第三章 メルキド侵攻 第六話
「投石機です!」
城壁の陰から、外の様子をのぞいていた兵士が叫んだ。彼の報告から数秒後、兵士の頭上を巨岩が通り越した。
要塞の守備兵は自分たちを地獄へと誘うこの風切り音を永劫忘れないだろう。風切り音が響くたび、要塞が崩れる音と、仲間の苦痛に満ちた声を聞くことになったのだから。
「応戦しろ! 矢を放て!」
崩れた城壁の隙間から、守備兵達は矢を放った。全体の指揮を伴わないその射撃は散発的で、統率のとれたワイバニア軍の前では何の意味を持たなかった。
「あははは! ばっかじゃないの? あいつら! 投石機はあの馬鹿達を片付けなさい!」
ザビーネは守備兵達の必死の抵抗をあざけり笑った。
「ちくしょう! ちくしょう!」
たった一人が撃っていても、ワイバニアはまるでこたえやしない。無駄と知りながら、守備兵の一人、バトラーは矢を撃ち続けていた。しかし、彼の眼前が一瞬で真っ黒に染まった。彼はそれを大きな岩だと気づくことはなかった。投石機から勢いよく放たれた巨岩は一瞬にして彼の命を奪い去った。
「バトラー!」
彼の隣にいた兵士が叫んだ。しかし、敵は彼に隣で戦っていた仲間を悼む間を与えてはくれなかった。彼もまた、バトラーと同じ運命をたどった。巨岩が彼の背を守り続けていた城壁ごと彼を吹き飛ばしたのである。
絶え間ない投石によって、カルデーニオ要塞は廃墟同然になっていた。城壁のことごとくが崩れ落ち、城内の建物も原形をとどめているものを見つける方が難しくなっていた。