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彼女は脳にティアマトを抱えている  作者: XI
三十ニ.メイドのカイト、魔女の私
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三十ニノ02

 駄菓子屋最後の週末であることを電話で伝えると、カイトは大げさに『うあーんっ!』と泣いた。『そんなことってあるかよぅ。おばあさん、まだまだ元気じゃんかよぅ』と訴えてくるが、「終わりは終わりだ。いつか来るものなんだよ」と告げると、しゃくり上げながらも『……わかった』と理解してくれた。


「というわけだから、ばあさんを手伝うぞ」

『それはかまわないけど、どうせ客なんて、そんなにたくさんは……』

「だからこそ、手を貸すんだ。これから言うことを半日でやれ。駄菓子屋のビラを作れ。デザイン性において目を引くものだ」

『えっ、そ、そんなの無理だよ』

「どうして無理なんだ?」

『だって半日だろ? いくらなんでも時間が……。鏡花が作ってくれよ』

「ウチにはプリンターがない」

『物を作ることはできるだろ?』

「ダメだ。面倒だ。おまえが作れ」


 電話越しにでも、カイトが気圧されたように顎を引く様子が窺えた。


「明日、ビラを配り終え、土日で勝負をかける。衣装はこちらで用意した。心配するな」

『い、衣装?』

「いいから、明日の昼に来い」

『でも、俺、バイトが――』

「寛子とは話をつけてある」

『えぇーっ!』

「とにかく来い。待っているぞ」

『う、うん。わかったよ』



 ――明くる日の夕方、街に出て私とカイトはビラ配りに従事している。私は大きな黒いとんがり帽子をかぶった魔女の恰好、カイトはメイド、彼女はスカートの丈の短さをしきりに気にしながらも、業務に励んでいる。カイトは「ポケットティッシュを付けたほうがいいんじゃないか?」と進言してきたが、当初の目論見どおり、だいじょうぶ。ビラの売れ行きは好調だ。一通り配り終えたところで、カイトが「うえぇ」と泣きついてきた。


「こんな恰好してるのを誰かに見られたら、俺はもう生きていけないよぅ」

「だったら私も生きていけないな」

「鏡花はいいじゃんか。俺なんて布の面積より肌の露出が多くて――」

「いい機会だ。たくさん見てもらえ。噂が噂を呼んで成人ビデオの勧誘なんかが来る可能性も――」

「嫌だぁぁっ! そんなの嫌だぁぁぁっ!!」

「働け」

「そうするよ……」


 しょんぼりしながら――それでもにこにこ笑ってビラを配るカイトである。


「俺、役に立てるかな。おばあさんの役に立てるかな?」


 奥ゆかしいからか、それとも単純に優しいからか、カイトははりきっている。ブルーのキャスケットをかぶったメイドは少しシュールだが、なにせ元がいいものだから、どんなファッションでも愛らしく映る。


 私のまえには、男どもの行列ができている。「写真撮影禁止」と書いたダンボールを脇に置いているのだが、まるで効果がない。カイトも下からのアングルで狙われ、短いスカートの裾を押さえながら、「うひゃぁ、うひゃぁっ!」と声を上げる。おもしろいイベントになったものだ。私は帽子を脱いで、夕暮れ空を仰いだのだった


 低い位置から声。


「魔女のおねえさんは、魔法が使えるの?」


 見下ろすと、幼稚園くらいの少女だった。


「ヒトを生贄にすると、新しい魔法が使えるんだ」

「生贄?」

「どぉれ、おまえを悪魔に捧げてやろう」


 帽子をかぶりなおした私は、「やだぁっ!」と言って逃げ回る少女を、両手を広げて追いかけた。


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