実父マルヴィル実母メフィルと私
自分の家の屋敷に着いた。ロイジャに先に降りてもらい降ろしてもらうと、晴れやかな気持ちで屋敷へと向かう。屋敷へと一歩進むたびに胸がワクワクしている。気にしないだけではなく、むしろ楽しみにしているのにはこういうわけがあった。
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馬車の中ロイジャと、ひとしきり笑った後、すぐにロイジャが口を開いた。
「ルミア様は実の父であるマルヴィル様をあまり信用しているようには見えませんが..。マルヴィル様はいい方ですよ。」
ロイジャは私を見つめながら話している。ロイジャは私が実父マルヴィルに信用を置いてないのが不思議ならしい。
だがしかし、私はまだ実父マルヴィルに会ったことが無い。知らない人間に信用などおけるはずがないのである。いっそのことルミアちゃんの記憶があれば良かったのに..。ルミアは、もはや現実逃避と呼ばれる行動へと出ていた。
その時思い当たる。もしや、ルミアちゃんは実父マルヴィルによく懐いていたのだろうかと。そうだとすればかなりまずいことだ。私がとっていた行動は全く反対である。ルミアは少し慌てたが、その不安はすぐにロイジャの言葉で打ち消された。
「そういえば、ルミア様は昔からマルヴィル様に懐きませんね。最近ここ一カ月ほど会えていませんが、ちっとも寂しそうにしておられませんし。一年前は会う度にキックを叩き込んでおられましたし。まあ、マルヴィル様には傷一つついておりませんでしたが。というかむしろもっと力を込めて、と嬉しそうにアドバイスしておられましたが。」
実父マルヴィル可哀そーーーーー!!!
思ったよりかわいそうな人だった。ルミアちゃんには世の中の女の子がほぼ必ずと言っていいほどかかるパパン大嫌い症候群がわずか四歳で発生していたらしい。これは私が知っている患者の中でも最年少だ。とはいえキックを叩き込むのは初耳だ。ルミアちゃんお転婆だったんだね。てか、アドバイスしてたの実父マルヴィル!
半目になる私にロイジャは続ける。
「そのせいで私たちはビクビクしていたのですよ。今でさえけられたら骨が折れる威力でしたから。だからけっても痛がらないマルヴィル様にイライラしたルミア様が壁にかけている木の板に向かって、ける練習をしていた時はひやひやしておりました。ある日、何日か練習したルミア様のけりが板へのクリティカルヒットを果たし木の板をバキバキにしたが、勢いが止まらず壁に大穴が空いた時は本当に驚いたのですよ。メイドや料理人、庭師など全員で壁に手をあわせたのを覚えています。普段から無表情、新人が失敗して頭から水をかぶっても眉一つ動かさないミモラさんが壁に向かって同情的な視線を向けるほどの有様だったのですから。涙もろいと言われている料理長なんかうおんうおん泣いていましたよ。あれは引きましたね。
そして翌日そのルミア様のキックをくらっていたマルヴィル様が平然とアドバイスしていたことにさらに衝撃を受けました。マルヴィル様は化け物だ、としばらく屋敷のうわさで流れていたんですよ。」
まじか。それは化け物だね。人間ではないわ。私みくびってたみたい。しかもルミアちゃんお転婆の範疇超えてる。ルミアちゃんも実父マルヴィルに似て化け物だね。大穴ってこの小さい足でどうやって開けたんだろ。ルミアちゃん、実父マルヴィル最強!
でも..。
「母は大丈夫。人外じゃない。」
母はまだ話に上がってない。母は人外じゃないはずだ。そんな私のささやかな願いは一瞬でついえた。
「ん?メフィル様ですか?そういえば詳しいお話はしたことありませんでしたね。メフィル様は元ホーリー家のご令嬢だけあって魔法が得意な方です。二つ名は“戦場の赤ウサギ” 最初は普通に魔法を放っていたのですが、めんどくさくなり途中から炎を纏って敵陣に突っ込み倒していったことからついたことから、そう呼ばれるようになったそうです。そこらの魔法とは違いメフィル様の炎は鉄も溶かすので本当に無敵なのですよ。
ちなみにメフィル様とマルヴィル様は戦場で出会ったと伺ったことがあります。マルヴィル様が一目惚れで初めてあげたプレゼントの花束はふざけないで、という言葉と共にメフィル様に燃やされたそうです。
また、前、夫婦喧嘩されていらしたときはメフィル様はマルヴィル様が徹夜で仕上げた書類を風魔法で風はるか遠くまで全て飛ばされてしまわれたらしく、マルヴィル様は土下座で許しを請いましたが、メフィル様はまだ怒っており、戻した書類をマルヴィル様の目の前で炎で焼き尽くしたそうです。魔法があまり得意ではないマルヴィル様は対抗できなかったので半泣きになりながら机に向かっておりました。」
母怖ええええええええ
母よ!あなたが一番人外ではないか。何たることだ。あの人外実父マルヴィルを半泣きにするなんて。やっぱどこの家庭も、母>父、という力関係で成り立っているんだな。そんなことを考えていると、ロイジャの咳払いが聞こえた。
「ということはともかく、マルヴィル様の話へと戻りますね。マルヴィル様はルミア様が思っていられるよりもいい実父だと思います。私の油断が原因でルミア様に怪我をされた時にもマルヴィル様は私の事を受け入れてくださいました。おまけに期待しているよ、と。その後私はルミア様に忠誠を誓いました。その時私は思ったんです。ルミア様愛されてるなあって。親のいない孤児である私にはまぶしかったです。ルミア様、ルミア様が悩んでいることは多分問題無しです。というかむしろ逆です。マルヴィル様もメフィル様もどんな結果でも喜ばれます。後、最後になって申し訳ありません。このロイジャ誠心誠意使えますのでこれからも使えさせてください。」
私は戸惑った。ロイジャが謝るべきはルミアちゃんである。私ではない。けど..。ルミアちゃんだったら絶対許す、なぜだかわからないけれど確信を持ってそう思った。そう思ったらやることは一つだ。今から少しだけ私はルミアちゃんになる。
「もちろん許します。これからもよろしくお願いしますね。」
ロイジャの話のルミアちゃんらしく私は天真爛漫に笑った。
「はい」
ロイジャは大きく笑った。私は普通スキルと魔力の結果を喜ぼう。帰るのが楽しみになってきた。
ロイジャは自分で言っていなかったけれど、多分今回は大丈夫でも、次また同じことが起こったら私がまたへこむと思ったのだろう。
「大丈夫だよ。ロイジャありがとう。」
ロイジャはグッと親指を立てた。
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こんなことがあったから私はわくわくしている。
「ただいま戻りました。」
私は大きな、屋敷の門をくぐった。
明日次話投稿します。また、読んでくださると嬉しいです。お願いします。