ゲーム 【月夜譚No.72】
ゲームだからといって手は抜けない。周囲にはただのくだらない遊びに見えるかもしれないが、参加する自分達にとっては、これからを左右する大きなことだからだ。
向かい合って座った相手の顔を窺い見る。まだ目元に幼さが残る高校生だ。着崩した制服の上からパーカーを羽織り、長く伸ばした髪は明るい茶色に染められている。にこりともしない少年は、ただ黙ってテーブルの一点を見つめていた。
ふと自分の膝上に目を移すと、知らない内にきつく拳を握り締めていた。上手く動かない指を一本一本引き剥がすように掌を広げると、ぐっしょりと汗で濡れていた。自分で思っていた以上に緊張しているらしい。ズボンに掌を擦り付け、意識してゆっくりと呼吸を繰り返す。
幾分か気持ちが落ち着いてきた頃、部屋に長身の男が入ってきた。派手な道化師の化粧をした彼の表情は読み取れない。男は悠然とテーブルに歩み寄ると、何の挨拶もなくいきなり手にしていたカードを二人の前に配り始めた。
間もなくゲームがスタートする。ぶり返しそうな緊張感を喉元に抑え込みながら、その時を待った。




