結果
本日は二話投稿です。
神官の手元が黄色に光る。そして彼が口を開いた。
「普通スキルは土、水、風、特殊スキルはなしで、魔力はS。魔力と普通スキルは凄いですね~。特殊スキルはな、い、ですがここまで他が高いと特に浮いたりはしないと思いますよ~。頑張ってくださいね~。」
ポカーンとなる。口も顎が外れるほどに開いている。え?まさかの事態だった。うそでしょ?!特殊スキルないの?じっーーーーーーと神官の顔を見つめる私。彼のほのぼのとした顔は何一つ変わらない。うそではないようだ。
これはかなりのショックだ。自分は別に、中二の病になったほどワクワクしていたわけではない。けれどスキルというものにある程度の憧れは日本人として、抱いていたのだ。
中でもとくに気になっていたのは特殊スキルだ。前世で読んでいた異世界系小説の中では、よく分からないスキルを得た主人公が色んな方法を見つけ、バカにされたところから成りあがっていく話が好きだった。
私は別にいじめられたいわけではない。それでも、新しいスキルの使い方を見つける、パズル的感覚が好きだった。なのに..。ルミアはガクッとうなだれた。魔力があってもこれじゃあ...。うつむくと神官が少し慌て始めた。泣いていると思われたのかもしれない。中身はともかく、見た目は幼女だし。
「どうかされました?」
心配させても悪いし、正直に言う。まずまず神官は悪くないし..。
「いえ、特殊スキルがないことに少し落ち込んだだけです。心配してくれてありがとうございます。」
ペコリと頭を下げる。何事にも感謝の気持ちが大切だ。
「そうなんですか。でもこのスキルと魔力は本当にすごいですよ~。」
神官は慰めてくれた。少し天然で変わった人でも本当にいい人なのだろう。第一優しくないと神官にはなら無さそうだけど。なおもチーンとしている私を神官は優しい顔で見送ってくれた。そんな変でも優しい神官の態度が身に沁みる。本当にありがとうございます。
帰り道を歩きながら私はまだ、特殊スキルについて考えていた。
よく考えると、だ。もしかしなくても、自分は次期領主を下ろされるんじゃないだろうか。この世界は基本実力主義だ。そんな世界で特殊スキルなしがのこのこ生きていけるはずはないと思う。
さらに、このヴィズダム家は三大貴族だ。生半可なものが領主ならば、権威を落とすことになりかねない。そして、次期領主を下ろされると、家族やロイジャ、アンノ、ミモラに邪険に扱われるんじゃないだろうか。おそらく、来た当初よりはまだまだ知らない事が多いこの世界で追放までされたら生きていく事すら出来ないだろう。 終わりだ。絶望だ。
そのように、考えれば考えるほど心は重くなっていく。本の主人公はスキルの違う使い方を見つけて強くなっていったのだ。それを自分に当てはめることは出来ない。王は勉強次第だといっていたが、なんとなく、それで賢かったら苛められる気がする。私は受け入れてもらえるのだろうか。せめて追放は勘弁を。ずーんとした心を抱えながら、私は森に入り馬車をさがす。見つけた馬車は朝よりキラキラとしていて、手の届かないところにあるようだった。
ロイジャが私を見つけ、馬車から降りてくる。そのまま私の手をとって馬車まで連れていってくれる。いつも通りのロイジャに、私は何もできないです!そう声にだして叫びたい。
ロイジャに支えてもらい、馬車に乗り込むと何の気なしにロイジャが
「ルミア様、スキルはどうでした。」
と聞いてきた。
予測できていたことなのに、心臓が凍りついたように動かない。馬車に少しの沈黙が降りた。小鳥のさえずりがやけに大きく聞こえる。だが、いつかは話さないといけない事だ。あとでばれた方がこまる。手を固く握って口を開く。
「あの..。私、実は、」
そう言いかけたところで、ロイジャがああ、そうでした、といった。なにを言うのだろう。今だけはロイジャの一言が怖い。その思いに反してロイジャが話したのは、
「恐れ入ります、ルミア様。大事なことを失念しておりました。特殊スキルは基本的に他人には内緒のものですので。奥の手なのですから。」
ということだった。身構えていた私は正直拍子抜けする。そんな私が見えているのかいないのか、さらに、ロイジャは続けた。
「ですが、ルミア様がそのことで悩まれるのでしたら、別に相談されてもかまいません。ただ、特殊スキルを知られることは弱点を知られることと同様です。それでも相談されるのでしたら私は止めません。というか止めれません。勿論、私にご相談下さっても構いません。ルミア様に私は忠誠を誓っております。絶対他言はいたしません。この命かけてでも。というか他言すればマルヴィル様に物理的に殺されますのでご安心を。その時は私のスキルについてもお話いたしましょうか。」
急な展開に頭がついていけてない。
物理的に、、、超怖い。
ただ、あの逞しい腕の持ち主ならばザ・執事のロイジャは全くかなわないだろう。ただ、それならば、マルヴィルに話す方が早いのでは...。とそんなことしか考えられない。
「あの、ロイジャ。それなら父様に話す方が早いのでは..。」
私の一言にロイジャは、はっとした顔をする。
「確かにそうですね。ルミア様のお役に立ちたかったのですが..。」
ロイジャはちょっとしょんぼりした顔になった。その気持ちは嬉しいので、フォローする。まだ頭は、ぼっーーとしていた。
「ですが、その時はロイジャにも相談させてくださいね。」
「はいっ!もちろんです!」
ロイジャの声が馬車内に響く。ロイジャの元気そうな声でなんだか現実に戻った感じがする。我に返って恥ずかしそうにするロイジャに思わず笑みがこぼれた。執事の大きな声ってあまりないしね。もう、なんでもいい。なんでもよくなってきた。きっと大丈夫。そう思えた。ロイジャも笑う。いつの間にか心の重いものは消えてなくなっていた。馬車の中には明るい笑い声が響いていた。
読んで下さりありがとうございます。