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リオン視点 規格外女の子

本日二話目です。

 私の名はリオン。カルニア帝国の神官として働いている。今日は水無月の一大イベント、スキル鑑定祭がある為、神殿はいつもよりそわそわしていた。

 神官たちが鑑定の為に駆り出されるからだ。まあそれだけが理由ではない。一般的にはあまり知られていないが、実はスラムに住んでいる子供はスキル鑑定の為にリンカには来ない。昔は来ていたらしいが、スラムの子供たちの犯罪件数があまりにも多いため逆に神官が出向く方向へと変化したそうだ。スラムは帝国内にいくつもありそれを回るのは一日では到底無理なので、かなりの準備が必要となってくる。その為、今丁度荷物まとめが終わって疲れ果てた私の前を荷物運びの少年達が忙しそうに行き来している。

 私はその中に、見覚えのある緑頭を見つけた。


「ガイ~!」


 ガイの幼さの残る顔がこっちを向いた。ガイはこの神殿のお荷物係であり、孤児だ。なかなか真面目で頑張り屋さんで、結構かわいがっている。かなりいい奴なのだが、いかんせん優しすぎだ。見かける時はいつも身の丈に合わない量の荷物を背負っている。きっと誰かに押し付けられたのだろう。私はガイの元へ走りよると荷物の半分を背負う。これはかなりの重さだ。これだけ押し付ければ押し付けた方はさぞかし楽な事だろう。くちびるの端が少し上がるのがわかる。少しイラッとしている私など目に入らないような必死な姿ででガイは周りをウロウロしていた。もしかしてガイに対して苛立っていると思ったのだろうか。と私が思っていると、ガイが口を開いた。


「リオン様に荷物を背負わすなんて..。自分で持てます。」


こういうところが私の気にいる原因なのだが別に私はそんなに自分が偉いとは思っていない。陛下とはそれなりに仲は良いが、本当にそれだけだ。この国はいつからのくだらない風習なのかはわからないが身分重視だ。だから、王と仲良くしている私が偉いということになるのはわかる。だが、正直言って他人の荷物まで持っている、ガイの方が偉いと思う。私はそんなことは絶対しないので。まあ、ガイの為なら別として。


「別に気にしないでいいよ?荷物持つの好きだし。」


ガイが遠慮しないように私はガイを手伝うときは好きだから、というようにしている。そうすることで聞き入れてくれやすいのだ。ただ、そのせいでガイの中の私の評価はだんだん変わった人になっている気がするがそんなことは気にしない。天然だ、変人だ、など言われ慣れた言葉だ。小さなころからの付き合いである。私のそんなことはともかく、これを聞いたガイはこくんとうなずくと、


「ありがとうございます。」


といい、だまってついてきた。きっと重かったのだろう。可哀想に。荷物を押し付けた人に再び苛立ちつつ、荷物を馬車に乗せると、私は馬車に乗り込んだ。沈黙が馬車内に降りる。ごとごとごと..。とてつもなく静かだ。馬車が進む音しか聞こえない。 

 だが、流石王の手配する馬車だ。お尻が痛くない。と感心しながら外の景色を見た。畑が見えるほのぼのとした感じの雰囲気である。この時同じくほのぼのと馬車の外を眺めるリオンは全く知らなかった。こんな雰囲気をぶち壊すほどとてつもないことが起こることを。


 暫くすると、私は中央広場へ辿り着いた。他の馬車からも次々と神官が降りてくる。既に広場には何人かの人が集まっていた。 

 そこから時間が経つと、かなりの人数が集まる。ある神官が魔術具を使い、人数確認をして報告へと走っていった。その後少しすると、王が入場されますという言葉が聞こえた。そろそろ始まるらしい。ぱっと顔を上げる。王の話は去年と同じく、スキルについてだった。やはり、といえばいいのだろうか。王に男の子たちが見惚れていた。私も最初は驚いたものだ。もちろん、今でこそ慣れたが。

