邂逅
毎年初詣に出かけている。
元旦は地元の氏神様へ。
三日に県内で有名な神社へ。
七日に全国で有名な神社へ。
あれはいつの初詣だったか。
もう記憶が定かではないくらい昔のことなのだけれども。
氏神様ではない、大きな神社で、出会った忘れえぬ人。
言葉を交わしたわけでもない、ただすれ違っただけの青年…中年だったのかもしれない、いまいち年齢層の分からない人物。
一瞬目が合ったのだ。
一瞬、それだけで。
ああ、そうなんだねという、謎の安心感…確認感?
声をかけるべきか、かけざるべきか。
一瞬悩んで、結局声をかけずに終わった。
多分、おそらく、同じなんだ。
私と同じタイプの人。
ただ漠然と、すれ違っただけなのに。
そういう不思議な確信を持った、あの日。
「…あれはいったい、なんだったんだと思う?そういう人、ここに来たことある?」
ベンチでお団子を食べながら、ぼそりとつぶやく。
「さあ、見たことないな、…神様だったとか?」
私のとなりの女子が、団子を食べながら空を見上げてつぶやいた。
「いや、でも…透けてなかったし、フェルトっぽいコート?にホコリひとつついてなくて、きっちり角刈りで…。」
私のひざの上の猫が、目を閉じたままつぶやく。
「気のせいなんじゃないの。ただ目が合ったそこらへんの普通の兄ちゃんでさ。」
…確かになんか通じるものがあったんだけどな。
「でも…もう何年も経つのに、顔をしっかり覚えてて…演歌歌手っぽい顔でニコって笑って…。」
「わしらは知らんが、あんたに縁があった人なのかもしれない、それでいいんじゃないかね。」
いつのまにやら目の前に角の生えてるおじいちゃんがいるじゃん…。
「あ、お団子食べます?みたらしですけど。」
「わしは歯がないでな、気持ちだけもらっとくよ。」
私は立ち上がっておじいちゃんにベンチを譲る。猫は申し訳ないが私のひざから降りてもらってと。
「ありがとな。」
猫はちゃっかりおじいちゃんのひざの上に乗り換えた。
「いや…もし私と同じような感じの人だったら、こう、悩み相談みたいなことできるかなってたまに思うって言うかね。」
「え、何、なんか悩んでるの。」
女子が口の周りをみたらしだらけにしてニコニコと…!!私はコンビニでもらったお絞りを取り出して、口の周りを拭いて差し上げる。
「いきなりこういう空間に来ちゃうとかさ、普通の人ってしないじゃん!!」
「あんた自分が普通の人だと思ってたんかい。」
猫はいつでも辛らつだな。失礼なやっちゃ!!
「いや!!だからこそ、ほかにもそういうひとがいたらさ、語り合いたいというか。」
「そういう人が来たら教えてあげるで。それまで楽しみに待っておったらいいんじゃないかね。」
うん、そうだね、そうなんだけどね、なんていうか、不思議な空間に来て不思議な友好を結んでて、謎だけどそれなりに納得してる日々においてね、不可思議な事例をほっておくのがちょっと気になったっていうかね?
…そっか、気になることなんてのは山のようにあるわけで、あの兄ちゃんに拘らなくてもいいのか。
…そもそも問題としては。
「ああ、何で私こういう所に迷い込むようになっちゃったんだろう…。」
「え、何…ここに来るの、嫌なの…。」
女子!!女子が悲しそうな顔を!!
「違う違う!!いやじゃない、色々助けてもらってるし、むしろありがたい!でもね、なんていうか、たまにこう、どっと疲れるときがあるというかね?」
「よかった!あたし人間のおやつおいしいから大好きなんだ~♪いつもありがと!!」
女子!!女子がいい笑顔に!!よかった。とがった歯がいつも以上にきらきら輝いてるよ!!思わず頭ぽんぽん案件だ、…ぽんぽん。
「縁があればいずれ出会うこともあるで。まあ…ここにきて食われてしまってたら出会えんけどなあ。」
そっか、食われてる可能性もあるか…。
「私はここに縁があったんだねえ。」
「縁があって、それを受け入れたからあんたはここにいるんじゃないか。」
むしろ私が受け入れてもらってたと思ってたんだけどな。
「ご縁は大切にしたいなあ。…これからもよろしく。」
「あたしね、今度はたこ焼き食べたいな!!」
「たまには鯛の尾頭付き持ってきてよ。」
「わしはいくらが食ってみたいのう。」
「ちょ…!!!あんたらね、私の懐具合知ってるんでしょ?!ムリムリ!!」
今月は外食代がかさんでですね!!!いや食費も!!うん、いつものことだった!!
「福の神に頼めばいいじゃん、呼ぼうか!!おーい・・・」
「ちょっとだめだめ!!そんなん呼んだら大変なことになる!!」
私はおかしなことになる前にとっととここを去ろうと…。
「なんか呼んだー?!」
「ぎゃああああ!!!」
あわててその場を逃げ出した私は、ちょっとだけ道を間違えてしまって。
今日という一日を、また朝からやり直す羽目になってしまった。
「くそう…たこ焼きとみたらしと鯛の尾頭付きにいくら…買ってったるわ!!!」
私の散財癖は、とどまる所を知らないのであった。