三十八ノ03
千鶴がくだんのバスケ部の長を連れてきたのである。茶の間に通してやったところ、正座している。「千鶴さん、これって余計なおせっかいです」と部長は言った。「まあまあ、そう言わずに、話し合いをしようではありませんか。同じ女性なのですし」と返した千鶴である。私はなにかあるなら相談に乗ってやろうと考えている。「ばかやろーっ!」と叫びながらボールをぶつけていた強気の姿勢はぜひとも評価させてもらいたい。
「私は間違っているのでしょうか?」
ちゃぶ台――目の前に出された麦茶も飲まず、バスケ部の少女はそうとだけ言った。
私は笑んだ。
「なにも間違っていない。おまえがボールを壁にぶつけていたことも、私は尊い行為だと思うよ」
「私は部の誰よりも勉強ができます」
「ん?」
「そのくせいろいろとやりたがるものだから、イタイ奴認定されています」
私はなるほどなと頷いた。
「だが、おまえはそんなことは気にせんでいい。経験則だ。がんばってみろ」
「がんばっています。だけど最近、つらくなってきました」
「ほぅ。それはどうしてだ?」
「私の行動に、意味はあるのでしょうか?」
「それは見ている者が決めることじゃない。自分自身が決めることだ」
「あなたが同じ立場なら、どう思われますか?」
「決まっている。私は自身を褒めてやる。最低限に、ではあるがな」
だったら誰か、助けてくれないかなぁ。
少女はぽっかりと穴が空いたような口調で、そんなふうに言った。
「どうしようもなくなれば、ウチを訪ねてこい。理解を示してやる。二度目だ。おまえは買うに値する」
「じゃあ、来ます」
「ああ、来い」
「私がいま、持っているのは、核爆弾のボタンなんだろうなって思うんです」
「それは使うな。たとえ敵対している相手とはいえ、押すな」
少女は「わかっています」と強い口調で言い、「がんばるんですから」と述べた。「私が正しくなかったら、誰が正しいんですか」ともっともなことを発した。
――その日、それは正しさを示した。
くだんのバスケの部長――少女は、地区大会の一回戦で、試合で何本もレイアップシュートを決めた。外からの一投の精度はお世辞にも高いものとは言えなかったが、がんばっている様子は前向きに捉えることができたし、微笑ましくもあった。
試合には負けたのだ。少女はみなを慰めた。そこに少女の器の大きさを見たものだ。
私は立って、盛大に拍手を送った。周りが引くくらいの拍手を送った。最初から最後まで、声をからしてまで声援を送っていた千鶴は涙していた。
むかしの私、その周囲も同じようなものだったなと思う。がんばっている奴ほど報われなかった。がんばっているのに、報われなかった。だからこそ、私は少女が報われてよかったと思うのだ。
今度、あらためて、家に招いてやろうと思う。
出してやるのは、やはり冷たい麦茶に過ぎないのだろうが。