四十一ノ01
二度目の女子会である。
場所はやはり、私の家。
私と千鶴は布団の上でうつ伏せで、同じくうつ伏せの態勢でいるカイトの藍色の猫耳を、ぎぎぎぎぎぎぎと引っぱっていた。
「痛い痛い痛いっ! おまえら、どうしてそんなひどいことをするんだっ!」
千鶴は「あはははははは」と笑うと、「ひっぱり甲斐があるからなのですよ」と素直なセリフを吐いた。まったくもってそのとおりなのである。
「放せ放せ放せぇぇっ! ホントに痛いんだぞぉぉっ!!」
「仕方ありませんね。放してさしあげます」
「なにを偉そうにぃぃっ!」
千鶴が手を放したところで、私も放した。枕に顔をうずめ、しくしく泣くカイトである。
「ひどいよぅ、ひどいよぅ。俺がなにしたっていうんだよぉぉ……」
「それはそうとです、カイト」
「うわぁ、やっぱりひどいよぅ。痛い目に遭った俺のことはもうほったらかしかよぅ」
「カイト」
「だから、なんだよぉ」
「私たち三人で、肝試しとしゃれ込みませんか?」
するとカイトは恐る恐るといった感じで、「肝試し……?」と顔を上げ。
オイルランタンのオレンジ色のライトがふわりと漂う中、千鶴はにっこりと笑った。「車でも電車でも少々時間はかかるのですけれど、某温泉街におもしろい旅館の跡があるのですよ。なんでも経営不振に陥り店をたたむしかなかったらしくって、要はそこの経営者夫婦の霊が出るとの噂なのです」
「ななっ、なんで夫婦の霊が出るんだ?」
「それはカイト、ご夫婦が身投げしてしまったからなのですよ」
「そ、そんなの噂だろ?」
「まあ、そのとおりではありますです」
「生きてるんだって、どこかで、きっと」
「ですが、幽霊騒ぎはほんとうなのですよ」
たまにはそういう無意味な趣向、しょうもない事柄に関わるのもおもしろかもしれないなと考え、私は「かまわんぞ」と答えた。煮えきらないのはカイトである。「えー、俺、やだよぅ、おばけとか、苦手なんだよぅ……」などと弱々しく訴えた。
「だったら、私と鏡花さんだけで行くのです。ついでに温泉に浸かって、おいしいものを食べてくるのです」
「え、ええぇっ、それはずるいぜ、千鶴。そういうことだったら、俺も連れていってくれよ」
「カイトはおばけが嫌いだと言ったではありませんか」
「わ、わかった、がんばる。おばけ、我慢する」
千鶴が「というわけなのですが、鏡花さん、いかがですか?」と問うてきた。
「おまえたちのスケジュールの都合がつくのであれば、早速、週末に行ってみよう。異議は?」
「ないのです」
「いいぜ。行こうぜ」
丸くなったものだな。
私はそんなふうに言った。
「なにがですか?」
「なにがだよ、鏡花」
「いや、ガキ二人の面倒を見るくらい、出来たニンゲンになったのかと思ってな」
「ニンゲン、日々成長だぜ?」
「カイトのくせに生意気を言うじゃないか」
「へへっ。それで、車で行くのか?」
「ああ。レンタカーを借りよう」
千鶴もカイトも歯を見せて笑った。
「ドキドキしますですね」
「俺もだ。あっ、やっべー。マジで楽しみになってきた」
私は「寝るぞ」と言い、ランタンの火を消した。