていいぞ」


 片づけくらいはしてやろうと思った

 りんごについては、ご愁傷様としか言えない。


 コータが身を翻し、去り行く。

 カイトの奴もついていった、急いたように、慌てたように。


 コータはなぜ私に会いに来た。

 私はガキにすら愛されているのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