プロ野球選手との淡い恋35
「退院した後、復帰前に一度病院に行ったんだよ。そよさんに会えるかなと思って」
そよが驚いて顔をあげる。
「でも、いなくてビックリした」
「ごめんなさい。急に色々あって。病院がイヤになったわけじゃないんです」
光田は笑った。
「分かってる。稲村さんでしょ?」
そよは目を丸くして光田を見上げた。
「あの駅の近くって聞いて場所を見たら、イナケンのビルがあったから。あ、稲村さんの所でお仕事してるんだなって」
「ご存知なんですか?稲村さんのこと」
「俺もこの間知ったんだよ。びっくりした」
「私もです。稲村さんが退院された後、病院長のところへいらして、うちの会社で働かないかとお話し頂いて。何が何だかわからなかったのですが、私なんかを必要として頂いたことが嬉しくて」
そよは声をたてて笑った光田を不思議そうに眺めた。
「稲村さんは、ずっとそよさんのファンで応援していたんですよ。あなたの仕事ぶりをとても褒めてました」
「私はお茶や配膳とか、そんなことばかりで、注射も何にも出来ません」
「そよさんの笑顔のお陰で元気になると言ってました」
そよは恥ずかしそうに頬を赤く染めてうつむいた。
その姿に、光田は愛らしいなと思った。
海の風のせいだろうか。
夜空に光かる星のせいだろうか。
光田の口から、言葉があふれていた。
「僕もです」
「え?」
そよが顔を上げると光田と目があった。
「僕もそよさんに元気をもらいました」
「そう言って頂けたら嬉しいです」
「退院してからも、ずっと、そよさんに会いたかった」
光田はそう言って微笑んだ。
そよは嬉しくて、私も会いたかったと口元まで出かかった。
けれど幸せな心に、内田奈々の笑顔が脳裏をかすめた。




