吸血鬼
私がこの世界に来て一カ月が経った。時間感覚が同じのこの世界(少し違うとすれば、一カ月はどの月も30日ということぐらいだろう。)でだ。
流石に一カ月もすれば、この世界の生活にも段々と慣れてきた。
勿論、ミモラにはまだまだ疑われているけれど。それでもアンノとは少しずつ仲良くなれた気がする。因みに、あの執事はロイジャというらしい。アンノとの会話の中で気付いた。
また、父はマルヴィル、母はメフィルというらしい。さらに、この世界の月は睦月、如月、弥生…という風になっているそうだ。(アンノ情報:アンノに上目遣いで聞いたところ、何も言われずにすんなりと知ることができた。)
正直、なぜ和風月名なんだと思ったが何を言っても無駄だ。
それで、その月だがイベントがある月も多いらしい。今月、水無月は今年六歳になる国民の子供達のスキルを知る、一大イベントだそうだ。先月、皐月は珍しくイベントが無い月だった。来た?ばっかりだから凄く助かった。
このスキルを知るイベントは毎年、この国中心の都市リンカの中央広場にて国王の監視の下、行われている。
貴族は個人馬車などで赴き、平民は幌馬車でかたまって行くそうだ。
身分差があるのに同じところに集まる理由としては、教会の負担を少しでも少なくするため、というのが主な理由らしい。しかしそれだと、身分を振りかざして、良いスキルを得た平民を苛めるバカ貴族が出てくるらしい。本当に馬鹿だ。
その為、このスキル調査は、フード付きポンチョのようなものを着てくる義務があり、素材での身分ばれもないように国王から配られるそうだ。余談だが、イベントが終わっても服として使えるため、貧民には人気があるらしい。
ということで、イベントを明日に迎えた私に配られたのが今来ているこの服だ。
暗い紺色のフード付きポンチョと手袋、そして布靴、とマジシャンのするような仮面…。
いや、なにしに行くんですか⁉
五・六歳の子供とはいえ、これを着ている人が何百人もいると思うとゾッとする。
なお、この日のルミアはあの服を着た、子供の吸血鬼が一斉に襲い掛かって来るという、かなりホラーな夢を見ていましたとさ。
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うなされて、飛び起き、朝を迎えた私にアンノが例の吸血鬼服を抵抗する間もなく着せていく。流石メイドだ。そのままボーっとしながら馬車に乗ると、いつの間にか馬車の揺れに身をゆだねて、夢の世界へと旅立って行った。
「ルミア様」「ルミア様」
ロイジャの声で、はっと我に返る。馬車は止まっていた。外には木が茂っている。
ここから先は、歩いていくそうだ。近くに馬車はとまっていない。馬車に身分が関係あるからだ。従者はなし、ロイジャは馬車でお留守番だ。道は確認済み。ところどころ王族関係者もいるので大丈夫だろう。
それに、命を狙われることもある貴族などは陰密ならばつけてもいいそうだ。もちろんのことわたしにもいる(らしい)。
そして、しばらく歩いた私(達)は国の中心の都市、リンカの外壁に到着した。
リンカは思った以上に、すごいところだった。お洒落なレンガでできた、外壁の前に鎧を着た衛兵が立っている。
受付の衛兵へ来た目的と名前を署名し、入れてもらうのだ。特に問題もなく通過し、(あると即逮捕)そこで見た光景はあの夢の中で見た大量の子供吸血鬼!
……なんかではなく、色とりどりのポンチョを着て仮面をつけた子供たちだった。
黄色、緑、ピンク、水色…。仮面も可愛いものが多い。あっ、あのうさ耳ついてるの可愛い!あっちには猫耳も!!和む…!じゃない!
え?まて。私は紺色のポンチョに、マジシャンのつけるような仮面だぞ。差別ではないのか?
なんだか地味に釈然としないわけでもないが、ひとまず吸血鬼パニックでなくて安心した。
などと思い歩いていると、いい匂いがしてきた。どうやら屋台から流れて来たようだ。
イベントはよくあるものの、わざわざリンカに行く必要のないイベントもあるため、稼ぎ時だと考えているのだろう。いい匂いに加え、時々威勢のいい声も混じる。なんとなく日本に戻った感じがして、声に釣られて、屋台でたこせんのようなものを買い食べる。
周りを見ると、結構沢山の人が買って食べていた。
貴族にとっては、普段食べないもので珍しく、平民も安い屋台の食べ物に目がいくのだろう。
食べ終わり、また歩いて中央広場まで到着した。中央広場は教会のものらしき人が二十人ほどおり、後は子供たちが六十人ぐらいその辺に散らばっていた。とはいえ準備を邪魔するものはいない。
約20分ぐらいたつと、かなりの人数が集まった。だいたい2000人ぐらいだ。どうやら全員揃ったらしい。
どうやって把握したのかは謎だが…。どうしたのかと考えていたが「王が入場されます。」という言葉に顔を上げる。
急に顔を上げたため、仮面がずり落ちそうになった。仮面をなおして見た王は、
え?女の人?少し意外だった。
想像していたのは、サンタのようなおじいさんだったのだが…。
もう一度よく見た王は、もの凄い美人な25歳ぐらいの女性だった。この世界は男尊女卑とまではいかないが、平等というわけでもない。
なのに、こんな若い女性で王になったということは、それ相応の実力があるのか、または王家にそうせざるを得ない理由があるのか。
これは、首をつっこむべきではないな。前者ならばなんの問題もないが後者ならば…。
知ったところで得もないし、後者ならば情報を握ったところで王家の手のものに暗殺されて終わりだろう。なんとなくだが。
そして、王が口を開く。
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