プロ野球選手との淡い恋⑦
看護師やワーカーたちは相変わらず光田の存在に静かに湧いていた。
彼女たちの化粧がいつもより念入りだったり、ポケットから顔を出すペンがオシャレになっていたり、そんなところにも熱意が溢れていた。
バックルームでは、光田の話ばかりだった。
「光田さんの筋肉見た?すごいのよ」
真山が目をキラキラさせてのぼせたように呟く。
「見たわ!ダビデ像みたい。うちの旦那とは大違いよ」
別のワーカーがうんざりしながらため息混じりに言った。
病院で一番の美人看護師である葉山は、楽しそうに笑った。
「プロの選手と比べたら、みんな可哀想よ。表情はクールなのに、挨拶とかハキハキしてて、ステキよね」
他愛のないおしゃべりを少し離れた席で、そよは本を読みながらBGMのように聞き流していた。
そよは、光田にクールな印象をもっていなかった。
笑顔で元気に挨拶してくれる人。
きっと、元気で美しい彼女たちには、クールに装っているのかもしれない。
自分の野暮ったさや垢抜けなさは、昔からよく知っている。
ましてや彼女たちは看護師など国家試験を持った人たちで、自分はただのお手伝い。
立場も仕事も待遇も、何もかも違う。
自分の代わりは沢山いる。
だから、とにかく迷惑をかけないように働くしかない。
そんなことを思いながら、そよは小さく首を振った。
また、自分の悪いクセだ。
自分で自分を低く見て、落ち込ませる悪いクセ。
そよは静かに目をつむり、頭の中のモヤモヤを無理やり消した。
それから目を開き、息を吐いて席を立つ。
この場所で落ち込みそうになった時、そよが自分のためにかける魔法だった。
そうすると、少しだけ雑念が和らいで前を向けるような気がした。




