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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
四十ニ.ヘッドショット
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四十ニノ02

 その銃を見て、私は「ずいぶん長くて大きいな」とある意味感心した。「俺のアレに関するご感想ならメッチャ嬉しいんやけど」などとアホみたいなジョークをかますのが楡矢である。ごつごつしていて、見るからに扱いが難しそうだ。鉄格子のあいだから銃口を覗かせ、楡矢は目当ての学校を狙っている。


「楡矢」

「ちょい黙ってて、すぐ済むさかい」


 こと私に対してはひどく無礼に感じられる文言だが、とりあえず、従ってやった。


「うん、やっぱベスポジ。ここからなら狙える。問題は――」

「一人撃ったあとに、どうなるかということだろう?」

「ご名答」

「やはり、プロに任せたほうがいいんじゃないのか?」

「せやさかい、俺のほうが実戦経験は豊富なんやってば」

「そうであろうが私を招いている以上、そんな要素すら負担になるぞ」

「好きなヒトには常にそばにいてほしい、ってね」

「言ってろ」

「はーい」


 両肘を抱えた私である。「とっとと撃ってしまえ」とばっさり言い、「どうせおまえの狙撃と同時に校内に『SAT』とやらが踏み込む段取りなんだろう?」と続けた。


「勘がいいね」

「誰にでもわかる」

「どうしよっか?」

「とっとと撃て」

「了解」


 思っていたより大きな銃声で、びっくりした。私は渡されていた双眼鏡で現場を観察した。間違いなく、目出し帽の一人はヘッドショット、倒れた。これで終わりじゃない。もう一人の人物がやられてしまった仲間に近づこうとする――ところを、楡矢が撃った。これまた見事な狙撃。爆発は起きない。ならば、いったい誰が起爆スイッチを?


「常識的に考えると、俺が撃ったどっちかのニンゲンがスイッチ持ってたんは間違いあらへんよ」楡矢は狙撃銃をテナーサックスでも入っていそうな大きなケースにおさめた。「押す度胸はなかったんやろうな。子どもらのことを思ってのことなんか、自爆するだけの覚悟がなかったんか、そのへんはわからへんけど」


 私は双眼鏡で現場を見ている。やがてごてごてとした黒い服をまとった――「SAT」であろう集団がプロの動きで教室に侵入した。


「一件落着や。なにせ千鶴が人質なんやから、少々、肝冷やしたで」

「報酬は?」

「ん?」

「報酬は得られるのかと聞いた」

「いや、特には。俺がコネつこて割り込んだだけやさかいね」


 ケータイに着信。

 千鶴だった。


『うええええん、怖かったのですよぅ、鏡花さぁぁぁん』

「だいたいは把握している」

『えっ、そうなのですか? 不思議です不思議です、摩訶不思議なのです』

「冷静だな。ああ、おまえはもう冷静だ」

『危ないことについては鍛えられていますですからね、うふふふふ』

「やったのは楡矢だ。私はその様子を見ていただけだ、が」


 鉄格子のうえに両腕を乗せ、吹きすさぶ風を味わっているような楡矢。煙草の切っ先に火を灯すと、気持ち良さそうに煙を吐いた。


『狙撃ですよね?』

「千鶴、おまえは賢いし尊いな」

『楡矢さんが撃ったということで間違いないのですか』

「まさに、そういうことだ」

『こういうのって、特殊部隊の方々の仕事ではないのですか?』

「そのへんの込み入った話は、私にもよくわからん」


 千鶴がしくしく泣いているのが、電話越しに伝わってくる。なににも臆さない少女だと考えていたのだが、私は誤解しまくっていたようだ。怖いシチュエーションにおいては、きちんと怖がるということなのだろう。健全的だし健康的だと言える。そうであってこその女子高生だ。


 楡矢が「鏡花さん、行くで」と声をかけてきた。私は待てといい、「千鶴、腹はへっていないか?」と訊いた。


『それはですね、鏡花さん、私は育ち盛りなので、基本、いつだって腹ペコなのですよ』

「だったら、帰りしなに連絡を寄越せ。慰めだ。焼き鳥を食わせてやろう」

『わっ、ほんとうですか!?』

「好きなだけ食べるといい。楡矢の奢りだからな」

「えっ、鏡花さん、俺なん?!」

「まあ、そういうことだ。千鶴」

「わーいなのです。焼き鳥、大好きなのです!」


 双眼鏡越しに、教室において、ぴょんぴょん跳ねて万歳をしている千鶴が見えた。


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