第三章 メルキド侵攻 第十話
「突撃部隊は城壁に張り付いたようだな。これ以上は味方に当たる。投石中止!」
望遠鏡から突撃部隊が城壁に到達したことを確認した第八軍団参謀長ギュンター・フォン・ブラウンは投石中止を命令した。不用意に攻撃をしかければ、同士討ちになる危険があったためである。
「扉をぶち破るぞ! 破城槌用意!」
ヒッパーは扉の陰に隠れ、前線で指揮をとり続けた。騎兵大隊長ら、最前線指揮官達はヒッパーに後方へ戻るよう進言したが、彼は頑として聞き入れなかった。前線の新兵をまとめあげるには、自分の存在が不可欠だと知っていたからである。ヒッパーは命令を出し終えると、槍を掲げて、恐怖と戦い続ける新兵達を勇気づけた。
一方、扉の内側でもワイバニア軍への攻撃準備が整えられていた。扉の外側で、大きな音が聞こえる度、メルキドの守備兵達は生つばを飲み込んだ。
「さぁ、ワイバニアが押し掛けてくるぞ! 防戦用意!」
クーラーは扉の守備兵に攻撃待機を命じた。石兵、そして兵士のボウガンのねらいが扉に向けて定められた。
扉の外側、重装歩兵の盾に守られて、ヒッパーは指示を出し続けていた。そして、全ての攻撃準備が整ったとの報告を受けるや、すぐさま、攻撃開始を命令した。
「そうれ! ぶちこわせ!」
破城槌を指揮する歩兵中隊長が兵士に号令した。長く太い丸太の先端に巨大な鉄の穂先が取り付けられた破城槌が巨大な要塞の門扉に突き立てられた。
「俺たちもやるぞ! さぁ、城壁をひっぺがせ!」
別の場所で、城壁に破城鉤がかけられた。投石攻撃によって、ぼろぼろに崩れた城壁がさらに崩れ始めた。
「ワイバニア兵が来るぞ! 防戦しろ! 石を落とすんだ!」
「はしごをかけろ! 要塞内に攻め込むぞ!」
要塞の内外で、それぞれの兵士の怒号が響き渡った。戦闘開始から六時間、カルデーニオ要塞防御戦はいよいよ大詰めを迎えていた。