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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
三十七.切り裂き魔
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三十七ノ02

 赤い電車のドア付近に、ブルーのキャスケットをかぶったカイトが立っている。今日は赤と黒のチェックのミニスカートである。上は白いノースリーブのブラウス。サスペンダーを迂回させる大きな乳房は相変わらず罪深い。


 新聞を読んでいるサラリーマン風の男も音楽を聴いていると思しき学生風の男も、みながみな、カイトをちらちらと見ている。その一方で私という美貌の持ち主も輝いていないわけではないのだが


 とはいえ、やはり注目の的はカイトである。スカートの裾を気にして、時折、頬を赤らめる感じがたまらないのだろう。私だってたまらない。男だったら後先を考えずに襲っているかもしれない。


 あくまでも、男性客らは遠巻きに見ているだけなのだ。アルバイトの行き来の時間、お供するようになってから、ずっとこの調子なのである。誰も手を下さない、下そうともしない。どこかでカイトを待ち伏せしている可能性が高いものと考えていたのだが、現状、その影は掴めていない。もう現れないのだろうか。偏執的な行いをする者は再犯の可能性が極めて高いと思うのだが、それは聞きかじった程度の知識でしかないということだろうか。


 ――と、そのときだった。


 大きなサングラスをかけ、グレーのパーカーのフードを目深にかぶった人物が、いきなり向こうから駆けてきた。右手にはバタフライナイフ。間違いなく犯人だ。舌打ちした。刺されるのはごめんだが、この場合、前に立ちはだかってやるしかない。やはり背伸びをせずに警察を巻き込んでやるべきだったか。こちらに背を向けていたカイトが振り返り、ぎょっとしたように目を開いた。自分に向かってくるのだ。びっくりもするだろう。やれやれ、犯人の服装くらい聞いておくべきだったなと思う。役に立ったかもしれないのだから。


 そんなことを考えていた矢先のこと――。


 なんとまあ、突っ込んでくるパーカー男に、いまのいままで新聞を読んでいたおっさんが横からタックルをかましたではないか。音楽を聴いていたはずのあんちゃんもそれに続いた。バタフライナイフが床に落ちた。すると、カイトがそばで「こいつだ。このヒトだ。服装が同じだし、間違いないよ」と言った。当たりらしい。


「嬢ちゃん、良かったな。俺が乗り合わせてて」うつ伏せに倒れたパーカー男に、しがみついたままのおっさんである。「前からいろいろあったんだ。こいつは怪しいって思ってたんだ」

「僕だってそうッスよ」あんちゃんはパーカー男の左腕を捻り上げている。「以前からあったんスよ、この手の事件。やっぱ、赤い電車は平和じゃないと」


 私は呆れた。

 向こう見ずさにもほどがある。


 電車のほどよい横揺れのなか私が近づくと、カイトはひとつ頷いた。


「嬢ちゃん、心配するな。次の駅で、こいつはオシマイだ」


 おっさんってば、意外とカッコいいことをのたまってくれた。

 すると、「ま、待ってくれよ」と訴えたカイトである。


「どっちにしろ警察に行くことになるんだと思う。でもそのまえに、どうしてこんなことするのか、聞かせてもらいたいんだ」

「だからな嬢ちゃん、こういうのは手癖の問題なんだよ」

「でもさ、おっちゃん、このヒト、いま、泣いてるぜ?」

「捕まっちまったことが、よほど悔しいんだろうさ」

「そうじゃないように見えるんだよ。頼むよ。話くらい、聞いてやろうぜ?」


 おっさんが、あんちゃんの拘束を解いた。途端、襲いかかってもおかしくなかったのだが、男は膝立ちになり、フードを取るとサングラスをはずしてそれを放り投げた。


 その場にいたみなが絶句するくらい、パーカー男の顔面はやけどの痕でぐちゃぐちゃだった。


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