 王のお話が終わり、私たち神官が配置についたところで、宰相アメリオの言葉が開始を宣言する。私の列の一番初めは紺色の髪の毛の男の子だった。手をかざして鑑定する。この鑑定魔法は厳密には特殊スキルでも普通スキルでもない、神官となる儀式をすることで神から得られる魔法だ。これを得ることで神官として認められる。つまり使えない神官はいない。光が治って、鑑定が終わる。わたしは目を開けてスキルを伝えて送り出した。

 次の人がでてきた。彼女に手をかざす。目の前には沢山の情報、それを絞って必要な情報をあぶりだす。どうやらこの子は王族なようだ。道理で見たことある気がしたわけだ。王への謁見ででも見たのだろう。

 この最初の二人かなりスキルや魔力が良かった。ただ、それからは、魔力もB、C、D、が続く。スキルも見たことのあるものばかりが続いた。刺激がないとすぐ飽きてしまう性格のリオンだ。昨日の荷物まとめの疲れもあったからなのか少し眠くなり始めた。その時だった。この時間を羨ましく思うほどのトラブルが起きたのは。

 それは私が二十三人目を鑑定し終えて、二十四人目を鑑定しようとしようとした時に起こった。  

 二十四人目の女の子は他の子供とは違う雰囲気を纏っていた。今まで会った誰とも違う雰囲気だ。体は小さいのに魂?が大人のようなそういう感覚を感じる。見た目と雰囲気がちぎはぐだ。私はそんな不思議な女の子へと手をかざした。鑑定して映し出されたのは魔力S、普通スキル土、風、水というとてつもなく凄い結果だった。これだけでも研究者が小躍りする内容だ。ただ...。それだけではない。この特殊スキルは..。リオンは血の気が引きそうになるのを感じた。落ち着け、落ち着け…。一度だけ聞いたことのあるこの女の子のスキルは昔世界を一度滅ぼしたと言われる、魔術師、リリカ・アーベルツと同じスキルなのだ。今の所、特に彼女に悪意は見当たらない。むしろ三大貴族家なこともあり、信用もおける立ち位置だ。しかし、彼女はまだ子供。なにをするかが分からない。例え大人びていても。そのため、伝えることにはかなりの抵抗がある。もし悪用されたらたまったものではない。とはいえこれは王への相談案件だ。リオンは心の中でそう結論付けた。彼女には悪いが特殊スキルは無いように話そう。幸い、特殊スキルはそのスキルを使いたい、と思わないと使えないのだ。

 そのように彼女には話してみたものの、大事なところで噛んでしまった。疑われていないだろうか。彼女を少し見る。彼女はじっとこっちを見て、そして下を向き、なにやら考え始めた。小さいとはいえ、賢さで名高いヴィズダム家のご令嬢だ。本当に感づかれたのではないだろうかと、背中に冷たい汗が流れる。


「どうかされましたか。」


不安になり、私は聞くが、返ってきたのは


「いえ、特殊スキルがなかったことに少し落ち込んでいただけです。心配してくれてありがとうございます。」


という言葉だった。普通に落ち込んでいただけらしい。

 そんな彼女を慰めて送り出す。

 私に少し感動するような目の彼女を見てかなりの罪悪感が湧いてきた。本当にすまない。帝国の運命がかかっているからな。許してくれ。その後は特に大したこともなく全員を鑑定し終えた。良かった、良かった。まあ、良くないが。

 昨年までならば、私も他の神官たちとスラムへそのまま行く。ただ、今年は規格外の女の子のせいで予定は変わった。変わってしまった。私はスラムへとそのまま行く部下へあとで行くと言い残して、驚く部下の声と嘆く部下の声を背に神殿へ向かった。だが、嘆きたいのは私だ。本当に泣きそうである。いい大人なので我慢するが。ただ泣いて解放されるというのなら恥など捨てて泣き叫ぶ自信がある。

 帰るとすぐさま、私は王への手紙を書く。城に着き、机に向かい執務に励んでいるであろう王の悲痛な叫び声が聞こえた気がした。

 読んでくださりありがとうございます。

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