第三章 メルキド侵攻 第八話
命令は下したものの、ヒッパーの予想以上にメルキドの防御は固かった。メルキド側の防御指揮官のボストン・クーラーは石兵を城壁の破損箇所に配置して城壁として使用しただけでなく、石兵の持つ大型ボウガンを用いて、砲台としても活用した。メルキドの中長距離支援用石兵「ヘラクレス」が持つ大型ボウガンは投石機に迫るほどのアルマダ最長の射程を誇り、長大な射程から繰り出される矢の一撃も通常のボウガンと桁外れの威力を有していた。
「ようし、次は門扉の守りを固めるんだ。弓兵隊とヘラクレスを前に出せ。扉が打ち破られたら一斉に仕留めろ!」
クーラーは城壁を守る部隊が時間を稼いでいるうちに門の防御に取りかかった。要塞でもっとも守りが堅い門は落石と投石にさらされながらも未だ健在だった。クーラーは自分の愛機である近接格闘石兵「オリオン」を後衛として配置し、ワイバニア攻撃の時を待っていた。
「さぁ、来い。メルキド武人の真髄。とくと見せてやる」
赤銅色に輝く愛機の腹の中でクーラーは気迫を込めて言った。
一方、城壁側の間断ない矢の雨に耐えながら、第八軍団はじわりじわりと歩を進めていた。
だが、これはヒッパーにしてみれば「亀のようにのろい」と評価する程度の動きだった。矢の攻撃が止み始めていたためである。矢は無限にあるわけではない。特に城内がめちゃくちゃな今は補給は至難の業だろう。矢の攻撃が止み始めた今こそが攻勢の好機だった。
しかし、初陣の兵士にとっては、生まれて初めて敵意と殺意にさらされた瞬間であり、新兵の多くが実戦に戸惑い、恐れおののいていた。
望遠鏡越しにそれを見たヒッパーはすぐさま愛用の槍を持ち、幕僚達の制止を振り切ると陣地を飛び出した。さらにヒッパーは予備兵力として後方に待機させておいた一個騎兵大隊を呼び出すと、自分も愛馬を駆って戦場へと走り出した。