プロ野球選手との淡い恋25
「それにしても、なんで一般病棟にいたんですか?稲村さんの方が俺より特別室にだんぜん相応しいのに」
光田は箸で柔らかい肉を摘みながら言った。
「初めはいたさ。でも、つまらん。そこで、周りの様子を見ながら退屈しのぎをしていたんじゃ。院長に無理やり頼んだのさ。それで、あの部屋に移ったんだよ」
「なじんでましたよ。全然ふつうの爺さんに見えました」
「何度も言ってるだろうが。爺さんじゃない」
「あ、稲村さんは普通の爺さんに見えました」
「それじゃ、言い直しになってないじゃろ」
「観察したいなら、大部屋がよかったんじゃないですか?」
「一緒の部屋にいた爺さまが、よくしゃべるんだよ。たぶん、考えてることがそのまま口にでる。おもしろくてな。あの部屋ご指名だったわけじゃ」
「へぇ。俺には稲村さんの方がインパクトありすぎて、もう一人の爺さんなんて覚えてないです」
「どこに目玉つけてんだ。これだから小僧はこまる」
二人のやり取りに慣れてきた峯岸は、美味いフレンチを食べながら言った。
「それでは、稲村さんは病院で光田と知り合い、今回のお声がけを頂いたというわけですね」
すると、稲村はピシャリと言い放った。
「違う」
思わず光田と峯岸がは顔を合わせた。
稲村はチラリと光田を見ると、金色のシャンパンをガバガバ飲んでプハリと息を吐いた。
「こやつとは、好みが同じだった。ライバルだが、あれに目をつけるとはなかなか見込みがある。それが理由だ」
勘のいい峯岸は、それが何かを察した。
「病院の看護師さん?」
光田は思わず黙り込んだが、稲村はニヤリと笑った。
話がそよの方へ寄って行った。
ものはついでだ。
光田はどうしても稲村に聞きたいことを切り出した。
「稲村さん。あの、メモのことなんですけど」
すると、稲村はまるで何のことか分からない顔をする。
「退院の時に渡したメモです」
稲村はまだすっとぼけた顔をしていたが、そろそろ光田を焦らすことに満足したらしく「あぁ、あれか」などと呟いた。
白々しいと思いながらも、光田は稲村の言葉に全神経を傾けた。
「渡したよ。なんだ、連絡ないのか」
稲村がニヤニヤ笑うものだから、光田は「ないです」
とやけくそ気味に答えた。
「さすが、そよちゃんだ」
初めて登場した名前に、峯岸は思わず顔をあげて二人のやりとりを面白そうに眺めている。
「なんで、さすがなんですか」
ジロリと自分を見た光田に、稲村はまるで世界一愚かな者をなだめるような、それそれは慈悲深い顔で言った。
「当たり前だろ。よそに女がいる奴なのに図々しい」
光田は思わず叫びそうになった。
「あれはガセネタです」
「わしに言われてもな」
そう言って、稲村は楽しそうに笑った。




