プロ野球選手との淡い恋59
そよは高台にあるホテルの裏庭から、日本とは異なる夜景をぼんやり眺めた。
月は賑やかな夜景の光にぼやけて見える。
部屋でベッドに横たわり、静かに目を瞑ったが眠ることが出来なかったから、敷地内を散歩していた。
短期の出張と言われたのに、まだ帰る気配がない。
思わず国見室長に確認すると、来週の金曜日に帰国の途につく。
そのまま夕方にある役員会に出席すると言われた。
10日間は短期じゃない!
と、思わず口に出そうだったが、ぐっと堪えた。
高額と言われても、光田に連絡をとって伝えないといけない。
連絡をしないのは、悠也さんのことを思っていないからじゃない。
私も悠也さんに会いたいと伝えないと、勘違いして嫌われてしまうのは嫌だった。
貴重品の金庫の鍵は国見が保管していた。
ホテルに入るなり、貴重品の管理は秘書課の仕事で、特に海外では使わない物は金庫にしまい、鍵は国見が管理すると教えられた。
その際、そよは携帯や家の鍵、お財布の入ったポーチを預けさせられた。
昨日、思い切って国見に鍵を借りたいと言ったら、帰国の日まで開けないと宣言された。
さらに、あなたは海外の危険性を理解していない。と、お小言を言われ、お金が足らないなら支給しますよとさらりと告げられた。
フロントに行き、国際電話をかけたいことを伝えようとしたが、英語が不得意なそよにはハードルが高さすぎた。
身振り手振りで伝え、ようやくどうにかなりそうだったのに、光田の電話番号を覚えていないことに気がついた。
携帯電話に頼りきりの自分に悲しくなった。
海外が初めてのそよには、全てが新鮮だった。
子どものようにはしゃぐ稲村会長について、自分も知らない国を楽しんだ。
今まで食べたことのない料理を頂く。
「ここの飯は最高じゃ!」
海外慣れした稲村会長は、美味しい店をよく知り、国見室長はそつなく店を手配する。
「そよちゃん、どんどん食べなさい!食べんと後悔するぞ」
食べれば唸るほど美味しい。
けれど、しばらくすると光田を思って寂しくなった。
「早く会いたいな」
無意識に言葉が漏れた。
「ホームシックですか」
背後から聞こえた声に慌てて振り向くと、国見にイナムラ部長と呼ばれた男性が立っていた。
独り言を聞かれて恥ずかしくなり、頭を横に振った。
「いえ、そんなことありません」
イナムラ部長は穏やかに微笑み、そよの隣に立つなり言った。
「父がご迷惑をお掛けし、申し訳ありません」
そよは思わず息をのんだ。




